23.コイゴコロ・カタストロフィー

「あ、やっときた。待ってたよ、上杉」


聞き慣れた声がする。

息を切らしながらたどり着いた生徒会室には、すでに九十九の姿があった。

そばには野神も、輝夜もいて、俺を待っていたかのようにみえる。


「ここに来た、ということは答えが出たということかしら」


輝夜がまっすぐこちらをみる。

その瞳はあの時と同じ、とても真剣なものだった。


「……ああ。覚悟はしてきた、つもりだ」


【それでこそ我が配下だ、上杉少年! いざ、敵地に出陣!!】


ラビット将軍を持ったまま、びしぃっと生徒会室を指さす。

なぜかカーテンが閉め切られていて、部屋の中の様子は見えない。

それでも躊躇せずに、彼女たちはノックをして入っていく。

俺にはその背中が、いつにも増して頼もしくみえてー


「私を呼び出したのは九十九さんだけかと思っていたけど……こんな大勢でくるなんてね。上杉君も一緒だなんて、どうかしたのかい?」


窓際には会長がいた。

呼び出されたというのに、相変わらず優しげな笑みを浮かべている。

流石会長だ、嫌な顔一つせず俺たちを出迎えてくれる。


「突然すみませんね~ど~~しても聞きたいことがあったもので、来ちゃいました」


「聞きたいこと? 来月行われる文化祭のこと、とかかな?」


「いえ、質問があるのは会長になんです」


九十九の声が、彼女の動きを止める。

優しげな笑みだったものは一転し、どこか怪しむようにへぇと相槌を返した。


「私に、か。急な話だね」


「単刀直入に聞くわ、小早川三星。そのイヤリングは、どこかで買ったの?」


そういいながら、彼女は会長の耳にあたる部分を指差す。

星の形をした、イヤリング。俺が夏祭りの時にみたものと同じだ。

気づかなかっただけで、普段から身に着けていたんだな……


「これかい? 友達から誕生日にもらったんだ。自分で作ったみたいでね、結構気に入ってるんだよ」


「へぇ、誕生日に……私、同じものをつけている人を見つけたの。この人なんだけど……今朝からこの騒ぎだもの、当然知っているわよね?」


輝夜が携帯の画面を見せる、会長の顔から笑みが消える。

それは俺のメールに来ていたものと同じー小早川李音が、同じイヤリングをつけている写真だった。

友達の手作りといいつつも写真のものと彼女のつけているものは、あまりに似通っていた。


「……ニュースで話題になってた人、だね。同じようなアクセサリーならいくらでもあるし、ただ似てるだけじゃないかな?」


【いいや! このアクセサリーは間違いなく同じだっ! 吾輩の目に狂いはない!!】


「それと僕、海の家で店にいた人から聞いたんです。一度も泳がず、ずっと手伝ってくれたって。せっかくの海なのに、泳ぐ気がないなんていくらお手伝いでもおかしいですよね? その件に関してはどうですか?」


「……あの時は、風邪をひいていたから」


「風邪……? 俺を助けた後、声が違ったのはそのせい、なんですか……?」


彼女の矛盾に、思わず言葉がこぼれる。

あの日からずっと違和感を覚えていた。

そのきっかけは、まぎれもなくおぼれたのを助けてくれた時だ。

らしくない口調、会長とは似ても似つかない声。

そして転んだ時に触ってしまった、あの感覚ー……


「俺。会長のこと好きで、ずっと見てきました。認識してもらえた、話してくれただけでうれしかった……テレビでこの人を見た時、なんとなく誰かに似ているって思ったんです。声も、聞き覚えがあって……輝夜からの写真を見て、やっと確信がつきました。小早川三星さん。これは、あなたじゃないんすか?」


風が、吹く。

窓際にあったカーテンが、ゆらゆらと揺れる。

その風は俺たちの間を、涼しげに吹き抜けてゆくー


「………私のことを嗅ぎまわっている人がいる。そうありすから聞いていたけど、まさか君達だったとはね」


すると会長は、首にしていたチョーカーをいじりだす。

次の瞬間、頭にあたる部分をつかんだかと思うと、パッと宙に投げてー


「君の予想通りだ、上杉君。小早川三星は仮の姿にすぎない。私の本当の名前は、直江李音。正真正銘、男だよ」


俺と同じくらい短い髪。比べ物にならないほどの低い声。

本当の姿を表してもなお、彼女……いや、彼は優しく微笑みを浮かべていたー……


(つづく!!)

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