18.乙女は強し、戦え主人公
「ありがとうございました〜またお越しくださ〜い」
去っていく客の背中に向け、適当に挨拶を投げる。
やっと引いてくれた、そう思いながらようやく安堵のため息をつく。
現在8月末、夏休みも終盤戦。
輝夜、九十九、野神……彼女達と過ごした日々が、もうとっくの昔のようだ。
あれからというもの、俺は彼女達と連絡をとっていない。あっちから来る気配もない。
前までなら、ああしろこうしろと作戦が立てられたのかもしれないがあんなことがあった後だ、無理もない。
だから俺は、こうしてバイトに明け狂う日々を過ごしているのだ。
働いていた方が、何も考えずにいられるから。
『上杉君。あなたの好きは、本当に恋愛としての好きなの?』
あの日ーまっすぐに向けられた、輝夜の瞳が、脳裏にこびりついて離れない。
どんなに忙しくても、どんなに楽しくても忘れることができなかった。
それくらいあの時の輝夜の言葉は、俺にずっしりと錘のようにのしかかっていた。
あいつにいわれてからというもの、自分のこの気持ちがなんなのかわからない。
会長のことを知っていくことは、紛れもなく嬉しいことだ。
今まで知らなかったことを、色々知っていける。
あの人のことを知れる、それだけで俺は幸せだ。
だから目標を付き合うと言われて、あまり納得できなかった。
はず、だ。
今後俺がどうなりたいのか、俺自身がこんなんじゃこの先うまく行く気がしねえ。
俺はこれから、どうしたらいいのだろうー……
「上杉君、お疲れ〜今日12時までだよね? 今のうち上がっていいよ〜」
「あ、ありがとうございます」
先輩に言われ、徐に着替えを始める。
考えていたことを忘れるように、ゆっくりと外に出た。
と、そのときだった。
「メアドくらいいいじゃあん、交換してよ? お嬢ちゃん」
「そーそー。俺ら別に、怪しい奴とかじゃないからさ〜」
なんだか、やけにちゃらそ~ぉな男性の声が聞こえる。
ぱっと横を見ると、そこにはタバコを口に咥えた男性が二、三人いた。
腕にはタトゥー、ズボンにはチェーン、耳にはピアスの穴が開いており、見るからにやばそうな奴オーラがむんむんだった。
これは……ひょっとしてナンパって奴じゃね? かかわりたくねぇーなー……
一応ここバイト先のコンビニだし、見てるだけじゃまずい……よな。
「……ほんっとにしつこいわね。あんた達みたいな薄汚い奴に、あたしが教えるわけないでしょ?」
「……何だと?」
「あら、聞こえなかった? こんな薄汚い人達に教えないわよ、バーカ!」
「……黙って聞いてりゃてめぇ……ふざけんじゃねぇ!!」
拳が、大きく後ろに振りかぶられる。
これは止めなきゃ、と足を進めようとした
その瞬間だった。
「うわぁぁ!」
「な、なんだこいつ、ぐはっ!!」
長く綺麗な赤髪が、ゆらりとなびく。
気がついた時には、相手がすでに倒れていた。
その理由が彼女のものだと理解するのに、時間は要らなかった。
お、おっかねぇ〜……俺の前に現れる女子ってこんな奴しかいねぇのか??
とりあえず店員の身だし、声だけでもかけてった方がいいよ……な。
「あ、あのー……」
「まったく、なんなのよこいつら……あ、すみません、お騒がせしまし……って! う、上杉稀羅!!?」
高く凛とした声に、聞いたことがある違和感を抱く。
ルビーのように綺麗な赤い瞳、はっきりとした声色、そして真っ赤な長いツインテールー
「……ゆ、ゆゆゆゆ湯浅先輩!? なんで……!」
「それはこっちのセリフよ! 何度も何度も会うなんて……ストーカー容疑で訴えるわよ?!」
杓璃大学風紀委員長、湯浅ありす。
以前会長が友人だと言っていた女性だ。
現に初めて認識された時も、サークル視察の時も、彼女の姿をみかけたことがある。
思えば海でも、会長と一緒にいたような……
あ、あれ……? おかしいな、彼女を認識した途端、膝が笑い出したぞ……?
これも、彼女の眼圧が鋭いから……なのか?
落ち着け、俺。相手は上級生いえど女子。
感に触ることを言わなきゃさえすれば、あんな風になることはない! ……はず!!
「す、ストーカーって……こうして先輩と面と向かって話すのは初めて……っすよね? そこまで言わなくても……」
「気づいてないとでも思ってるの? あんなに忠告したのに、何度も何度も三星の前に現れておいて……図々しいにも程があるわ!」
「なっ、なんのことだかさっぱり……」
「言っておくけど、ぜーーんぶ知ってるんだから。だって彼女達に情報を提供していたのはあたしだもの。関わるなって釘を刺したのもね」
にやりと笑った顔、全てを知っているというような瞳……面と向かってるだけなのに、体全身に寒気が走る。
そうか、思い出した。
九十九が言っていた、生徒会につてがあると。
情報をもらってる人から、会長に手を出すのはやめておけといわれたと。
まさか、この人が輝夜達と繋がっていたとは……
「な、なんでそこまで止めるんすか。俺が誰を好きでも、先輩には関係ないんじゃ……」
「ふーーん? そう、そこまでいうのなら思い知らせてやらなきゃいけないようね」
「……はい?」
「上杉稀羅、あんたが三星にふさわしいかどうか、見極めてあげるわ! あたしと勝負しなさい!」
どんっと言葉を放つ彼女に、どこか圧倒されてしまう。
断ることもできない俺は、彼女のプレッシャーに押し潰されながらもぐっと拳を固めてみせた……
(つづく!!!)
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