第5話 旅立ち直前、出発点

すぽっ。

気持ちよく、勢いよく、吸い込まれる感覚。


踏み入れた私たちは今この瞬間、トリアンドルスのがらんどうな内部を見ている。


どの方向を向いても虚。虚。虚。人は点で私はちっぽけだった。


ラノハクト全土からかき集めたであろう生徒の数。これだけでも喧しい町づくりができるほどの人数だったのに対し、それは想像を超えていて、奇妙に思える程に広い。


「ぅあー、広ーい。すごい空間だわ。」

「ばかみてぇな空間だ!あはっ。」

「ご機嫌じゃん?」

「そりゃ……ね?」


現実で見た整った空間の中でも恐らくこれが最大。これ自体が動きだすなんてさらさら信じられない。


……無性に叫びたくなる。なんて空洞だ。


到着順に席に着いてからしばらくすると、椅子の向きが揃い、薄暗くなり、正面の大きなスクリーンから映像が映し出されると、追いかけるようにアナウンスが流れた。

「あ、あー。たった今、地球での時間圧延が開始されました。本部からの情報ですと、予定通りの進捗、問題は無いとのことです。調査学生の皆さま、端末のご用意を──」

退屈な機械っぽい音声によるとどうやらいつもの端末で地球の降りたいポイントを指定できるらしい。地球の陸地ならどこでも……という訳ではないらしいが。


ワープを使った瞬間移動なんてのはごく一部の偉い人しかできない代物だと思っていた。

それが私たちでもワンタッチでこれから体験出来てしまうと言うのだから、それは興奮せざるを得ない。

時代は変わりつつある。

暗がりの中、生徒らの端末により、ふわりと光が波打つ。


「最初に見る景色はあなたたちの調査へのモチベーションを左右させます。何を感じ、何を捉えるか、皆さん次第ですが、心から知りたいと思える場所に立ち会えますように私から──」


はいはい、いいからいいから。というかそういう大事な話は授業内にしてよ。


専ら私は聞いていないんだけど。


個々の端末に地球の様子とびっしりと情報が写し出されて、周りの生徒達がざわざわし始める。

もうすぐ……。


「折角だから考察が捗りそうな発展してそうなところがいいんじゃない?」

「じゃあ人口が密集していそうな……」

端末に写し出された地球の航空画像を拡大していくと、人口密集地や都市が色分けされており、発展度が一目瞭然になっている、中でも1ヶ所に人が密集していて、かつ広範囲がまんべんなく発展している異様な島があった。


「その島のどこら辺?」

「こことかどうかな?」

端末を寄せあって照らし合わせる。

「え?どこ?」


……


広すぎる土地にひとりぼっちなんてごめんなので、私たちは四人で話し合って選択可能範囲内でもこの特徴的な形の島々に降り立つことに決めた。調査するときも気軽な話し相手とできるだけ近くにいたかったのでさらに細かく決めることにした。


ぎっちりな人工物がよく見える。

「ここが一番見ごたえがあるんじゃない?」

そのひとつのよくわからない少し大きな建造物、周りより少し目立つ場所。内部は分からないが。


「皆さん準備は出来たでしょうか?」

「え、もう時間なくない?」

「ここ!」

「おりゃ!」

皆の近くに押せたかな?

そこをタッチして、ピンを差す。決定。

あとは時間が来ればひとりでにワープする。もう少し時間にゆとりが欲しいなぁ。

予備知識などなく、適当に選んだけど、本当にこれから地球に向かうのだろうか?人工現実でもっと知っておくべきだった?ドッキリだったりしない?怖いなぁ。


私はいつのまにか興奮より不安が勝っていた。


「お待たせしました、皆さまのワープ地点の情報を取得しました。間もなく地球へ転送します。席につき端末をご確認ください──」


ふぇ……もうすぐ……?来る……?


「それでは学生の皆さん、素敵なご調査へ行ってらっしゃい──……」

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