19.威厳と、勇ましさと、微笑みと
『風紀委員長にだけは気をつけろよ、稀羅。オレは女の子なら、誰でも大歓迎だが……彼女だけは別格だ。敵に回してはいけない。校則違反を犯したが最後、生きて帰ってきたものはいないとまで言われているからな……』
初めて彼女の存在を把握したのは、危うく講義に遅れそうになった時のことだった。
あの北斗が、珍しく怯えていたのを鮮明に覚えている。
それくらいあいつが女子に声をかけない、というのがあり得ないことだったからだ。
現に、彼女については怖い噂しか聞いたことがない。
校則違反の生徒を退学に追いやった、他校の生徒まで指導した、ガラの悪そうな奴らを一掃したとか……
実際、俺もこの目で見ちゃったからなぁ。あれは絶対痛い……
彼女のことは会長の友人で風紀委員、ということしか確かなことがなく、あとはすべて噂だけ。
何が本当で嘘なのか、分からないからこそどう接していいのかわかんねぇんだよなぁ……
「ついたわよ」
バイクを走らせること、数十分。
たどり着いたのは、最寄りにあるショッピングモールだった。
なんでこんなところに、なんて思う俺を気にもしないようにスタスタ彼女は歩いてゆく。
物を見ようとも一切しない。興味がないというように、先へ。
しばらくすると、彼女の足が止まる。
その視線の先には、ショッピングモールの中にある小さなゲームセンターがあって……
「勝負って……もしかして、ここで?」
「三本勝負よ。あんたが勝ったらふさわしいって認めてあげるわ。ただし、あたしが勝ったら二度と三星と関わるのはやめること。わかったわね!?」
なるほど……そうきたか……
輝夜の言葉や、今の俺の気持ちを整理するためにも、会長に会えなくなるのは流石にまずい。
風紀委員長とはいえ、相手は女子だ。男たるもの、ここで負けたらかっこ悪い。
ここは、意地でも勝って自分の気持ちに向きあわねぇと!
「勝負は公平に、一つずつ何をするか決めあいましょう。まずはこれ! このぬいぐるみをとってみなさい!」
この人……絶対俺を負かそうとしてるな……
UFOキャッチャーなんて、いつぶりだろう。
そもそもこんなことで、会長にふさわしいかどうかなんてわかるのか?
まあ、考えてもしょうがないか。
とりあえず100円を入れ、ボタンを通じてアームを右にゆっくり動かしてゆく。
挑戦するのは、野神が持っていそうなぬいぐるみだ。
軽快な音を聞きながら、ゆっくりと狙いを定めてゆく。
狙いが良かったのか、アームはなんとぬいぐるみの紐の部分を掴んでくれて……
「え、すげぇ俺!! 神業じゃね!? 一発でとれたんだけど!!」
初めての出来事すぎて、思わずガッツポーズをかかげてしまう。
これはひょっとして、俺の時代が来たも同然じゃねぇか? いやぁ、もってる男は違うなぁ〜……
……ってやっば!! 俺としたことが! 調子のいいこといっちまった!
「あ、あの先輩! これは、その、まぐれでですね!」
「ふうん……なかなかやるじゃない」
俺がとったことが癇に障ったのだろう、彼女はかおも機嫌が悪そうに腕を組んでいる。
これはもう、やっちまったと言う他ないのではないだろうか。
ともかく彼女が取ってくれさえすれば、引き分けに終わるし、お互いに気まずくなることはないはず。
頼む、アームよ……せめて、せめて捕まえてくれ……
「ちょっ!! なんで取れないのよ! も、もう一回!!」
俺の願いなんて聞いてもいないように、アームはぬいぐるみを掴もうともしない。
それどころか嘲笑うように交わされていて、下手という言葉以外見つからなかった。
これは……マジでやばいんじゃねぇか……俺……
400円プレイ後、彼女は悔しそうに肩を震わせながら、機械にどんっと八つ当たりしてみせた。
「こんなのおかしいわよ! あんた、この機体に小細工でもしかけてないでしょうね!?」
「そ、そんなことできるわけないじゃないっすか。今日初めて勝負するってしったんすから」
「きぃぃぃっ! 悔しい!! みてなさい!! ここで終わるあたしじゃないわっ!」
悔しそうに地団駄を踏む彼女はまるで、何度も何度も挑戦したいと言う子供のようだ。
これは怒ってる……わけじゃないのか?
彼女が操作していく中、ようやくアームはぬいぐるみの首をがっしり掴んで……
「あ、取れた……」
さっきまでのプレイはどこへやら、一転して見事なプレイでぬいぐるみを穴へと落とす。
すると彼女は、ぱっと俺の方を見て……
「今の見た!? 見たわよね!? だから言ったじゃない、ここで終わらないって!」
上擦った声、高揚する頬、心の底から嬉しいとわかるような顔だった。
初めてみる彼女の笑顔はとても綺麗で、可愛らしくて。
さっきまでの印象を思いっきり壊すように、その笑顔が眩しく見えてー……
「……っ!! ご、ごめんなさい、つい感情的になったわ……」
俺が見ていたことで我に帰ったのか、パッと顔を背けてしまう。
恥ずかしがるように顔を隠す表情はやはりさっきとは違う。
どこにでもいる普通の女の子と同じで。
もしかしたら彼女は俺が思っているより、ずっとー……
「次はあんたが決めていいわ。さ、なんでもかかってきなさい」
「え? えーっと……あ、だったらあれとかどうっすか? ゾンビシューティングゲーム」
「……ほんっと男子ってゾンビ系好きよね」
呆れる彼女を横目で見ながら、密かに拳を固める。
そうだ、まだ勝負はついちゃいない。
あえてこのゲームを選んだのは、撃つべき相手が女子が怖がるであろうゾンビや幽霊だからだ。
いくら風紀委員長様でも、他の女子並みに怖くて相手にさえできないはず!
大人気ない、なんて言われそうだが……そんなの気にしない!!
小銭を入れ、設置された銃をお互いに持つ。
プレイが始まるが否や、俺たちは無言で敵を撃ち続けた。
さすがゾンビシューティングゲーム、とだけたって撃った後の血飛沫が妙にリアルすぎる……
男の俺でも渋ってしまいそうになるんだ、きっと彼女も悲鳴をあげて……
『ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ! you win!!』
な、なにぃぃぃ!?
「……ふう……こんな感じかしら? そっちは……って、たった320しかないじゃない。所詮、その程度ってことかしら?」
「こ、怖くない、んすか……?」
「あたし、こういうの平気な方なの。意外?」
そう言いながら、彼女はまたにっと笑う。
今度は意地悪そうな、してやったりな顔だ。
こんな顔をする彼女が校内一怖がられてる風紀委員長、だなんて誰が信じるだろうー……
「さあ、最後の勝負よ上杉稀羅。次で終わりにしてあげる」
「な、何をするつもりっすか……」
「三星のことをどこまで知ってるのか試してみたいの。そうね……あの観覧車の中で話しましょうか」
ニヤリと企むような含み笑いをする彼女はどこか不気味で、やはり少し怖い。
躊躇ってしまいそうになりながらも、俺は彼女に向かってこくりと頷いた……
(つづく・・・)
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