33.ハーレム主人公はバニーエンジェルの夢を抱く。
【わ、われはラビット将軍! こ、この国を治めるし、シリアシュ……間違えた、シリアス王に仕えている! えーーーー悪い敵は私が対峙する! 覚悟しろ、悪党!!】
「野神~それ多分、オマツリジャー混じってるぞ~」
【な、ぬぁにぃ!? えっと、えっと……会いたかったにゃん、将軍様ぁ~】
「それはにゃこ姫だな」
間髪入れずに、俺は彼女に突っ込みを入れる。
容赦なく言ったせいか、野神はがくりとうなだれてしまった。
いつもの空き教室。野神に言われ、仕方なく彼女の練習に付き合っている。
彼女は他人との会話もままならない、かなりの人見知り。
そのかわりといっても過言ではない武器として身についたのが、声による驚異の演技力だ。
色々なぬいぐるみを介して話す彼女の声は、まるで同じ人だとは思えない。
だから、表に出ることが少ない声優はどうかなんて提案しちまったが……
まさか本人が、その提案に乗っかるとは思わなかった。
しかも文化祭で自ら立候補してしまうとは。
見て取れる成長を実感しつつも、彼女の練習を見ていてわかったことがある。
彼女が特化しているのは、あくまでも声と演技力だけ。
この部屋には俺しかいないというのに、どこか緊張したようにうわずる声、かみかみのセリフ……お世辞にもうまいとは言いがたい。
よくよくみたら、ラビット将軍を持つ手だって、震えているようにもみえる。
俺がああ言った手前、どうにかしたいのはやまやまだが……
「お前、やっぱ難しいんじゃないか? 最初に聞いた時より下手になってね?」
「……だって、緊張するんだもん。上杉と二人だから」
「はあ? 初めて会ってからしばらくはこれで話してただろ?」
「それとこれとは話が別。初めての人とは顔合わせないもん。上杉、私のこと見過ぎ」
「わ、悪い、俺が言った責任もあると思ってさ。なんで受けようって思ってくれたんだよ、転科試験」
俺が言うと、彼女はラビット将軍を動かしていた手を止める。
言葉を選びながら、うーんとつぶやく。
しばらく待っていると、野神はゆっくりと語ってくれた。
「初めてだったから。私の声、ほめてくれたの」
「……え? それだけ?」
「千彩なら、やればできる。そう言ってくれたのは上杉と、聡寧、灯織だけ」
これほどまで言ってくれるってことは、よほどうれしかったんだろうか。
俺はただ、思っていたことを言っただけだったんだが……
やっぱ、強いなあ。
俺の周りにいる女子は、どうしてこんなに……
「そっか、だったら緊張しない方法を考えよーぜ? お客さんを大根だって思う、とかさ」
「上杉は緊張とかしないの?」
「まさか。会長と話すときは、常に緊張してたよ。俺だったら自分を応援してくれた人を思い浮かべてたな。昴とかお前らとか」
「私を……?」
「一気にできるようになろうなんて、しなくていいんだよ。少しずつ、野神らしく進んでいけばいいってこと」
どの口が言っているんだ、なんて思う。
俺ができることなんて、励ますとか背中を押すことしかできない。
野神は俺が思っている以上に高く、険しい壁を独りで登ろうとしている。
その力に、少しでもなれたらいいのにー
「じゃあ私が応援したら、上杉の中に私だけがでてくる?」
「あ? よくわかんないけど、出てくるんじゃね?」
「わかんないじゃダメ。聡寧や灯織がでてきちゃだめ。私だけでて」
急にどうしたのか、野神が俺に詰め寄ってくる。
何か気に障ることを言っちまったか? 俺はただ、応援していた奴を思い浮かべていたって言っただけで……
色々考えている俺とは裏腹に、彼女は俺が座っている膝に腰かけてきて……
「えーっと……野神さん? 何をして……」
「上杉のクラスメイトが言ってた。私のこと、妹だって」
「あー……言ってたっけ、そんなこと」
「私、小さいから。よく大学生に見えないって言われる。もし私が男の人と一緒にいたら、ただの兄妹にしか、みえない?」
確かに、野神を初見で大学生だとは思わないかもしれない。
現に、俺もそう思ったし……
でも今は、同意をすることが求められているわけじゃない。
野神にとって、必要なことはー
「言わせたきゃ言わせとけばいいだろ。お互い好きで一緒にいるんだから、そんなの気にしなくてよくね?」
「上杉は気にしないの?」
「気にしない。むしろお前が人目気にしすぎだろ。もっと楽にしてもいいんじゃね? お前はお前なんだから」
人は皆、見た目で物を判断する。
俺だってこいつらのことを、ろくに思ってさえなかった。
特に彼女―野神と仲良くなれるなんて、思ってもなかったし。
実際に話すとかわいい声をしているし、結構しゃべるし。今でも知らないことの方が多い。
だからそれを隠すのはもったいないと思ってしまう。
少しでもいい。野神がたくさんの人と、ちゃんと話せるようになったらいいのに……
「上杉ってやっぱり変わってる。でもそれがいい」
「それ、褒めてるのか?」
「人形劇、11時から講義室を借りてするの。上杉、見に来てくれる?」
あどけない瞳が、俺を見上げる。
話せるようになってから、彼女はこの顔をすることが多くなった気がする。
本当、この顔にはかなわねぇな……
「いいぜ。どーせ暇だしな」
「……じゃあこれ、約束の証」
そういうと彼女は、俺の手をそっと掴む。
何をするのかと思っていると、自分の手に俺の手を絡ませてきて……
「待ってるね、上杉」
小さく細い手は、どこか温かい。
なんて思いながらも、彼女が浮かべたはにかみにどう反応していいものかわからなかったー
(つづく!!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます