隣国の王
出会ってから数日後。
ある日の授業前、たまたま余裕をもって出られたのでお話でもと座ったところで突然切り出された。
「長くお世話になりました
あなたのおかげでケガ一つ残らず元気です」
ノアはふわっと微笑むと腕や首などを見せてくれる
「今日、僕を心配してくれている人たちのところへ戻ろうと思います」
「そっそれはよかったです」
なにも直ぐに出ていかなくても
まだ回復はしていないのでは
ここにずっといても…とか
言いたいことがたくさん胸につっかえてくる。
しかしノアを待っている人がいると言った。自分が逆の立場で大切な人が安否不明であると想像すればそんな残酷なことは言えない。
「これでお別れなのはとても寂しいですが、これから向かうところでも幸せに過ごされていることを願っています」
その後の会話は最後とは思えないほど、再会するのに必要になるであろう情報なんて一言もされることなく終わりを迎えた。
授業をサボるわけにもいかず立ち上がると、ノアもついて来きてくれる。
小屋から少し歩いた先でノアは止まった。
隣の気配がなくなったことに気づき
反射的に振り返ると、太陽が輝く元で見るノアはとても優しい表情をしてこちらを見ていた。
それから季節がひとつ進み、日差し鮮やかな暑い季節がやってきた。
この国のほとんどは水で成り立っているため、日照りなど続いても生活や農業に困ることなく皆いつもどおりの生活を送っていた。
しかし、王家は騒がしい。
スリティールは代々続く偉大なる王家であるが、今世の王は優しくも頼りない人だった。
春の戦争で隣国、バラルクが内戦の一歩手前まで荒れたことは小心者ゆえの情報でなんとか手に入れ自国にもその波が少なからず影響を与えようとしていることに怯えることしかできない。
王太子の弟およびその貴族派は過激極まれりと聞くないなや、自国を狙わないことを約束に王太子が万一生き延びて見つけた場合は引き渡すことを約束し加担してしまっていた。
そしてこの夏。
隣国の表には出ていない揉め事は終着したのである。狙われ行方不明となり死亡推定とされるまであと少しというところで王太子は傷ひとつない姿で戻ってきたらしい。その後はあっけないほど簡単に事態を収束し即位したと聞く。
焦ったスティール王に王太子、もとい現在では国王となったものから正式な謁見文が届いた。
賠償金だろうか
無謀な貿易だろうか
自国の民を兵として差し出せだろうか
そもそも自分を見せしめに殺しにでもきたのだろうか
恐怖しか伴わない想像しか出来ないまま、猶予などくれるはずもなく早くも手紙を受け取ってから2日後に若き国王はやってきた。
「はじめまして、スティール王。
時間を取ってくれたこと感謝する」
スティール王は国王が到着するやいなや死刑宣告をするのではと覚悟をしていたのだが
彼は怒りも憎しみも何も感情のなく淡々と1週間の滞在の許可と王家の姫をひとり自国に引き渡せと言う
「スティール王につきましてはさぞ心配ではありましょう。実質人質と変わりない。
しかし私たちとしても罪なき姫君に酷なことを強いたいとは考えておらず
必ず当国の尊き者、加えて年の近い好青年を選出することを約束しよう」
娘はとても大切にしている。
非情な申し出を想像していた中では出てこなかったもので、その時はとても願ってもない約束に拒否などするわけと思っていた。
冷静に考えれば可愛い娘を人質とされるのに
外に並んでいる豪華な馬車へ全身黒色の豪華な軍服に身を包んだ男と数人の部下がもどり、なにやら話している様子を自室からのぞいているとふとノアを思い出す。
「下に見えるのはバラルクの王、御一行?」
自室待機を父にいわれ、大人しく紅茶を飲もうと準備をしてくれていたミレアはちらりと窓を見る。
「えぇ、どうやら謁見は終わったようですね。」
この部屋からは高い位置にあり、入り口まで遠いため新しい王様がよくどんな人なのか見えないのが惜しい。
「どんなお話をされていたと思う?やっぱり私たちは弟の味方をしたから何かしら罰があるのかな」
「国内の反逆一派は皆殺しされたそうですが、あくまで我々は隣国。しかももし逃げてきたら教えること程度で、実際には見かけても匿ってもいないのです。きっと大丈夫ですよ」
下には数匹の馬が連れてこられ、新しい王様は軽く跨ると1人の部下のみと颯爽と城を出て行った。
同時に部屋の扉からノックオンが響いた
「姫様、陛下がお呼びです。」
ミレアと顔を合わせる
話の内容を教えてくれるにしてはやや早すぎる
嫌な予感がしつつも返答をするしかなかった
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