第2話:ひさびさのおさけなのに……

 二周目、それはなんとも甘美な響き。

 初見殺しされてキレることも、単純に強い奴に苦戦することも、不慣れなシステムで初心者特有の非効率ガバをすることも無く。

 ともすればエンディング√すら簡単に変えることが出来る、な状態が、現実で私に起きた。

 過去に戻れるなら人間誰しも戻りたいものであるように、私もこの出来事には心躍らせていた。


 もしも過去に戻れるとするなら、他の人はどんな事をするのだろう?




 生憎と私には後悔することなんかないのでただ純粋に楽しむだけだけど。






「……あの、雨宮ちゃんは16才だよね?」


「…………あ、はい、そうでしたね」


「もう! 飲酒は18才からですよ!」


 悲報、お酒が買えない。

 掠れた声で応えれば、叱るような声音で説教された。

 夜のコンビニで手に取っていたのはお酒。

 半年ぶりの現実だし、多分徹夜でゲームするからエナドリで割ってキメるつもりだったのだが、肉体年齢が16のため買えず無様に撃沈した。舐めやがって法律がよォ……

 久方ぶりに聞いた概念だが、流石に現実のそれを破る程私はパンクじゃないし……二年の感覚のズレを恨むべきか、私に酒の味を教えたこの顔馴染みの姉さんを恨むべきか。

 アルコールキメるために態々来たから、摂取出来ないと知ってテンションがダダ下がる。


 ひさびさのおさけなのに……あと一年以上お預けだなんてそんな……


「どうしてそんな死にそうな顔するの……」


「ああちょっとぶん殴りたい顔が浮かんだので」


「あれ君そんなバイオレンスだっけ?」


 冷静に考えたら二年前の体にタイムリープさせた奴が100悪いので私もこの姉さんも無罪だったわ。最もあの時代だと別の理由で手に入らないんだけどさ……あれこれ私世界救わなきゃお酒飲めない感じ? マジかよ未来変えなきゃ。俄然やる気がでてこねぇわ私の感性舐めんな。

 取り敢えず酒の代わりにスポドリをカウンターに並べて会計を済ませ、引き顔の姉さんを後に店を出る。


「生暖かい、というか温い」


 外気に触れて出た感想。

 絶妙に苛つく加減のそれだ。

 街灯が照らす道を歩き、建物達がどんどん通り過ぎていく。

 空を見上げれば綺麗な夜空を縁取るように建物の影があり、生活の営みによる光が星明かりを妨げていた。


「眩しくて不快、全員死ねばいいのに」


 まぁ何れ更地になる光景なんですけど。

 私だけが知っていて、そしてきっと誰一人として見ることは無い景色。

 別に私以外がどうなろうと知ったこっちゃないし、多分私のすることなんて誰にも気付かれないもんなんだろうけど。

 下手人への個人的な復讐の過程でそうなるんだから、人類は私に感謝して欲しい。崇め奉られねぇかなぁ、私。なんで夏夜に私が出歩かなきゃいけねぇんだよ、ゲームみたく使用人でも欲しい。


「あ、スポドリつい空けちゃった」


 気付けば暑くて飲み物に口を付けていた。意志薄弱で短絡的だなコイツ本当に。






 ──人類滅亡を唱えたとして、それを信じる者はいるだろうか。

 仮にいたとしたら狂人だし、私は関わり合いたくないと思う。


 まぁ、提唱者が私ってのは随分と皮肉なものだが。


『目標:怪物及び神の殲滅

 条件:被害無しの完全勝利

 └方法:本格活動前の殺害

 直近の方針:レベリング、装備強化、転職、仲間作り?

 └レベリング:高効率の狩場周回、ソロボス、クエスト

  └:『──』『──』『──』『──』『─…

 └装備強化:遺装収集、天楼作成(双雷双、爆刀?)

 └転職:ネクロ→冥王→死神が理想、

 └仲間作り:ギルド?(集まるか?) 、掲示板勧誘?(不明瞭)、攻略wiki作成?(コスパクソ)、配信?(望み薄)』


「……ネックはやっぱ人手かなぁ?」


 サービス開始が迫る中、散らかったままの部屋で計画表のようなナニカを書き起こす。


 それは未来から来た私が記憶から書いた参考資料。


 実の所、このままいけば二年後にこの世界はぶっ壊れる。

 理由は


「文字に起こすと余りにも世迷言だぁ」


 そのゲーム……"デイブレイクファンタジー"の廃人連中は、現実に干渉出来る普通の経験値モンスターとは違う異形の化け物──"怪物"と呼称する奴らと戦って……どんどんと死ぬか引退するかでプレイヤーが減る世界の果てに、私達は敗北した。

 その結果齎されたのは終末で、現実もゲーム世界も正しく阿鼻叫喚。

 色々と負けた理由はあったけど、その内の一つこそがPVEだったことだ。


「……元々このゲーム、PVP


 この御時世VRゲームなんて幾らでもあって、アナログゲームと違い、VRゲームはプレイ中にそれしか出来ない。

 故に、複数のゲームを同時に抱えることが出来ない多忙な私達ゲーマー達は、サイトやインフルエンサーにおすすめされる自分にとってがしたいものだ。

『冒険がしたいならこれ!』『対人戦がしたいならこれ!』と溢れかえっていく時間の拘束具達は、自分が優れている差別点でプレイヤーと勝負する。


 その点デイブレはバトロワがメインコンテンツのゲームであり、広告もそれを前面に押し出すように、自分の特徴を神ゲーと崇めるユーザー達が集まっていく環境だ。

 態々そんなゲームにPVEをやりにくる奴なんて相当な色物か、初めてVRゲームを買った初心者かの二択になる。


「そりゃ人が集まるわけねぇんよな」


 私個人が楽しいから怪物は一人で皆殺しにしたいんだけど、ゾンビウイルス撒き散らしながら侵攻するカスの大軍とかは、流石に人がいなきゃどうにもならないだよねー。

 何かしら簡単に味方を作る方法を考えるが、如何に私が天才と言えど良案はすぐ浮かばない。

 おっかしいなぁ私頭良い筈なのに。脳細胞死んでね? 寧ろ物理的に若返っているんだけどなぁ……


「……ま、その内なんか浮かぶでしょ! 」


 思考が煮詰まった時の常套手段思考放棄を炸裂させ、スポドリとエナドリのカクテルを胃にぶち込んでVR空間接続機を被る。

 折角眼前に二周目のリリース直前VRMMOっていう面白そうなものがあるのに、態々頭捻って思いつかないこと考えてもしゃあないし。


「やっべぇ絶妙に不味い吐きそう」


 直近でどうにか出来ないときは未来の閃きに託すのが私のスタイルだ、圧倒的カフェインと栄養によるガンギマリニューロンくんならきっとどうにかしてくれるでしょ! 知らんけど!


「いや今まさにどうにかなりそうなんだけど」


 時計の長針があと一周。


 24時までの残り時間は、頭の冴えと腹の反逆によりとても長く感じた。

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