第10話 白銀の誘惑
教室から出てすぐ、第一の奇妙。
”つるんつるんの床の音“が気になってはいるものの、いつのまにか二人きりで話が弾んでいた。
「あぁ、やっぱり朝だから二号館の方には生徒がいないね」
「ふーん、それなら動きやすそうじゃん」
「入ってすぐのここが図書館って言って──」
はん!?
目の前に現れたのは紙の本!そしてソレがこれでもかとギッチリと詰め込まれた棚の数々!
「えぇぇえ!こんなに大量の紙の本初めて見た!私紙の本好きなんだよね!」
紙の本!
沢山!
うわぁぁ!
伝説上のみに存在しているであろうと思っていた……こんなの宝の山だ。ユートピアだ。独り占めしたい。私のものであってほしい。
「そ、そうなの?」
私は一冊を取りだし、ペラペラと語る。
「この重量感!紙の匂い!ページを捲る感覚!これだよこれ!たまらないね! ……泣きそう……」
はぁ。これだけでも地球に来て良かった。ありがとう本の著者、ありがとう地球の産みの親。ありがとう授業。
私は自由だった。
「あぁ、わかる。電子書籍には無い手元にあるという安心感があるよね。」
興奮のあまり私が紙で出来た本たちに思わず頬ずりしようとすると、
「それは流石に……やめよ?」
灰色くんにそっと止められた。
大袈裟だった私は冷静さを取り戻した。恥っ。
「一冊だけ読ませてくれない?」
「本を?」
「お願いお願い。」
「断る気はないけれど、 待たせてるんじゃないの?友人さんを。」
「大丈夫。私はあの子達のコト、よくわかってるから。」
どうせ私が集合に時間がかかるということを分かった上であの子達も出向いてくれるだろうから……。
空席に着いた私は手に取った本に吸い込まれていった。
主人公になりきり、ズブズブと読み進めていく。
その本のあらすじは男が女神へこの世界に対する自分の仮説を伝え、その答えを目指すべく冒険が始まる、というものだった。
……
灰色くんは退屈そうに不思議そうに私を見ているのだろうか。
でもお構いなしに読むんだけれどね。
……
「あー。面白かった。」
「なかなか何にも考えず手に取った本でそんな感想にならないけれどな。僕は。」
「そうなの?」
とりあえず地球の紙の本を読むことが出来て、私のやりたかったことリストがまたひとつ更新された。よしよし。まだまだこれからだ。
あのぅ、すみません、この棚一つ分持ち帰っていいですか?
ま、無謀か。
「こっちに行くと──」
図書館を出て彼の素敵な説明の途中で私は立ち止まった。
「ん!?何これ!」
え!かわいい!知らんけどとてもかわいい!
「蛇口だけど。」
「“ジャグチ?”えー!かわいい!」
「はぇ、へぇ?」
「そう!このフォルムといい、この艶といい、突き出た感じといい、すんごくかわいいじゃん!」
えー、なにこれ。本当にかわいい。愛おしい。こっちこそめっちゃ持って帰りたい。お土産に30点ほど頂きたい、部屋に飾りたい、専門店を開きたい。あぁ、誰か~助けて~。
「えぇ……か、かわいく見えてきた……かも?」
灰色くんはこれらをかわいいとは思わないようだ。変なの。
かわいいじゃん?
かわいいのに。
かわいいって言え!な!
「それ、回せるぞ。」
「え?回せる?」
「ここを捻る感じで回してみ。」
「キュイン……ジャーーー……」
「う!?」
私が一手を加えた途端、ジャクチの先端から勢いよく水(?)が流れ出てきた。
跳ねた飛沫が私の腕を伝う。
こんなにもドバドバとまぁ。
「あはははははは!ひぃ、面白すぎ。えー、どうしよ、かわいい……。ぶっ、あはははは!」
なんだよこれ!衝撃的な用途!最高にツボなんだけど!こんなものが平然と学校の中に設置されてるって、地球面白すぎるでしょ。
思いがけない角度から擽られたように笑いのツボをおさえられた。
あー、ここ最近で一番笑った。
これであと十回は思いだし笑い出来てしまう。楽しみにしようっと。
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