第9話 見知らぬ星の見知らぬ空間
自分勝手かな、でも。
「私もこの状況は飲み込めていないから、私たちのことを話せたとしても随分と冗長になるし、キミが理解できるか分からない。」
「……はぁ。」
「ということで、キミの置かれている立場を分りやすく説明してもらえるように仲間を呼びたいの。だから集まるためにその喫茶店ってとこに行こう。」
「え、あぁ。うん。」
うーん……何も分かっていないような、授業中の私を見ているかの様な返答だけれど。
まぁなんとかなるのかな。なるといいな。
地球のこの“幻の中の夢みたいな景色”を見ていると、なんとかなりそうな気がしてくる。
……
動きから察するに、どうやら灰色くんはこの場から脱け出す方法を教えてくれるようだ。
「ここを降りればいいの?」
「そうだよ」
「来るときもここから登ってきたの?」
「そうだね、はい。」
「うわぁ。この高さでこれ、大変だなぁ」
彼は壁から突き出た心許ない突起に手や足をかけ器用に降りて行く。へぇこれが地球流の移動手段か。先生も言っていた様進んだ立場から見ると、“途上の技術は凶器”のようだな。
大量の荷物を落とさぬよう私も見よう見真似で降りる。
でぇ!!!
「うわ、すごっ!何これ!地球人がこんなに!」
ばばんと息を飲む光景。なんじゃこりゃ。動きのない地球人が用意されてましたみたいに盛りだくさん。しかも整列してやがる。どこまでも人の頭が続いてる。
そんな空間怖すぎるだろ。これが地球……。妙な星……。
不思議な箱の中がこの窓の向こうで広がっているのだ。
下はこんな風になっていたのか。
私が恐怖と興奮の交差点に立っていると、灰色くんがズルズルと扉を開けてくれた。
これこうやってスライドして開くのね。はぇー。
「ズルズル……」
私は初めてみる仕組みにそれを左右させるしか選択が無かった。
あ、こうなってへぇ……、以外と重たい。
「何してんの?」
「あ、何でもない。」
あんまり気にさせたらだめだよね?
私は扉を左右にズルズルさせるのをやめた。ズルズルオーバーだ。
ということで、施設内部に潜入することができた。
はやや~。
生まれてはじめてだ。
こんな風に生活しているのか……。
うんうん。口角が鋭角になりそう。
わかったように部屋の後ろの方で腰に手を当てる。
「おーい。聞こえてますかー。」
生徒に向けて耳元で囁いても、手を翳しても応答なし。
やっぱり止まってるよね。
おかしいのはあの人だけ……だよね?
……まさかね。
……頼む。
一人で考察するのも良いのだけれど折角なので、私はいろいろとこの場所について尋ねたいと思う。
「ねぇねぇ、この人たち服を揃えて綺麗に座っているけれど、もしかして何かを習う場所なの?」
「高校だよ、皆んなこの施設に集まって、自分の将来のために色々なことを教わるんだ……君たちの住んでいる世界にはそういう学校みたいなのは無いの?」
「……あー、学校ね、私のところにもあるけど私が通っているところはこんなきっちりしてないし、将来なんて……あ。」
うばばっ、やば。つい口が滑ってしまった。
学校に通っている学生という情報をずるりんと落っことした。
も~。ダメでしょ~。そんなことしたら。
「ふーん、そうなのか、じゃあこんなにも観察しやすい機会まずあり得ないし、一緒に見て回ろうよ」
お!おおお!はいはい、来ましたよ。
待ってたのが。
「是非!嬉しい!見たい見たい!」
よしよしよしぁ!ようやく冒険っぽくなってきましたよぉ!
「えっと、これが机って言って、これが椅子。」
「シンプルながら不思議な作りだ。これに色んな教材を置けるわけね、はいはい。」
「上には照明があって、」
「はいはい。あれで照らすのか。」
「奥にあるのが教卓」
「うんうん。」
「その後ろのが黒板で……」
ラノハクトと共通の概念や構造は思っていたより多いけれど、
見た目からして粗ま……じゃなくて遺物的で古風だなぁ。
嫌いじゃない。
でもそれらを使いこなして生きているんだよなぁ。感慨。大感慨。
灰色くんはこの教室にあるものをせかせかと一通り教えてくれた。
それらは私たちの使うそれのように洗礼されたデザインではない。卓越した機能性があるわけでもない。ただ地球人の産み出したそれは生活必需品としてのオブジェクトを全うしてきた形跡があるのだ。──なんて、それっぽいことを考えたり。
こんな感じで彼が教えてくれたら課題もとんでもなく捗りそうだ。
そういえば……
「上から見えたけど、この建物結構大きそうだよね……?」
「そうだね、建物自体の大きさもそうだけれど屋上から見渡した時はここの周りが住宅地だから大きく見えたんじゃやいかな?教室の数と生徒の人数は割と平均的だと思うけどね。」
「これで、平均的……ね。」
「そうそう、この建物は1号館。いわゆる「教室」は全部この建物に収まってるんだよね。」
「あそこまで、これ全部教室!?どこまでいるんだ地球人」
やっぱり地球人は多すぎるよ。だらしないよ。
教室というより人間の保管庫。
嫌なくらい目に入ってくるし、席と席が近い。人口密度が濃くて勉強する前に疲れるでしょ。
「この階は三年生の分だけね、この下の階に二年生、さらに下に一年生の階があるんだよ。」
「えっ、そんなに……」
「こっちは教室と下駄箱くらいしかないし新校舎の二号館の方へ向かってみるか」
やったぁ。こんなことになるなんて。流石に幸先が良い。
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