34.SOです、君は最強clumsy☆girl

杓璃祭、開催! とかかれたちらしが、はらはら音を立てて揺れる。

コルクボードに貼られていた一枚が、風でふわりと床に落ちてしまう。

ちょうど目の前に落ちたものを見逃すわけにも行かない俺は、そのちらしを押しピンで強く固定する。


「稀羅〜悪いけど、ちょっと手伝ってくれないか?」


昴の声が聞こえる。

おう、と返事を返しながら小走りで彼の方へと向かった。

文化祭まで残りわずか。俺は何も変わらない、平凡な日々を過ごしている。

特にサークルにも入ってもないし、学科の出し物もない。

準備すらやることがない俺にとって、文化祭なんて行かなくてもいいイベントだ。


……と思っていたのになぁ。

湯浅のアクセサリー展示に、九十九の漫画配布。そして野神の人形劇の観覧……気がつけば、文化祭で見るものが増えている。

これがいいことなのか何なのか、俺にはわからねぇが。


「これ、先生が職員室に運んでくれって。半分持つから、一緒に……」


「なんだ、そんなことか。これくらい俺がやるよ。お前はサークルの方に行ってやれ」


「え、でも……」


「まだ作業の途中だろ? これくらい一人でも持てるから、気にすんな」


「ありがとう。じゃあ、頼むよ」


バツが悪そうに、彼が浅く会釈する。

あそこにいるのはサークルの仲間、だろうか。戻るが否や、彼は看板を設置しようと脚立へ登っていた。

こうしてみると周囲はどこも文化祭準備が、仕上げに入ってるのがわかる。

もうそこまできてると思うと、なんだか感慨深いものがあるよなぁ。


……そういえばあいつは、何かするのだろうか。

職員室に向かいながらつるんでいた連中の中で、まだ唯一会っていない彼女のことを思い出す。

確かあいつの学科は……


なんて、考えたところでしょうがないな!

会長とのこともなくなったんだ、偶然でもなければ早々会うことなんて……


「じゃ、失礼しました〜」


「……失礼しまし……あ」


ぱちりと目が合う。

フラグ回収、というやつだろうか。

気が付くと隣には、彼女―輝夜がいた。

まさか言った側から、本人と出くわす羽目になるとは……


「久しぶりね、上杉君。職員室にきてるなんて、何か悪いことでもしたのかしら」


「俺を何だと思ってるんだよ。俺は頼まれてたものを運んだだけ。そっちは? それこそ、呼び出しでもくらったんじゃねえの?」


わざと皮肉たっぷりに言って見せる。

が、彼女は言い返そうともせず、ただそっぽを向いた。

まるで、図星とばかりに。

表情が読み取りづらい割に、こいつの嘘はわりかし見抜きやすいのは何故なんだろうな……


「……上杉君」


すると何を思ったのか、彼女はどんっと手を壁につく。

しかも、俺の顔があるすぐ近くに。

……ちょっとまて、これどういう状況??

事態を把握しきれていない俺に対し、彼女はそっと俺の耳元へ顔を動かす。


「……聞かれたくないから、小声で話すわ」


「お、おう……」


聞こえるか聞こえないかくらい、絞り出したような小さな声が俺へ響く。

距離が、近い。息がかかりそうなほどだ。

こんだけ近くで見ても、彼女の肌は色白で綺麗だと不覚にも思ってしまう。

金色に輝くその髪は、まるで宝石のようにきれいでー……


「……の」


「え?」


「……私を、助けてほしいの」


急に何を言い出すのかと、耳を疑う。

助ける、とはどういうことだ??

相手は読者モデルとして、誰もが知っている輝夜聡寧。そんな彼女が小声で、しかも助けてほしいなんて言うってことは……


「まさかストーカー被害を受けてるとかか?! なら俺じゃなく、警察に行った方が……!」


「はあ? なんでそうなるのよ」


「だ、だって助けてほしいって……」


「私が言うのは、料理のことよ。恥を承知であなたに頼んでいるのだから、言わせないで」


よほど嫌だと思っているのか、彼女の頬は少し赤い。

構えていた自分が、急に馬鹿らしくなってしまう。

そうだった、こいつはこういう奴だったわ……


「……なんだ、そんなことか」


「何よ、その言い方。くだらないとでも言いたいの?」


「仕方ないだろ? あんなことされたら、少しは警戒とか構えたりするって」


「私だってやりたくてやっていないわ。あなたが言ったんじゃない。お前になんかあったら俺が助けるって」


調理師・パティシエコース。所属している学科のわりに、なぜか料理が不得意ということを思い出す。

それはもう、今までどうやってやってきたのか不安に思うくらい……

だが意外だ。確かにそうは言ったものの、彼女から直々にお願いされるなんて思ってもなかったから……


「へーへーわかったよ。どうせ、拒否権ないんだろ」


「言っとくけど、これは消去法で仕方なくあなたになっただけだから。灯織と千彩に頼もうと思ったけど、ダメで。先生にお願いしようと思ったけど、私と予定合わなくて」


「……お前、もしかして学科内に友達いないのか?」


「黙って私に協力しなさい。でないと学校中に言いふらすから、上杉稀羅は男の人を好きになりかけた、って」


やっぱりこいつとかかわると、ろくなことがない。

そんなことを思いながら、俺はひそかにため息をついた。


(つづく!!)

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