束の間の縁
「小さいけれど、手入れはしていますわ」
寝泊まりはしていないが、一通りの家具は揃っている小さな青い屋根の家。
1番近い村でパン屋を営んでいる奥様がお得意さんだからとよく気を遣ってくれ、保存のきく食べ物をまとめてくれるため生活はできるようになっている。
ドアを開けて、中に入ってもらおうと振り返るとノアはふらふらとしているが歩けている様子。
先ほどの場所でしばらく動けなかった彼に遠い距離ではないからと肩を貸そうとしたが断られた。
少し時間を置いたらなんとか歩けるまでになったらしい
ノアは入り口の前で止まりまった
入ろうとしない
「お入りくださいませ?」
「さすがに血と泥とで申し訳ない、川で水でも「中にお風呂あります」
瀕死だったのだから清潔にして早く休むべきなのに
さぁさぁと彼の手を引いて案内をする。
「お洋服は…ずいぶん前だけれどお兄様が置いていったものがあるはずです。すきに使ってください」
まだ申し訳なさそうにする彼の顔から次の言葉は容易に想像できるため、何か言われる前に扉を閉め去る。
キッチンに戻りふと落ち着いたからだろうかお腹の空きを感じた。
怪我人目の前に1人でガツガツ食べるわけにはいかないだろう
だいぶ回復したのはいえ、あの状態からいきなりパンなど固い食べ物は難しいだろうし
とりあえず果物をむいて用意しておけば無難だろうか。
「お風呂ありがとうございます。あと服も。あの水、温かかったですよね?気のせいかと思いましたが…」
確かに風呂場の水は暖かい
湖の一部からお湯が湧き出ており、水と混ぜて溜めておける仕組みだ。
冬場は大変助かっていて、全国民が毎年感謝している。
「熱湯が湧き出る場所があるんです、そこから引いていまして。暖まることができたならよきったです。果物を用意しました。食べられそうですか?」
一緒にいかが?と促すと黒い瞳が少年のように煌めいた
「嬉しいです。ありがとうございます」
小さなテーブルを囲んで座る
用意してある果物は日持ちするものがほとんどではあるが、最近置いて行ってくれたものばかりのようでどれもみずみずしかった。
フォークで刺して食べるノアを見ながら自分もしゃくしゃくと美味しいと食べ進める。
空腹時の食べ物は何倍も美味しく感じた。
「果実はそこの戸棚に保管されています。隣の箱の中にはパンや根菜類などがあります。ここで滞在されている時好きに使ってください」
あれとそれと指を刺して説明するとそれに合わせて視線を合わせてくれるノア
「食べ物まで、そこまで気を使っていただがなくても。今夜中には発ちます。これ以上迷惑をかけられませんよ」
「途中で倒れられたのではと余計心配になって落ち着きません。数日は滞在してください。」
食い下がろうとするノアに対し見返りを求めるのは本意ではないが提案するしかないだろう。
「ではこの国の民に誰でもいいです。いつか助けてあげてください」
「君ではなく?」
「必ず会えるとは限りませんから」
それは寂しいなとノアは笑う
「ではできればカルラに。あと、君みたいな少女が困ってたら手助けをすることを誓います。」
それは範囲が広いなと思いつついつか国民の誰かが救われる機会が一つでも増えることはいいことだ。
「ありがとうございます。
明日、また様子を見させに来てもらいますね」
時計を見るとそろそろ戻った方がいい時間になっていた。
ノアはゆっくりと食べていたようで、申し訳ないと思いつつ席を立ち自分の皿のみ片付けをする。
「この家は好きに使っていただいて構いませんので、どうかご無理はされませんようお願いしますね」
ドアの手前で振り返ると彼は座ったままだが深くお辞儀をした。
「今日、カルラに出会えたのは奇跡だと思う。心から感謝しています。しばらく迷惑をかけますが、よろしくお願いします。」
「そんな堅苦しくならないでください。元気になるのが優先です。」
それではと扉を出て、湖畔へ止めた船へと急ぐ。
カタンと城の裏にある小さな桟橋に船があたる
石の壁にポツンと存在する小さな扉の
どこまでも透き通る湖が有名な王国
面積の半分が水に占められている
残りは村や畑、多くは森の穏やかな環境。
中心となる王都は湖の真ん中に浮く島にあった
何百年も前なのか湖となった頃からあるであろう立派な島に石橋が長々と続く。
その裏にあたる対岸にそっと1人用の船をつける。
カタンという小さな音に反応したのだろうか小屋からノアが顔を出した。
「おはようございます、カルラ。」
「おはようございます、ノア」
ノアが滞在を始めてまだ3日というところ。
あれから毎日顔を出しているがカルラが着いた瞬間がわかるとはとても気配に敏感なのだろう。
顔色はとても良くなった
湿った日の土のようだった顔色はとても白く、それでもほほからは暖かさを感じる。
ノアがドアを開けたまま、入ることを促されたが
あいにく予定がある。
「ノア、ごめんなさい。
今日は奥の町で授業をする日でして
あなたのお話が聞けなくて残念です」
首を傾け、手に持っている茶色の四角い鞄を持ち上げ主張してみる。中には子供たち向けに作った文字や計算の教科書が入っていた。
「授業を?それが君の仕事なのですか?」
「えぇ、私が住んでいる街には学校がなくてこの先の町には先生が少なくて困っているんです。だから週に2日こうやってきているのです」
納得したようなノアの表情は節目がちになり下を少し向くので、そのまま絵画に残したいほど美しい。
出会ったばかりの頃は本人も衣類もぼろぼろだったため、気がつかなかったがノアは女の人のような綺麗な顔をしていた。
見惚れている場合では、ないのだった。
急ぎ学校へと向かう支度を小屋で始める。
「それでは、失礼いたします」
「お気をつけて」
にこにこと笑顔で見送ってくれるノアを背に早めのスピードで町へと向かった。
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