第4話 期待と巨体と学団体



──現地調査当日──


さてさてさてぇ!いよいよいよぉ!


いつもの気だるげな朝とは違う。

感じ方が違う!感覚が研ぎ澄まされ、全てが透き通っているようだ!


昨日のランチのメニューは全く覚えていない。

どんなんだったっけ。知らんがな。

そのくらいに待ちきれなかった。


そんな夜、このままだと楽しみすぎて絶対に眠れないと思っていたけれど。スルッと眠れてしまった。

安眠できて万全の態勢!

はい楽しみます!

え、朝ってこんなにも清々しいのか。

というか、こんなに輝いてた?


一つ目の朝日が登りだした頃、いつもと違う道をコミューターチューブで揺られると、昨日あれもこれもと詰め込んだ私の荷物がこんもりと主張してくる。んー。邪魔かもなあ。


心が慌ただしくなっていると目的地である荒野のような焦げ臭い広場に着いた。

えと、つい最近までここら辺は山のように瓦礫が積まれてなかったっけ?こりゃまた、ずいぶんさっぱりして……まあいいか。


[転移装置「トリアンドルス」地球へ向かう]

とか[キミは地球を知ることになる]とか流れ字幕で表示されたホログラムがつらつらと、色んなモーションで宙に蔓延り、馬鹿みたいに埋め尽くしているのが見える。


眩しい。

はぁぁあ!やっぱりすげぇですね。


力の入った知らない広告。さらに記者らしき旧式のアーム付きドローンカメラも規則正しく大量に飛んでいる。

イラつくほどに騒がしいらしいが私にとってそんなことは気にならなかった。


この力の入れ具合い、騒ぎ方、やっぱり私のクラス以外は我々が地球に行くのは今回が史上初だと思っているんだろうか。

「おはよー。」

「おはよー。……ってなんだそれ鞄爆発寸前じゃん。伸びるからって、それはいくらなんでも可哀想」

「そう、思ったより鞄が小さかったんね。」

「いや、鞄は充分なサイズだろ。端末一つでなんでもできる時代に鞄を膨らませられるのは才能だぞ。どうせ向こうで役立たずの物ばかりなんだから置いていきなよ」

「ニオ、ビストは中身を知りたいそうですよ」

「あれだよあれ、あっちに行くと転送テーブル起動できないじゃん?向こうで機能は半分以下ですぅって言ってたから。何かあったらって思って念のため念のためを繰り返してたらさ……もし遭難したらオシマイじゃない?」

「そんな遭難なんてするわけないじゃん。で、逸らさずに。その中は何が入ってんのさ」

「ぇー。着いてからのお楽しみってことで。」


しばらくどうでもいいような話をぐりぐり引き延ばしながら辺りを歩いていた。

それはそれは楽しい時間だ。


いつの間にか……人集りから離れたところ。


薄汚い見知らぬライファーのおじさん。


に、すれ違い様に小声で話しかけられた。


「お主ら、ユセテピは使うんじゃないぞ……永遠に……真の記憶を残したいのなら……!」


……!?……


私の額角が固まる。

皆の足は早足に切り替わっていた。

聞こえてないふりをしておこう。

その視線と口調にぞわっとした。

「なにあれ……怖」

「ユセテピにどんな恨みがあるんだろ?あんな寝心地の良いもの、手放すわけないじゃん。」

「私なんか今朝も使ってきたのに。使わないなんて、可哀想に。」

「同じく。」


あんな体験もう御免なのでそそくさと引き返す。ひぇぇ、やめてほしいなぁ。


「すごい並んでるじゃん。大層な技術があるなら列作らせて並ばせないでその転移装置とやらの入口をもっと広げておけよ」

奥の学生たちがなんだかもたもたしているのを横目に、ビストは尻尾を逆立てて不満そうな顔で不満を吐いている。

まぁ、そうかっかとなさらずに。不便も楽しもうよ。そんなメンタルじゃ地球に住めないぞ。


「ねぇっ、知ってる?タイムマシンはすでに完成してて、この星のどこかにあるなんて噂」

「またまた~」

並びながら期待が高まっている私にさらに追い討ちをかけるようなロロニの話題。いつもあなたはそうやって私の心を揺さぶる。


「どこからそんな都市伝説が──」

「だとしたら未来人が現代に来ていないとおかしくない?」

そりゃあ、誰しも思う、至極当然な事。


「でも、タイムスリップほどの技術があるんなら未来人は我々から認識が出来ない領域にいるとか、姿を変えるとか容易な気もするけどね」

……!たしかに。


「たしかにそれはそう」

私の壊れていた夢がメキメキと修復されたよ。ありがとね。

私の想像力が生ぬるいだけなのか、こんなことを普通に考えてしまうノーザにとって宇宙とはどのように感じているのだろう。


……そういえば、地球人からすると私たちが今からする調査そのものがその認識できない領域にいる……ってやつなのか。ラノハクトも、まさかそんなことないか。


そんな話で暇を潰している間にも。

少しずつ動いている列、

近づいてくるトリアンドルス。

「うーん。これがトリアンドルス。でかい。」

会話はめっきり膨らまなくなっていた。その質感に圧倒されていたのかもしれない。

ハードルが上がりすぎて疲れ始めてきた私も唸る納得の完成度。

すごく大きい蕾のような形状。まさしく最先端の科学の結晶。こんな世界でもこういう力まだ残ってるんだ。乗り物とか装置というより遺産的なサイズ感。


私は朝やけが薄れつつ、銀色に輝くトリアンドルスの巨体と薄暗く騒がしい広場との[壮大な場違いに互いが際立ち合う不思議]なコントラストが芸術的に感じとれて、見蕩れてしまった。ずっとこの光景を眺めていたい。


──中、暗っ!

もうちょっと明るくしてよ。

そんな第一印象とともに入口からコンベアに乗り、倒れないようにがっちりと手すりを掴む。私より少し先にビストの怖がっている背中が見える。


ああいうところ、かわいい。


最中、流れながら全身のデータを採られた。

一瞬のスキャンなんていつものことなのでもう慣れているけれど、もしもブザーがなったら……これだけは不安になっちゃうな。


上方のスピーカーから説明が流れているが不具合なのか音質が悪すぎて誰かの悲鳴のように聞こえる。


私は先生が熱弁していたトリアンドルスに搭載されている超密度なんたら(?)を見たかったのだけれど細部は拝めなかった。

内部の様子はわからないけれど、この壁の向こうとかにあるのかな……

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