争奪 -approach -
28.無所属・無特色の主人公は、文化祭も彼女達に振り回される。
ホワイトボードにかかれた文字が、当番の人によって消されてゆく。
ノートをまじめに取っている中、右を見ても、左を見ても浮ついている話し声しかきこえない。
そんな声がやけに頭に響くようで、がんがんと痛みさえ感じてしまう。
「あー、頭いってぇ……」
「大丈夫か、稀羅。今朝から調子悪いみたいだけど」
「なんか昨日間違って強い酒飲んだらしくてさ……めっっちゃ頭いてぇ」
「そ、それは……大変だったな」
「あとで会長や先輩に、一言言わねーとなー」
そう言いながら、はぁっとため息をつく。
あの日ー会長に勧められた酒を飲んでから、全く記憶にない。
母に言われたのは、学生証を見たツインテールの女性が、家まで送ってくれたらしい。
おそらく湯浅先輩だな、というのは分かったのだが、色々記憶が曖昧だ。
会長と仲良くなったような気はするが……あ、そういえば。
「あの騒動、結局どうなったんだ? ほら、芸能科にいないアイドルの話」
「誰なんだろうって推測は飛び交ってるけど、先生達が詮索はやめるようにって言ってたから少し収まったみたい。北斗も、今はそれどころじゃないから」
「ああ、あれな……」
ちらっと目線を彼に向ける。
クラスメイトがどこか楽しそうにしている中でも一番テンションが高く、厄介な奴がいる。
「ついにだ……ついにやってくるぞ……待ちに待った杓璃祭が……」
無論、隣で上機嫌に話す北斗だ。
後期が始まると大学内では、同時並行で進んでいくものがある。
それはもちろん、秋の一大イベントでもある学園祭だ。
この大学では二日間行われ、サークルはもちろん、コースによってさまざまな企画が催される。
夢や目標に目指す人たちは、大体それにあわせたものをやろうとする。
教養学科は特に何か作るものもなければ、展示するようなものもない。
特別サークルに入っていない俺には、なーーんもやることがないわけで。
去年は初めてだったし、昴や北斗が見たいっていうから行ったが……今年はもういいかなーなんて思ったりしている。
何故なら、この男が一番「行く気」を失せる原因でもあるわけで……
「今年も張り切ってるな、北斗」
「当たり前だ。非リア同好会の本領発揮ともいえる場だからな」
「……本当にその人たちやるって言ったんだろうな、北斗。お前はすーぐ人を巻き込むから……」
「何を言うか稀羅。非リア同好会……もとい、占い研究会の発足は確かにオレだが、全員入部理由はしっかりある。お前ら二人が異質なだけで、彼女を持って青春を謳歌したいと思う人は山ほどいるというわけだ」
北斗は一年の時に、彼女を見つけるという野望のためだけにサークルを作った。
それが占い研究会……別名非リア同好会だ。
趣味で占いを嗜んでいる北斗が名前を考えたらしく、同じような思考を持つ男子達が彼女を見つけるために活動している。
……もっとも北斗は常に彼女探しをしているため、毎日がサークル活動のようなものだが。
去年も一応やったが、占い自体はうまくいったものの案の定彼女はできず。
今年もそれに付き合わされるのかと思うと、行く気が失せるんだよなぁ……
「もちろんお前はくるよな、稀羅。今年はお前に客引きを担当してもらう」
「勝手に俺を非リア同好会の一員にいれんなよ……昴の方が客引きいいだろー」
「ごめん、実はサークルの手伝い頼まれてるからいけなくて……」
マジか。俺の文化祭、こいつに振り回されるのか……
「と、いうわけで稀羅。早速これを生徒会室に提出してほしい」
「は? なんで俺が」
「非リア同好会は活動が故かなり目をつけられていてな。しかも提出すべき相手は、以前のサークル視察でも廃部を勧告してきた、我が校で一番恐れられている鬼の風紀委員長……湯浅ありすだ」
「鬼のって……あの人はそんな人じゃ……」
「それにさっき、礼を言わなきゃと言っていただろう? 行く用があるのなら、そのついでだ」
こいつ……人の気も知らないで……
出店願い、とかかれた紙を無造作に北斗が渡す。
嫌々ながらも俺は、それを受け取るしかなかった。
さまざまな教室で、講義が行われている。
静かに音を立てないように、俺は生徒会室に向かっていた。
文化祭で浮き足立っていながらも、みんな講義になると真面目だ。
まあ、ちらほら聞いてない人もいるんだろうが……
文化祭、といえば……芸能学科の四年生はステージで出し物をするのがお決まりらしい。
去年もファッションショーだったり、グループでダンスを披露したりしていたのを今更ながら思い出す。
見た時は全部目が離せなくて、結構見応えがあったっけ。
会長も何か出るんだろうなぁ、北斗に駆り出されてもそれだけはみねぇと!!
……あれ、そういえば彼女は何をするんだろう。
輝夜は調理、九十九は漫画、野神は造形とコースだけは流れで知っている。
彼女ー湯浅先輩だけは、話すようになって間もないのもあり学科すら知らない。
彼女も四年生だし、何かすごいことでもやるんだろうか……
「失礼しま………す?」
ドアを開け、視界に入ってきたものは一枚の紙だった。
まるで図面のような、立体的な模型。
よくみると、ネックレスのようだった。
つながっているところに宝石、何色、とシャーペンでかかれていて、随分と書き直したのか消しゴムのあとが残っている。
なん、つうか……すげー細かいなぁ……
「それに触らないで!!」
急に呼ばれ、びくっと肩を振るわす。
振り返ってみると、そこにはものすごく険しい表情を浮かべていた湯浅先輩がいて……
「誰かと思ったら上杉稀羅じゃない。許可なく生徒会室に入ってくるとは、いい度胸ね!」
「な、何だ湯浅先輩か……びっくりしたぁ、そんな大声で叫ばないでくださいよ」
「叫びたくもなるわよ! いくらあんたでも、あたしの作品に触ったら許さないんだからね!?」
赤髪のツインテールを揺らしながら、彼女はふんっとそっぽを向く。
また怒らせてしまった、のだろうか。
そりゃ勝手に入った俺が悪いけどさぁ、ただ近くで見てただけであそこまで言う必要……
……ん? 待てよ、今この人あたしのって言わなかったか……?
「まったく油断の隙もないわね……ここなら誰にも見られずにできると思ったのに」
「あのぉ、先輩。つかのことをお聞きしますが……先輩って学科、どこ、っすか?」
「生活デザイン総合学科のファッションコース……そういえば、もうわかるでしょ?」
やっぱりそうだ。
ファッションコースといえば、服やアクセサリー作ったりする専門の学科じゃねぇか!
就職先が見つかるのも困難と言われており、志望数が毎年少なめとは聞いたことあるが……
「つーことはこれ、先輩がかいたんすか!? すげぇ!」
「ただの図面よ? それにまだ試作段階だし」
「このクオリティーで試作ってすげぇっすね……」
「そんなことを言いに、わざわざここにきたの?」
あ、やっべ。思わず本題忘れるところだった。
「昨日家まで送ってくれたって聞いて、お礼を言いにきたんです。わざわざありがとうございました」
「あーそのこと? 別に気にしなくてよかったのに……いや、でもむしろ好都合ってとこかしら……」
「何がですか?」
「上杉、この後暇? 今からあたしに付き合いなさい。タクシーでわざわざ送ってあげたんですもの。それくらい、いいわよね?」
にやりと笑った笑みが、あの時と重なる。
何か嫌な予感がしつつも、断ることなんてできない俺は嫌々ながらもはいと返事をしてみせた……
(つづく!!)
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