25.RE-START:STORY

木々が、ゆらゆら揺れる。

その度に落ちてくる葉が茶色に、黄色に色づいているのがわかる。

蒸し暑かった熱気が、吹き付ける風の冷たさで和らいでいくようでー……


「おはよう、上杉君」


ヘルメットを脱ぐと同時に、爽やかな笑顔が視線に入る。

その存在自体が違和感さえ感じてしまう俺は、ぎこちないながらも「どうも」と返してみせた。

好きだった人が男だとわかって、翌日。


俺ー上杉稀羅の隣には現在、その好きだった人である会長がいます。

それもこれも、流れに流されて会長と連絡先を交換し、「明日は何時に来るの?」と気軽に聞かれ、俺がそれに答えたからなんだが……

好きではないとわかったものの、顔面偏差値が異様に高い会長を間近で、しかもこんな朝早くから見れてしまう現実が受け入れ難い……


「そのバイク、かっこいいね。通学用かい?」


「ええ、まあ……親が進級祝いに買ってくれて」


「そうなんだ、優しいご両親だね」


「そんなことはないですよ」


「ところで上杉君、どうしてそんなに距離を取るのかな?」


そう言われて、あっと声を上げる。

ついいつもの癖で、適度な距離をとってしまった。

話していると、男なことを忘れてしまう。

それくらい会長は会長であることに全然変わりがないせいか、あまり俺自身違和感がない。

むしろ今までかっこよくみえたのは、同性だったからなのだろうか。

女子の気持ちを理解するために、親に言われたからとはいえ女装をするなんて……すごいよなぁ。


「す、すみません、なんかいつもの癖で……会長だって思うと、つい……」


「こんなこと、いうのはおかしいかもしれないけど……私のことは、会長とか男だとか気にしないで接してくれないかな?」


「えっ、でも……」


「君とは男と分かったうえでなお、いい友達関係になれたらいいな、なんて思っていたんだ」


恋人にはなれなくても、友達にはなれる。

そう言われているようで、なんだか心底ホッとする。


なんだか不思議だ。

近づけないとも思っていた人が隣にいて、普通に気兼ねなく話してくれて……

俺が望んでいた光景は、これだったのかもな……


「そうだ、上杉君。実は君に、頼みたいことが……」


[うけてみろ、悪党! オマツリジャービーーーーム!]


そこに、聞き慣れた声がする。

なんだと振り返る直前、何が柔らかいものが俺へ突撃してくる。

よくよくみるとそれは野神であることがわかり……


[みたか、悪党! これで、世界の平和はもたらされた!]


「俺が敵かよ。どーした野神」


「悪者の気配を察知したので、飛んできたのだっ!]


そういう彼女の顔半分には俺が買ったお面がされていて、見えている瞳は会長の方を向いている。

何やら会長を睨んでいるようにも見えるが……まあ、どうでもいいか。


「すみませんね~会長に上杉。お話に水を差しちゃったみたいで」


すると、そこに輝夜と九十九がやってくる。

こいつらはもともと、俺と会長をくっつかせるために協力してくれた友達のようで赤の他人。

会長のことも区切りがついたことで、この関係性も終了と思っていたのだが……


「まさか朝から会うことになるとは……ついてねぇなぁ」


「心外ね、それはこっちのセリフよ。私だって、あなたの顔なんか見たくもなかったわ」


「お前なぁ……あ、すみません、会長。さっき、何か言いかけませんでしたっけ?」


「本当は君に頼もうかと思っていたけど、全員揃ってくれたなら好都合だ。君達、今晩は空いてるかな? 私と一緒に食事でもどうかい?」


会長の言葉に、え? と声がそろう。

戸惑う俺達とは逆に、彼は落ち着いていてゆっくり話し出した。


「事務所の意向で内緒にしているはいえ、君達には迷惑をかけただろう? そのお詫びに、食事でも一緒に行って来いって父から言われてね。どう、かな?」


会長と食事。

以前の俺なら、喜んで行っていたところだろう。

ただ、二人きりの場合、だが。

なぜこいつらも一緒に行かなきゃいけないんだ、どう考えてもおかしいだろ。

そんなの悪いですよ~とか言って断ろう。うん、その方が絶対……


「いいんですか! じゃ、行かせてもらいま~す」


「あなたのおごりだっていうのなら、別に構わないわ」


[私もぜひ同行させてもらおう!]


な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!?


「何よ、あなた。その顔は」


「い、いや、お前らなら絶対断ると思って……」


「別に、たまたま暇だっただけ。あなたがいるからじゃないわ」


「会長と飲み会だなんて、想像しただけで面白そうじゃん。せっかくだし、行っといて損はないでしょ」


[ヒーローに休息はつきものというからな!]


ああ、もう。これ、行く気満々じゃねぇか。

正直俺自身も、断る気なんてなかったが……


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


「よかった。それじゃ、お店に連絡しておくよ」


会長主催の、親睦会。ちょっと前までは、考えられないシチュエーションだ。

男として仲良くなりたい、会長がそう思うのなら俺だって応えたい。

この飲み会を機に、知らなかったことを知って仲良くなっていけばいい。

なぁんも問題なんてない、いいことづくめじゃねえか! まさに、幸先絶好調!


「あ、あとありすも呼んでいるから。よろしくね、上杉君」


ただ一つ、女性陣が来ることをのぞけばだが。


(つづく!!)

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