八
「
お延はすぐ断った。彼女の言葉には何の
「あたし、厭よ。岡本へ行ってそんな話をするのは」
お延は再び同じ言葉を夫の前に繰り返した。
「そうかい。それじゃ
津田がこう云いかけた時、お延は冷かな(けれども落ちついた)夫の言葉を、
「だって、あたしきまりが悪いんですもの。いつでも行くたんびに、お延は好い所へ嫁に行って仕合せだ、厄介はなし、
お延が一概に津田の依頼を
「そんなに楽な身分のように
「あたし吹聴した
津田は
お延は偶然思いついたように、今までそっちのけにしてあった、自分の晴着と帯に眼を移した。
「これどうかしましょうか」
彼女は
「どうかするって、どうするんだい」
「質屋へ持ってったら御金を貸してくれるでしょう」
津田は驚ろかされた。自分がいまだかつて経験した事のないようなやりくり
「御前自分の着物かなんか質に入れた事があるのかい」
「ないわ、そんな事」
お延は笑いながら、
「じゃ質に入れるにしたところで様子が分らないだろう」
「ええ。だけどそんな事何でもないでしょう。入れると事がきまれば」
津田は極端な場合のほか、自分の細君にそうした
「
細君が大事な着物や帯を自分のために提供してくれるのは津田にとって
「まあよく考えて見よう」
彼は金策上何らの解決も与えずにまた二階へ
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