人助けをしたのに、私は人質になることが決まりました?

津々楽春人

湖畔で拾う

どこまでも青く透明な湖には昔


美しい妖精が住んでいたの。


彼らが少しずつ集まって、たまたまやってきた心の美しい人々と仲良くなり助け合ってできた国。


それが、あなたの生まれた国ヒュールなのよ。


あなたはきっと美しい人になれるわ

そして美しい心の持ち主にも

愛しているわ、私の愛おしい娘。



母の髪は世闇の湖畔に浮かぶ月のようで

自分を映す瞳は暖かい日差しの下で見る木々のようだった。


母と鮮やかな中庭の花畑で

穏やかな日常だった時間を話を、したことはとても覚えている。





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日差しが湖畔に反射して鮮やかな春


特に用事はないものの天気の良さに焦がれて思わず外に出てしまった。


いつもは週に2日の子どもたちに勉強を教えたり遊んだり交流のために町に行くのだが、今日はゆっくり散歩でもしようと思う。


最近同じ年くらいの女の子たちの間で流行っていると聞いた足元をずらない程度の動きやすいワンピースを翻す。

視界に入る花々よりも明るいピンク色のレースをところどころ使ったお気に入り。


水色の長いふわふわとした目立つ髪は赤茶色、緑色の瞳はそのままに気分よく歩く。



木々や自然を感じながら水辺に沿って続く道を歩きながらふと森側に視線を向けると



そこにはぼろぼろの人のようなものが転がっていた




人…?




気がついてしまったらスカートにあたる草も靴にはねる土も視界に入るも気にしている余裕など一切なかった。


慌てて駆け寄ると、それはまさしく人でまだ微かに息をしてる。


全体を見渡し出血の元を確認し、腹部から流れている血が原因だろうか



持っていた鞄からハンカチを取り出し抑えた

ふと袖から出ている手先は紫がかってみえる


血が足りない?もしくは毒的なもの?


体力の消耗か…毒か。

とにかく必死に彼を死なせない方法を考える。


ふと、万一のためと散々周りに言われてながら渡された薬を思い出した。


大丈夫、人助けのが大切。



これ以上悪化させることはないだろうとを蓋を開けた。


実際の効き目はよくわからないが


彼の口元に少し傾けて触れたところで、中の液体は彼の下に流れ込み反射的にではあるが飲んでくれた。



少しずつ顔色が赤みを帯びてくると同時に、冷えていた肩は温かくなってきた。


こんな即効性のある薬だったとは思わなかったが




「こんにちは、えっと、、生きていますか?」


少し待っても返事はなく、まさか自分のせいで、息の音止まった?


嘘でしょうと息をしているか手を伸ばしたところを

がっと掴まれ


「…テンシ?」


焦点の合っていない目はまだ自分を認識していない。


掴まれた腕の力は強くはなく、女の自分でも余裕で振り払えるほどだったため恐怖は感じない。


「ちがいます」


私は天国にいるつもりないし、天使でもない。


だが、ひとまず意識が戻ったことに安堵する。


髪の色を隠している今なんて特にどこにでもいる女の子にしか見えないはずの私が天使に見えるって、それくらい死を覚悟して目覚めたってことだろうか。


まじまじと彼を私も見てしまい、真っ黒な髪と真っ黒な瞳は冷たく暗く感じる色でも彼の瞳は優しい形をしている。


意識がはっきりとしてきたのか身につけている服まで黒の彼はゆっくりと手を離してくれた。


「助けてくれた?」


「はい」


「毒は」


「持っていた飲み物を差し上げたのだけれど…正直こんなにすぐ元気になれるものとは思わなかったです」


アーモンドのような瞳を丸くし驚いた彼は幼く見えたが、現状を理解しようと感じる強い瞳は自分より少し大人のようにも見える。


彼はまっさきに毒の心配をしたということは、やはり毒もあったのかと納得する。


「解毒剤だけではないはず…なにかすごく大切なものを使われたのでは」


「それはそうですが、いつ来るかもわからないものにそなえて見殺しにする方が難しいですよ」


ありえないと一瞬顔に出たが、すぐに視線を逸らし立ちあがろうとする彼を止める。


「まだ動いてはダメですよ。お急ぎでないのならばそちらの小屋、私がたまに使っているものです。数日程度なら生活するのに困らないと思います。」


指をさしていかが?と問う


「助かる。が、そこまで迷惑はかけられない。」




「また瀕死になられたら私がお声がけをした意味がなくなってしまいます。ぜひ」


少し強めに押しすぎた感は否めないが、今すぐ動き回られては彼の無事がはあまりにも心配だ。


「…ありがとう。」


しばらく考えた後、彼は安心したかのように笑いかけてくれた。


「私、カルラと申します。」


「ノア」



ノアとの出会いは水の反射が優しく舞う、日差しの柔らかい春だった。

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