巡った出会い

馬車に揺られ丸5日

隣国は大きく立派だと聞いていたが、城までも美しく大きかった。



自分の夫となるべく人が今日告げられるのかまだ決まっていないかもわからない


お父様はきっといい人が選ばれているはずだとあいまいまことを教えてくれたのみ


「姫様、微力ながら私もついております。」


1人ではありませんと、力強く見てくれるミレア。

年は10ほど離れているが、ずっと長いこと私の側にいてくれた。そして今回も誰よりもはやく一緒に行くと名乗り出てくれた侍女でもある。


「ありがとう。本当に心強い」


一定のリズムを奏でながら綺麗に舗装された道を進むと美しい正面玄関へとたどり着いた



「ねぇ、ミレア。私てっきり人質だと思っていたのだけれど。正面玄関に通されるのは王族だけではないの?」


「姫様も王族です」


一応…と自信なさげに続く彼女を見ると目を大きく開き驚いていた。


自国とは多少の文化の違いはあるとは思うが、教養として学んだ他国含むマナーでは正面玄関は王族またはその国にとって重要なお客様のみの非常に尊い入り口のはず。


2人で状況がわからず、固まっていると馬車は静かに黒く大きな豪華に装飾を施された扉の前に着いた。


扉はすでに開いており、中には何十人もの使用人が並んでいるのが見えさらに訳がわからなくなる。


ちょうど止まったところで待機していた執事らしき人が深くこちらにお辞儀をすると馬車の扉をゆっくりと開けてくれた




「スティール王国、姫君。ようこそ我が国へ。

 お待ちしておりました。」


手を差し出され降りるとビシッと皆さん揃って礼をされる


後ろでミレアが降りる気配と


馬車回しを去っていく馬と車の音だけが鮮明に聞こえた





城に到着して2日目


お疲れだからだろうと通された部屋は立派な一等客室だった


十分すぎる休息を与えてもらえたものの、バラルク国王からは音沙汰なく過ぎ今に至る。


丁重なのに対応してくれてるのかどうなのか


むしろどうでもいいからとりあえず丁寧に対応しておけみたいな感じなのか




響くノックの音と共に昨日の執事らしき声がした


「姫君、午後お時間よろしいでしょうか」


ミレアと顔を見合わせて、呼び出しの時がついに来たと覚悟を決めた






大丈夫大丈夫、殺されることはないはず。


私なら無事終えられる


静かに開かれた扉の奥には貴族らしき人たちが多く待っていた


ここにいる人間はきっと自分のことを快くは思っていないのだろう

中に入ると沢山の貴族の視線を感じる


だがどれも刺さるようなものではなかった


有効的にも感じ取れてしまうのは彼らが大人で優秀であるがゆえなのだろうか


真っ直ぐと進むと玉座の前へと着く


たとえ最近王となったものでも、歳が少し上くらいらしくとも身分の低いものから視線を交えてはいけない



玉座手前の床を見つめ意識しながら、膝を折る。


「カーメルラーナ・スティールでございます

 王へとご挨拶申しあげます」


挨拶を返す声ではなく、はたまた無視をされているというわけでもなくただ階段を下る硬い足音が聞こえた。細長く照明が反射するほど黒い皮靴が目の前で止まる。


「カーメルラーナ殿、お顔を上げていただけないだろうか」


美しい湖畔を思い出すような声。この距離だから感じたのかもしれないが少し震えていたように聞こえる。


視線を目の前の王へと移すとそこには


黒い瞳と黒い髪

湖畔の彼が美しい服を纏ってこちらを凝視していた


お互い固まっていたのはしていたのは10秒もないかもしれない



「カーメルラーナ殿」


ふわっと差し出された手に反射的に重ねてしまうと共に階段の上、玉座の前へと連れ出されてしまった。訳がわからずノアの手元を見ることしかできない。



「カーメルラーナ・スティール姫の婚約者はノア・リコハリス。彼女には次期王妃となっていただく。」



驚いてノアを見る

階段下からははっきりと驚きのどよめきが広がっていた


ノアはニコリとこちらへと微笑み


「今後については明日の国議にて執り行うこととする」


カルラの手を引くと間を後にした


出てすぐのときふと疑問に思う

自分はノアと会う時にいつも髪色は変えていた

服だって全然違う。よくわかったものね、と。


廊下の美しいステンドグラスを背に立ち止まったノアはそれだけで絵ができてしまう


少し伸びた黒い髪をさらりと肩からこぼし、私と同じ目線に合わせてくれた。

まっすぐと見られる黒い瞳は夜のようだがゆるく下がった目尻が調和する



『服装も雰囲気も髪の色だって違うけれど、ぼくは君の優しい声と瞳を間違えないよ。』


真っ直ぐとこちらを覗く視線は反らせない


『あの時助けれくれたこと、心より感謝してる』


『ありがとう』


半歩下がった彼は頭を下げた

あまりに恐れ多い行動に驚く


「ご無事で何よりです

まさか陛下だとは思わず不敬なこともたくさんしてしまったと思います」


それでもこうしてまた再開できるなんて思わなかった。まさか彼と一緒にいられる地位をくれるとも思ってなかった。


もう一度視線を合わせ、ニコッと嬉しそうな彼。


『美しい心の姫君、やっと見つけられた。


僕はひどい大人なので、これからはこの手は離さないし去る君を見送ったりなんてしません。ただし、ずっと大切にすることを誓うよ』


「私も、私も出会えるなんて。

 ありがとうございます。嬉しいです」

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