第9話 お風呂にて
僕はときおりすごく気分が沈む。自分でもなぜかわからない。単純に反抗期だから、そういう時期だからだと思っていたこともあった。だけど、この周期的にくる鬱をそんな単純な原因によるものだと思いたくなかった。反抗期だとかいう、誰にでも当てはまるようなものだと思えなかった。周りの人がほんとうにこの蝕みを味わっているのかわからなかった。ただただ落ち込んでいるときもあれば、憎悪が煮えたぎるときもある。殺意が渦をまいて、他人を殺す夢を何度も見たことがある。自分が死ぬ夢もみたことがある。そう思えば、色々な夢をみた。お酒を飲む夢、セックスをする夢、人を殺す夢、自殺する夢、中絶させる夢、麻薬を吸う夢、指を切断する夢、糞尿を食らう夢、廃水に浸かる夢。どれもこの鬱の時期に見た夢だ。こういう夢を見る度に僕はリストカットをした。自傷行為こそが救済だった。いかなる美しい詩の一節もこの時期には駄文に見えてならなかった。審美眼が濁り、無気力や焦燥、鬱を併発しては自傷へ行き着いた。終着は自傷。いずれ僕は自殺するであろうことを予感した。
僕はこういうとき妊婦を無性に殺したくなる。大きくなった腹の中の子を殺したくなる。子宮の中でへその緒から栄養が送り込まれている胎児を殺したい。胎児という守られた存在がゆるせなかった。僕は夢の中で何度も中絶させた。妊婦は悲しみの中で勝手に死んでいった。出産は罪だと思う。赤子をみると、首を切断したい思いではち切れそうになる。僕は精神異常なのだろうか。この感情は反抗期、思春期を過ぎれば終わるのだろうか。自傷して冷静になるまで、僕は赤子の柔和な笑顔を直視することができなかった。たとえ夢の中であっても。
お風呂を出た。脱力感におそわれては身体は火照るばかりだった。
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