26.側から見たらこれって合コンだよね

「あ、会長もう残り少なかったですよね。烏龍茶、頼んどきましたよ。ありすさんの焼酎もお水割っときましたんで、足りなかったら言ってください」


「自分でやるからよかったのに。わざわざありがとう」


「……ちょっと、私のおかわりが来ていないのだけど」


「本当だ、気づかなかったよ。すみません、紅茶を一つ……」


「ちょっと輝夜さん。三星に頼ませないで、自分の口で頼みなさいよ」


「…………灯織、レモンサワーきた」


「あ、ありがと。千彩のオレンジジュースも頼むから、ちょっと待ってね〜」


メニューを片手に持ちながら、何がいい? と隣にいる野神に声をかける。

会長に呼ばれたその夜、俺達は大学近くにある居酒屋に来ていた。


俺の隣には会長、湯浅先輩が。向かい合うように輝夜、野神、九十九が座っている。

生ビールを飲むもの、カクテルを飲むもの、ソフトドリンクを飲むもの……それぞれ三者三様だ。


思えば飲み会と呼ばれる場に来るのは、初めてかもしれない。

サークルに入ってるわけでもないし、北斗に連れられて参加する合コンでは高確率で気まずくなって途中で帰ることの方が多いし。

それにしても、だ。このメンバーで来ていること自体、俺にとっては信じられないというか……


「ちょっと~上杉飲んでる? せっかく会長がおごってくれるんだから、飲まなきゃもったいないよ」


「あ、いや……わかってはいるんだが……お前まじでスゲーな。割る? とかロック? とか全っ然わかんねぇ。酒の種類にも詳しいし、おかわり気付きすぎだし……こういう場に結構慣れてるのか?」


「一応、社交辞令としてね。お酒も結構好きだから、そんなに大変じゃないよ。そういう上杉は、もしかしてそんなにお酒飲んだことないとか?」


「そりゃあまあ、この前二十歳になったばっかだし」


「えっ、上杉誕生日だったの? 早く言ってよぉ~せっかくの二十歳なんだから、お祝いくらいしてあげたのにぃ〜」


なぜそんなことをいちいち言わなきゃいけないんだ、と思いながらもはあと適当に返事をする。

教えたくなかったのが本音だが、今回の場合それどころじゃなかったというのが正しいだろう。

ちょうど会長の騒動と重なってた、ってこともあるしなぁ。

まあ、北斗と昴にはご丁寧にたぁくさん祝ってもらったが。


「ふうん、ってことはあんた、これが初酒ってわけ? いい記念じゃない。男なら黙って生は飲めないと、社会に出た時痛い目見るわよ?」


「わ、分かってますって……湯浅先輩は……なかなか強いんすね……」


「まあねっ、あたしにかかればこの程度大したことないわ! ワインだろうと、ビールだろうと、高濃度のアルコールでも、なんでもかかってきなさい!」


そういいながら、また焼酎を口に流し込む。

ぷはーと飲む彼女の飲みっぷりは、実にすがすがしいものだった。

なんつー豪快な飲み方だ……もはやかっこよさすら感じてしまう……


「ただの酔っぱらいのたわごとね。みっともないとは思わないのかしら」


「いかにも不釣り合いなものを飲んでいるあんたにだけは言われたくないわ。聞いたわよ、紅茶がある居酒屋じゃなきゃ嫌だって駄々こねたんですって? 連れてきてもらってる身なのに、わがままにも程があると思うけど」


「そ、その節は本当すみません……まあでも、輝夜はいつでもどこでも通常運転だよな〜正直安心するわ」


「それ、ほめてるつもり? これでも読者モデルとして、健康には気を使っているの。お酒で失態をさらすなんてこと、あってはならないわ」


並べてある食事を手に取りながら、髪を耳にかける。

その動作、一つ一つが絵になるようで目が離せなくなった。

相変わらず、こいつは綺麗だよなあ。……少なくとも、顔や所作だけはだが。

これで優しくおとなしい女性だったら、なおよかったんだが。


「……それ、ただの建前。聡寧、ほんとはお酒苦手」


「え、そうなのか?」


「千彩、余計なこと言わないで。あなただって、炭酸すら飲めないじゃない」


「………私まだ未成年だもん。炭酸は苦手だけど、お酒は平気だもん。ほんとだよ」


隣にちょこんと座っている野神は、これでもかというほどこの場に似合っていない。

未成年が故にジュースだし、取っている料理も唐揚げにウインナーなど、お子様が好みそうなものばかりだ。

正直、彼女といるだけでお母さんと一緒に来ました感が否めないっつうか……


「上杉君、お代わりはいらないかな?」


「え、あ、まだ大丈夫です。そういや、会長はお酒飲まないんすか? せっかくの飲み会……」


「そうだ、せっかくこんなに大勢いるのだからゲームをしないかい?」


急に話がとんだせいか、はへ? と変な声が出る。

ごそごそバックから何かを取り出すと、会長はにっこりと満面の笑みを浮かべていて……


「第一印象ゲーム、といってね。お題を言っていく中で、一番適しているのは誰なのかを全員がそれぞれ考え、一斉に指を指して発表するんだ。たくさん票を集めた人が勝ちで、一番指を差された数が多い人が負け、実にシンプルだろ?」


「いや、会長それは……」


「では物は試しに、やってみようか」


だめだ、全然話を聞いてくれない。

本当にこれ、会長か? なんか妙にテンション高いような……

俺が変な目で見ているのをみかねたのか、湯浅先輩がこっそりと俺に耳打ちしてくれた。


「ごめんなさい。あいつ匂いで酔うほど、お酒に弱いのよ。正体を明かしたことで、肩の荷が降りたのかしらね。あんな顔、久々にみたわ」


「な、なるほど……それで……そういえば先輩、会長が男だって知ってたから、俺にあんなこといったんすよね。色々すみません」


「正直、真実まで辿り着くなんて思わなかったから、驚いたわよ。あの子に色々事情があったの、多めに見てあげて」


「湯浅先輩、まるで会長の保護者みたいっすね」


「なっ! それどういう意味!?」


「それじゃあまず第一問。この中で一番モテそうな人は誰かな?」


会長の問いに、彼女達の視線が一気に合う。

これ……俺だけめちゃくちゃ答えづらくね?

いやいやよく考えたら会長も男じゃねーか。それにこれはあくまでも第一印象だ。

なーんも考えずに、指をさせばいいだけ。

せーのという掛け声と同時に、みんなが指を刺していたのは……


「おや? 票が割れたね」


「え〜僕なんかが、読者モデルの聡寧とタイ〜? やった〜嬉しい〜」


「……不服だわ。一人勝ちだと思っていたのに」


「喜んでるところ悪いけど、あくまでも第一印象だってこと忘れないでよね。あんた達、中身が伴ってなさすぎなのよ」


「えー、それありすさんがいいますー?」


そういいながらも、嬉しそうに九十九がまた酒を飲む。

俺と会長は輝夜に、かたや湯浅先輩と野神は九十九にあげていて、二人はそれぞれお互いに指すという引き分けというにふさわしい結果だった。

こんなに真っ二つに割れること、あるんだなぁ。

いわれみれば、確かに九十九もモテそうだよな。スポーツとかなんでもできるし……


「同票だから、どっちも一敗ってことだね。それじゃあ次は僕がだそっと。ずばりっ、この中で一番おかんっぽいのはだぁれだ?」


「ちょっ! 何よその質問!!」


「あー……ありす、かな?」


「迷うまでもなくありすね」


「湯浅先輩」


「揃いも揃ってなんなのよ、あんた達は! せめて指差しなさい!」


もはや答え、分かりきって出してるな九十九の奴……

これって質問も考えとかないといけないパターン、なのか。

どの質問を誰にすれば票が集まるのか、結構難儀だな……


「はい、次上杉」


「お、おう……えーっと、じゃあ……この中で、かっこいいと思う人は!!」


ここでかっこいい、を出すのはあくまでも会長を選ばせようと思ったがためだ。

決して自分が選ばれそう、などという邪な考えはない。

会長に票入れば入るほど、ゲームには有利になる。

これも戦法の一つだ。

背も高くて、紳士的でやることすべてがかっこいい会長がいるんだ。選ばれるわけがないにきまってる。

そんなことを思いながら、せーのと声が重なる。

が、同時に、彼女達が指を刺したのは……


「…………え、俺?」


なんともあろうことか、それは俺だったのだ!!


(つづく!!)

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