第5話 安心してください

その女の子は、あの女の子だった。漫画が買えなかったあの子。一旦挨拶するか。

「こんにちは」

「え、あ、こんにちは」

すごい見つめてくる。それも、えぇ……、なんかやば……、みたいな顔で。あ、ズボン履いてないからだわ。

僕はズボンを履き、ベルトを締めた。パンツくんは黙って突っ立っている。女の子も同様である。

「君はどうしてここへ?」

「私は召喚した魔物を追って……、あなたは?」

「僕はこの教室で寝たら、この世界に来たんだ。君、もしかして超力を使えるの?」

「いや、さっき初めて使ったの。そしたらそのパンツの魔物が出てきて、逃げ出しちゃって……」

パンツくんを呼び出したのこの子だったのか。ていうか魔物なんだ。

「こいつ、捕まえなくていいの?ってあれ」

パンツくんいないじゃん!まさか逃げ出した?全然気づかなかったが。

「今さっき消えたわ。たぶん召喚できる時間が限られてるのかも」

女の子と完全に2人きりになってしまった。

「あなたは紙切れ持ってないの?」

「紙切れ?」

ほらこれと言って、女の子がポッケから取り出したのは小さな紙切れだった。そこにはめっちゃちっちゃくこう書いてあった。

「汝、“ひきよせ”の能力を持ちたる超人なり。その能力を用いて、魔物を召喚すべし。その魔物、解説役なり。」

こんな親切な紙切れあったの!?ひきよせ……。

「いいな、僕はこういうの持ってないよ」

「なぜかポッケに入ってたの。この世界に来たとき」

一応、ポッケの中を確認してみる。何も無かった。

「なんで僕は親切設計じゃないんだよ!」

「逆になんで私はこの紙切れをもらえたんだろう?」

「さあ?それにしてもよく魔物を召喚できたね」

「なんだかよくわからなかったけど、念じたら出てきたの」

念じたらパンツ出てきたのか……。

「へえ……、てことはパンツ好きなの?」

あ、顔が赤らんだ。

「全然!あなたってノンデリなのね!」

「ご、ごめんなさい!」

改めてみると、やはりかわいい顔をしている。さらさらしたボブの黒髪。丸顔。巨乳……、Eカップくらいかな。制服がとても似合っているちょっと知的で優しげな女の子。そういう感じを受けた。なのでボソッと言ってしまった。

「めっちゃモテてそう」

「え?」

「いや……、えっと」

「私そんなにモテてないよ。中学生のころは不登校だったし」

瞳に暗がりが現れた。びっくりして、なにか気の利いた言葉を探したけれど、何も出てこなかった。気まづかった。

「あなたはモテるの?」

「全然だよ、中学のころは女子と全然しゃべらなかったし、高校は異性どころか同性ともほとんど喋ってない」

「え!私も全然友達できない!」

「あ、友達はひとりいるけど」

「え、裏切り者」

「ええ!?」

友達ひとりもいないかよ!そう思った途端、視界がぐらぐら、ぐるぐる……。ハッ!僕は現実世界に引き戻された。正面には鬼面の先生が仁王立ちしている。

「いつまで寝てんだ!」

時計をみると、授業開始から半分は過ぎていた。時間は同期してるのか!椅子は……、なんともない。

「どこ見とるんだ!!もう辛抱ならん!立って授業を受けよ!!」

もっと怒らせてしまった。椅子から立ち上がると、とんでもないことに気づく。

安心してください、履いてませんよ。

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