第3話:名前の発想がちょっと中二病過ぎる

「『デイブレイク・ファンタジー』の世界にようこそ」

「あーはいどうも」


 意識が切れるような感覚の後、視界が切り替わる。

 体がいたのは真っ白ってか、まっさらな空間だった。

 スノードームの中にぶち込まれたような……いやまぁ作られた世界にダイブしてだから間違っちゃないんだけど、何千回繰り返しても慣れない不思議な感じが体を巡って消えていく。

 久々の感覚になる、半年くらい行き来なかったし。眼前には妖精としか表しようがないモノがいて、これもまた酷く懐かしい。


「キャラクリお願い」

「畏まりました。その前に、ログインアカウントはどうされますか?」

「ID********のパス********」

「……はい、完了致しました。ようこそ、*様」

「ウィンドウ頂戴、説明も誘導もいらないから」

「畏まりました」


 ゲストアカウントでやる意味も無いのでVR垢を紐付けし、早速現れたキャラシートの空欄の上から触れていく。手際良くパパっといこうか、こんなとこに時間文字数使ってらんねぇし。


(種族は人間で職は……無難にサバイバーかな)


 キャラクリで決めることは名前、種族、職業、スキル、ステータス、外見の六項目。

 適当に手元のディスプレイにぽちぽちと入力していき、事前に決めていた職を探す。


(んー、ソロでやるなら冥王が安定だよなー……どうせ死神になるなら全部腐るっちゃ腐るけど)


 二年間続いたデイブレイクファンタジーの歴史の中で、ランカー達に結論・・と言われた幾つかのビルド。

 単体性能を重要視し、白兵戦が大好きな私は、新キャラ作るとなっても正直前衛以外やる気は無くて、そんな前衛厨にとっての結論ビルドは『冥王』『極』『戦神』の3つだった。


 それぞれ『冥王』は一部結論ビルド以外殺せない耐久性能、『極』は条件を満たしたある職業を除きデイブレ最強の殺傷力、『戦神』はデイブレ最強の単騎性能を持ち、なそいつらは、どれも完成させるのは非常に手間だが、極まった時の性能はそれはもう凄まじい。


 私は諸事情あって『死神』やってたけど……まあ最適解を知ってる以上、改めて一から始めるなら目指さない理由は無いし。


「別に冥王ゾンビ出る頃には死神だろうし、そも超物理もステも十字架で潰しが効くしね」


 リストを就職人数順でソート。剣士が一番上に来たため昇順に切り替えて、画面にマイナー職がずらーっと並ぶ中から選択したのは"サバイバー"。

 どうせみんな戦闘向けの職就いてんだから私の目的物はマイナーだろとかいう適当理論で整理して、案の定最下位辺りにあったのが笑ってしまう。


職業クラス:サバイバー

 環境を活かした戦いが得意。時に環境を自ら作り、過酷な状況も有利な状況に変え、空間把握力で有利を取る。

 職業クラススキル:『マッピング』『罠』『潜伏』『調合』『空間把握』『空間機動』『サバイバル』』


『スキル・マッピング

 方向感覚に補正』

『スキル・罠

 罠の完成度と効果に補正』

『スキル・潜伏

 隠密行動に補正』

『スキル・調合

 調合の成功率と完成度に補正』

『スキル・空間把握

 空間把握能力と知覚能力に補正』

『スキル・空間機動

 身体能力に補正』

『スキル・サバイバル

 様々な野外行為に補正』


「絶妙に戦闘力に直結しねー」


 苦笑。なにわろとんねん。

 その職業に就いた時に自動で習得するのがクラススキルだけど、サバイバーの場合字面から一見探索向きに見えてその実、戦闘スキル無しでステータス成長量が低い、事前準備無しのタイマンならPVP、PVE共に最弱な職業だ。

 就くのは縛りプレイの一環じゃね? と言われる程には、現時点のβテスター達の評価は低かった筈だ。


「そんな職業が最後には最強の初期職なんて言われてんのが面白いよなぁ」


 冥王の前提条件を満たす職は幾つかあるが、その内サバイバーは唯一を2つ持っている。それだけの理由で評価されるのがデイブレの最終環境で、その時々で変わる他人の評価基準はアテにならない良い例でもある。


 ……どうでもいいけど、βテスト時の職業名は"野生児"だったことをふと思い出した。名前へのクレーム酷かったのかな? 私は野蛮で好きだけど。


(んで、あとはスキルとステと外見か。外見は雑でいいとして……)


 このゲームのスキルは取得数に制限は無いが、職業や戦闘方法等で取得可能なスキルが変わる他、仕様だ。

 別段VRゲームなら珍しくないシステムだけど、自由度と戦闘力をいい塩梅に制限するので個人的には好きなタイプではある。


 確か職業に武器スキルを持っている上で、ことで転職出来るのが"極"系列の職業だっけ。……うーん改めて羅列するとクソ過ぎん?


「……まーこんなもんかな?」


 成長速度はプレイ時間で、技術はプレイヤースキルでごり押せるので、欲しいものを取り対応力を上げるのが私のプレイスタイル。

 最低限欲しいもの、合成元、事前条件をパパっと選び、ステータス画面に移行。

 それなりの数にはなったが、結局のところ如何に合成で有効スキル積みながらスキル数圧縮出来るかだからねこのゲーム。最初多くても最終的には気にならなくなるし問題無し。


「補正どうしよ、確かサバイバーはAGIとDEXが1.1倍でー……STRとVITが0.7だか8倍だっけ?」


 このゲームのステータスには実数値と補正値の二つがあり、初期配布の22と、1レベル毎に2獲得するステータスポイントの割り振りで上昇するのは補正値の方。

 例えばの話、ステータス欄に表示されるHPが0の場合それはってだけで、実際には元となる数値……仮に1000とするが、まぁそれだけ実数値は存在する。

 その前提でもしHPに1振れば実数値は100くらい伸びるし、それに職業補正が掛かってれば更に20とか30とか増減するのがデイブレだ。

 大体ガチガチの前衛職とか後衛職とかは主要補正値が強力だけど、サバイバーみたいななんとも言えない奴は微妙なんだよなー……


「……どうせ転職するし好きに振るか」


 最終的にはAGIゲー甚だしいのだが、初期攻略も考えると暫くはSTRも振るべきかなぁ。

 MPはそんな使わないし、SPもアーツは使わないってか使えないし必要無い。耐久ステは当たらなきゃいらねえし、魔法ステは振る方が弱くなる。


 外見はだるかったのでほぼ弄ってない、少し髪を切ったくらいに収めた。うーん相変わらず絶世の美少女。


「よし完成」


 予め決めていた名前を埋めて終わらせれば『この情報で確定しますか?』というウィンドウが現れる。

 改めて出来上がったキャラシートは、過去に比べてなんとも量が寂しくなっていた。


『PN:セイ 人間

 職業:サバイバーLv1

 ▪ステータス

 HP体力:0

 MP魔力:0

 SP気力:0

 STR筋力:11

 INT知力:0

 VIT防御力:0

 MND精神力:0

 AGI機動力:11

 DEX技術力:0

 SECRET+隠しステータス【今は表示出来ません】

 ステータスポイント:0 

 ▪習得スキル

 職業クラス

『マッピング』『罠』『潜伏』『調合』『空間把握』『空間機動』『サバイバル』

 魔法『風魔法』

 防御『被弾上限』

 身体『集中』『加速』『疾駆』『跳躍』『視力強化』『脚力強化』

 肉体『STR強化』『AGI強化』

 探索『水泳』

 生産『合成』

 特殊『虚空接続』『緊急召喚』』


『スキル・風魔法

 熟練度と行動に応じた風魔法を習得するようになる』

『スキル・被弾上限

 被ダメージが最大でも最大HPの50%になる

 ※元の被ダメージによる上限超過分の肉体ダメージは無くならない』

『スキル・集中

 集中力に補正』

『スキル・加速

 加速力に補正』

『スキル・疾駆

 瞬発力に補正』

『スキル・跳躍

 跳躍力に補正』

『スキル・視力強化

 視力が上昇』

『スキル・脚力強化

 脚力が上昇』

『スキル・STR強化

 STR補正が上昇』

『スキル・AGI強化

 AGI補正が上昇』

『スキル・水泳

 水泳行動に補正』

『スキル・合成

 MPを消費し、素材と素材を合成する

 ※完成度は材質と合成先に依存する

『スキル・虚空接続

 MPを消費し、その場で任意のアイテムボックスを開く』

『スキル・緊急召喚

 MPを消費し、任意の場所に任意のアイテムを召喚する』


「……ま、不備はないでしょ」


 SECRETが今だからこそクッソ見たいが、に会わない限り見れないため断念しキャラクリを終了。

 名前の発想がちょっと中二病過ぎるかもしれないが、まぁ私だけにしか意味は解読できないしいいでしょ別に。


「……はい、プレイヤー情報の登録に成功ました。『セイ』様、早速ログインされますか?」


「あー、うん、んじゃあ最後に幾つか」


 本来ノータイムでYESを突きつける場面なのだろうが、私はこのゲームをもう一度始めるに当たり気になっていたことを尋ねてみた。


「"怪物"……あんたらに言わせたら"外敵"か。で、アレはさ、お前らにとって明確に区別してる邪魔物なわけ?」


「お答えしかねます」


「"白夜"、"黒朝"、"絶対存在"、アレらと"外敵"はどう違う?」


「お答えしかねます」


「じゃあ"外敵"についてなんでもいいから、話せ」


「お答えしかねます」


「なら最後に、"絶対存在"らは殺していいの?」


「非推奨です」


「あぁ、それは答えるんだ……ふーん、あっそ、ありがと。じゃあ行きますか」


 大した収穫はなかったが、まぁそれはそれ。大して気にせず軽いストレッチから伸びをした。



探すしかないか)



「知りたければ私を探すか自分で調べろ」と宣うクソ野郎の顔を思い浮かべ、気分を害しながら唱えたのは「ログイン」という魔法の言葉。



 直後に下から白い光が吹き上がり、それは巨大な蛍の群れのようになって、私を、世界を、包み隠して、連れ去るように消えて行く。






「新世界へようこそ、『セイ』様」











 "既知の世界なんだよなぁ"と吐き捨てながら私は光に溶けた。

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