第2話 ぼんやりと聞いた昔話

明確な答えは無いか。

どこにも無い。

人生なんてそんなもんだよ。

それを楽しもうよ。


……


うん、よし。


一日一歩ずつ近付く感覚があった。

あの日からずっと楽しみだった。

それが明日ようやく。


でも、地上に出て日に照らされ徐々に強まる眠気を連れ校舎へ向かう私は何も考えようとせず、

ただ、ぼんやりとした何かに従って、いつもと同じようにチューブの輪にゆらゆらり。ぶら下がりやってきた。


いつもの間抜けな空。

何一つ変わらない期待外れの道。

主張の激しい、それでいてぼんやりと輝く別荘が浮いている。

地下の家で生活してきた私はあんな天空の別荘がずっと憧れだった。今、誰も住んでいないなら一つ位譲って住ませてくれたって良いじゃないか。


はぁ。地球で見つけるか。

気に入るような場所……あるかな。

ため息……やめるんじゃなかったっけ。

、、、無理だよこの現実じゃ。


見たこともない地球の暮らしを想像している途中で学校へ着く。

特段、面白いことは起きなかった。


ある程度皆集まっていて、私もそれと同じように敷かれた席につき、ごそごそと布を被り始める。

元気な私は何処へ行ってしまったのだろう。


草臥れた顔で味気ない空間にだらりと寝転がると、先生の話が遠くで始まっている。いつになく熱意が伝わってくる。が、果たして今の私にその技法は効くのだろうか。


……。


「ノロールム人はこの[額角]と呼ばれる器官によって相手の感情をぼんやりとしたシグナル、色として受け取ることができる。これは他の種界には見受けられない。我々固有の器官だと考えられている。」


いつもの先生の声。どことなくいつもより荒々しい気もする。

寝そべっている白い床を三回叩き、机と椅子をむにゅりと引き出す。

退屈で先生の話とか最近ろくに聞いてないな。


今までにないパターンのポーズで着席してもよいけれど、

私はだらしなく怠そうに腰かける。


「それに伴って私たちは長きに渡る歴史の中で多くのことに傷つけられたし、気づけた。他の種界より心理学が発達して日々争いなく交流ができているのもこの額角と呼ばれる器官のおかげである。この額にある一対の器官はノロールム人類の誇りなのだ──」


そこに座ると私はまた頭を伏せた。

まるで気力不足。いつもなんだけどね。

なんだっけ、皆がざわついていたんだよね。


「その昔我々は、地球と呼ばれていた星の知的生命体と交流を試みていたそうだ。教材には記載は無いがこれが少人数での異星人交流の第一歩だ。今でこそ色んな種の異星人がこの星で不自由も差別も無く生活しているがな。計画通りにいけばこの地球人が私達の初めての協力者となり、我々の暮らしはより良くなるはずだった。だが、言語も文化も衣食住も生態はその土地の人々に合わせたのだが結果は悲惨なものだった。」


あ、そうそう別の星がどうたらって。

ふぁああ。長いよ話。


「えー、初めは怖がられていたのだが、子供たちからだんだんと交流を深め、少しずつ我々の存在は浸透していき上手くいくように見えた。

だがある日、地球人とは姿形の違うノロールム人は「鬼」と呼ばれ人々から蔑まれる存在となった。文明が発達途中だったため、ありもしない噂を流し差別対象とされ、文化を知らない我々は人々の地位や関係性を保つために利用されたり、教訓として言葉を広める都合の良いものになってしまったらしい。今でもその教訓は地球の何処かの島々で語り継がれている……という伝説がある。」


地球か。つい今朝まで覚えてたのに、何でだろ。だめだ……眠くて頭が動いてないのかな。


「でもそれも昔の話。この星には多くの文明が開花し、成長を続けている。我々が今回授業として発見し、学び、調査するのにはうってつけの場所だ。

君たちには仮想空間ではなく、ぜひこの地に降りたってもらい、レポートを作成してもらうことにした。期限は惑星ラノハクト基準で10日後まで!この星は超密度観測マシンλ(ラムダ)の時間圧延システムにて5秒を50年に引き伸ばす予定だ。ということは、もちろん我々がレポートを作成したあとも学者たちが研究をする場にもなるってわけだ。君たちは学生として多くの研究者と同時に転移装置に乗り込み、授業を開始するため、くれぐれも周りに迷惑をかけないように!」


……。


「さらに、こちらの文明で動く機材を持ち込んでも配布端末と低級機材以外は動かせないため基本的に自分の体力とここで学んだ情報を駆使して調査することになる。時間が引き伸ばされているとはいえ、はしゃいだり危険なマネはせず、怪我の無いよう十分に注意するように!

今までに何度も取り上げた美しい地球の景色を自らの眼で見れるのを私たち教員も心待ちにしているんだ!」


……あれ?なんだろうこの感覚。

私の眠気はいつのまにか蒸発している。顔も上がっている。


知らない星、知らない景色、知らない知的生命……


期待していなかった訳じゃないのに。


ざわついていた教室の中で私の心は誰よりも輝いていた。


そんな気がする。


「是非あの星でラノハクトではできない体験をし、その身で感じたこと、生まれた考え我々に伝え、共有してほしい!では、また明日会おう。」

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