第3話 在りたかった方の私

ぷはぁ。……ほぉ。

人工現実内の先生が話終え、休み時間の合図で皆が一斉にシアターから顔を出す。


はぁ~♪ふふ~ん♪


そんな授業終わりの昼休み。

昨日までこの時間は腕と頬が仲よしだった私。

だけれども、今日は一味違うのだ。

いつものメンバーと共に、いつもと違う明るくて空気の綺麗なとこで、昼食を頂くことにする。

こんな時こそエネルギー補給は大事。


私史上、ここまで次の授業を楽しみだと感じたことはない。先生の熱弁以外の情報が公開されていない見知らぬ星へ向かうことに、

昂る胸の鼓動を必死に抑えている。


元気なニオ、おはよう!

ようやく私に出会えた!


待っててね地球内生命体!今から惑星ラノハクトの異星人が迎いに行くよ!

まぁ、そんな遠い星に思いは伝わらんか。

私はロロニとビストの片手をそれぞれがっしり掴んで昼食を食べに一番広い中庭の展望台へと向かう。雲の上だ。

体が重たくない。温かい。思うように動く。

これだよこれ。この感覚だよ。


絶対に良い一日にしてみせる!


「おーい。きたきた!」

さてさて、配給機を呼びましたよ。

今日はどの食感がいいかな。歯応え抜群のやつにしようか。

飛んできたそれの中から一つ指差し、出てきたシートを引き剥がすと、ボトボトっと手の上にいい香りの粒を乗せた。


「次の調査授業楽しみじゃない!?生命体のいる星を現地で、触れたり、嗅いだりできるんだよ!?こんなこと無いよね!」

とにかく衝動をぶつけてみた。今景色を見ながらランチを囲んでいる大っ好きな友人たちに。


昔から私は皆から届いた感情の色を相手の言葉で確かめるのがすごい好きだ。生き甲斐レベルで。


「んぁ、今日のニオ、随分と表情がなんと言うか豊かなんじゃない?」

「豊かのはいつもでしょ?」

「そうだね、楽しみ。ニオそういうの好きそうだもんなー」

「そんで、ロロニは現地でどんなことしたいの?」

いいねー。皆違って綺麗な色してる。

明るい私は共感したがっていた。


「環境……とか、暮らし方……。不便さが多いみたいで……。あと調査中、向こうではお腹が減らないし、眠くもならない、なにより時間が引き伸ばされている世界をこの身で体験して……みたい。」

「そうだよね~気になるよね~、どんな暮らししてるんだろうね!理想的で夢みたいな暮らししてないかな~」

「……すごい浮かれっぷりだなぁ」

私はすんごく遠い地球とやらに詰めこみきれない想像と期待をパンパンに持ち込もうとしていた。


「で、ビストは!?」

「ま、とりあえず着いたら気になるところだらけだと思うからな、景色を見ないとわからんな。」

「そうだよねぇ。どんな景色が見れるかなぁ」

げへへへへへ。心の中で埃っぽい笑い方が込み上げる。始まる前だけれど今が楽しすぎてしょうがない。


「ノーザは?」

「私もすごく楽しみです。かわいい動物とかいてほしい。あと、地球で触れてもので一筆したためたい。」

「あー、たしかに。片っ端から見慣れない生きものに勝手に名前つけてあげたい!」

ノーザの書いた小説らしき文をこっそりと覗いたことがある。あれだけの文字の山をすらりと編み出せるのなら相当な才能だと思う。


「そういえば、」

ん?

「皆は変だと思わない?現地調査が50年も続くなんて」

「そうか?物好きな研究者たちの都合もあるんじゃないの?」

「だって、あの星は大体データ化されていて、人工現実でもある程度調査が出来るんですよ。私たちには星の位置すら情報公開されていないけど」

「そう言われるとそうかも。」

「どうせしょーもない理由があるんじゃないの?知らんけど。」


50年ねぇ。僅かな期間を50年間に引き伸ばされた星はさぞ不思議で面白いんだろうな。こんな笑えなくてつまんない世界と比べて。


さっき選んだ粒をシートに包み、口に入れ、噛み砕き、時間切れの前に飲み物で流し込む。


いつもだったらノーザのこういう意見はかなり鋭いから意識して頭の片隅にセーブしておくのだけれど、このときの私は興奮で上の空だった。

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