8.ラビット将軍は開かない。
放課後のチャイムが、なる。
音が校舎に響く中、俺は一人ごくりと唾を飲み込む。
よし、と一人で呟きながら、そのドアを思いっきり開けて……
「野神、いるんだろ? 少し話そうぜ」
誰もいない教室の中で、俺の声がこだまする。
それでも俺はグッと拳を固めて見せた。
数日後の放課後、俺はいつも輝夜達といる空き教室に来ていた。
というのも輝夜がここに野神が来るようにしてある、と伝言を受けたからである。
あいつつてでしか連絡も取れねぇ上に、まともに会話したのはラビット将軍とかいうぬいぐるみを通してだけ。
情報が少なすぎるが故、どう彼女と話せばいいのか全くわからない……
が、俺は決めた。考えてくれる輝夜のためにも、自分でできることはちゃんとやる、と!
【遅いぞ、人間! 我輩を待たせるとはいい度胸だな!? 待ちくたびれたじゃないかゃ!】
この声には聞き覚えがある。
ぱっと顔を上げると、少し遠くの席にラビット将軍が置かれていた。
椅子の下で何かが動いているのが微かに気づき、それが彼女の隠れている場所だとすぐにわかった。
【む? 他のものはどうしたぞょ? お主だけかゃ?】
「残念だったな、今日は俺しかこねぇよ」
【にゃっ、にゃにぃ!? それは真か!?】
「つーわけでお前はお呼びじゃねぇんだ、ご主人様を出しな」
【き、貴様みたいな人間に、この娘をやるわけにはいかんわぃっ! 帰れ帰れ!】
ラビット将軍を演じているのか、それとも素で言ってるのかなんて俺にはわからない。
ただ、このまま話していても埒があかないのは事実だ。
こんなことで会長とうまくいくとは思えねぇが……これもすべては自分のため!
自分でやらなきゃ、意味がねぇ!!
「俺は、お前と話したいんだよ。野神千彩」
ラビット将軍が置いてある机の前の席に、ゆっくり座って見せる。
俺の姿にびっくりしたのか、肩が上に揺れる。
恐る恐る出てきた彼女の瞳は、様子を窺うように頭を出してくれて……
「やっとまともに顔見れたわ……初めまして、でいいよな? 野神」
【そ、そんな名前の者などしらにゃい……き、貴様なぞと話すことはない……】
目を合わせようとするが、すぐにラビット将軍で顔全体を隠してしまう。
やはり直接話すのは無理のようで、人見知りというのも本当らしい。
彼女はどこを見ていいのかわからないと言うようにきょろきょろ目を動かし、器用にぬいぐるみを動かしている。
まるで、自分の気持ちを表しているかのように。
仕方ねえ、側から見たら変なやつ呼ばわりされそうだが……ここは一つ、やってみるか。
「じゃあラビット将軍に質問。お前はどこの国からきたんだ?」
【ホワッツ??】
「将軍って言うんだから、どっかの国の偉い人なんだろ? どんなとこなんだろーなーと」
ラビット将軍を一人の人間として接するのみ!
正直、あの人何やってるんだろ~とか、頭大丈夫かな~とか思われそうだが……これも会長との距離を縮める第一歩だと思えば……!
【吾輩の国、か……よくぞ聞いてくれたな! 実に平和で、とても穏やかな口であるぞょ!】
「へぇ~やっぱうさぎしかいねぇの?」
【もちろん、他の種族もいるぞょ! その中でも吾輩は特にすごいのだゃ!】
ラビット将軍を通じて、彼女の顔色を窺おうと肘をつく。
それでも見られないようとばかりに、ばっと顔面を隠すようにぬいぐるみを前面に出してくる。
やれやれ……こりゃあ一筋縄じゃいかねぇわ……
それでも初対面の時よりはちゃんと会話できてるって思うと、少しは進展してるってことになる……のか?
「んで、その将軍さんはここに何しにきてるんだ? 観光とか?」
【うむ! よくぞ聞いてくれたな、吾輩はこの国に調査しにきてるのだゃ!】
「へぇ~やっぱお偉いさんも大変なんだな~」
【この国は実に過ごしやすいぞょ! 気に入ってしまった! 中でもパン! パンは最高だ!】
「パンかぁ~……俺は焼きそばパンとか好きだな~あと駅前に新しくできたコッペパン! あそこはうまかったわあ。女子受けしそうとかいって、北斗が全部の味買った時は正直頭おかしいだろとか思ってたが……」
【新しく……それは美味いのか……?】
すると彼女の目が、ぬいぐるみ越しからちらりとみえる。
その瞬間を、俺は見逃さなかった。
「すげー手頃な値段でさ、小豆とか果物とか挟んでてうめーんだよ。よかったら、今度食べに行くか?」
【……き、貴様がそこまで言うのなら言ってやらんこともないが……吾輩は異国の者であるゆえ、他の人間とうまく会話ができん……そのコッペパンを食べるのは、無理ぞな……】
それは、ラビット将軍としてなのか野神としての言葉なのか。
同時に他の人間が、俺や輝夜達以外のことを指しているようにも思えた。
輝夜達がいっていたように、彼女はかなりの人見知りだ。きっと外でお買い物、なんてこともあまり慣れていないんだろう。
マジで今までどうやって生きてきたのかっつー疑問は残るが……こうして話してくれてる以上、やることは一つのみ。
「じゃあ俺が買ってやるよ、コッペパン」
【ほ、本当か!?】
「そのかわり、店までは一緒に行ってもらうぜ? 何味がいいか、わかんねぇからな」
そう言いながら、携帯を彼女に差し出す。
俺の言葉に困惑しているかのように、ラビット将軍が止まる。
次の瞬間、野神はゆっくり、恐る恐る携帯を取り出してくれたのだった。
(つづく!!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます