忍恋 #九十九灯織

最初は、友達の手伝いだった。

ある人について、調べてきて欲しいと。

ま、正直なところ、少し面倒だとは思ったけど。

それでもネタに飢えていた僕にとって、

他人の調査は願ってもないものだった。



「お困りのようだね、おにーさん? 僕がいれば力になれると思うんだけどなあ~」



どーもパッとしない、わかりやすい人。

最初に会った時はなんとも思わなかった。

なぜ彼女が好きなのか、正直わからないくらい。

こんなのがいいんだ、なんて甘く見ていた。

けれど君は、僕の心の檻を簡単にこじ開けた。



「僕さ、漫画家志望なのにストーリーとか、肝心な才能がないんだよ。設定とか全然。

君……何も思わないの? ……何言ってんだこいつ、とか……嘘つくな、とか……」



友達の好きな人を好きになっちゃいけない。

心ではわかっていたはずなのに、

自然と目で追ってしまう自分がいた。

君は僕の笑顔を、嘘だと気づいてくれる。

それがどうしようもなく嬉しくて、気付かないうちに惹かれてしまっていて。


こんな漫画みたいな展開、

まさか自分が経験しちゃうなんて

今となっては、想像つかなったな。



「されて嬉しかったんでしょ? だからちょっとやってみた。漫画のためじゃないし、からかってないよ。相手が君だから、こんならしくないことしてるんじゃん」


少女漫画、少年漫画。どの漫画にも、必ず存在していた。

可愛くて、綺麗で、一途なヒロイン。

憧れだった。誰かに愛されて、誰かと幸せになるそんなヒロインに。


でも、少女漫画にいるヒロインは、たった一人だけ。


ライバルは、大好きな友達や後輩、そして先輩。

こんな僕にでもヒロインになれるというのなら、僕は負けたくない。


今までたくさん嘘をついてきた。

思ってもない言葉を、並べて生きてきた。

だからこそ、この気持ちにだけは嘘はつきたくないと思った。

それが僕の彼に対する、ありのままの気持ちだから。



「やりたいようにやれ、上杉ならそういうと思ったよ。僕は僕のやり方で漫画を描く。

遅れないでよ? 稀羅っち」

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