三
「おい何を見ているんだ」
細君は津田の声を聞くとさも驚ろいたように急にこっちをふり向いた。
「ああ
同時に細君は自分のもっているあらゆる眼の輝きを集めて一度に夫の上に
「そんな所に立って何をしているんだ」
「待ってたのよ。御帰りを」
「だって何か一生懸命に見ていたじゃないか」
「ええ。あれ
津田はちょっと向うの宅の屋根を見上げた。しかしそこには雀らしいものの影も見えなかった。細君はすぐ手を夫の前に出した。
「何だい」
「
津田は始めて気がついたように自分の持っている洋杖を細君に渡した。それを受取った彼女はまた自分で玄関の
夫に着物を脱ぎ換えさせた彼女は津田が
「ちょっと今のうち
津田は仕方なしに手を出して
「湯は今日はやめにしようかしら」
「なぜ。──さっぱりするから行っていらっしゃいよ。帰るとすぐ御飯にして上げますから」
津田は仕方なしにまた立ち上った。
「今日帰りに小林さんへ寄って
「そう。そうしてどうなの、診察の結果は。おおかたもう
「ところが癒らない。いよいよ厄介な事になっちまった」
津田はこう云ったなり、
同じ話題が再び夫婦の
「
「やっぱり医者の方から云うとこのままじゃ危険なんだろうね」
「だけど厭だわ、あなた。もし切り損ないでもすると」
細君は濃い
「もし手術をするとすれば、また日曜でなくっちゃいけないんでしょう」
細君にはこの次の日曜に夫と共に親類から誘われて芝居見物に行く約束があった。
「まだ席を取ってないんだから構やしないさ、断わったって」
「でもそりゃ悪いわ、あなた。せっかく親切にああ云ってくれるものを
「悪かないよ。相当の事情があって断わるんなら」
「でもあたし行きたいんですもの」
「御前は行きたければおいでな」
「だからあなたもいらっしゃいな、ね。
津田は細君の顔を見て苦笑を
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