9.恋は盲目、彼はポンコツ

「………とまあそんな感じで、その後一緒に買いに行ったんだけどよー。デザート系行くと思ったら、チキン南蛮が入ったコッペパン頼んでさあ。あんな小柄なのに、がっつり食うんだな? 思わず笑っちまったら、すげー攻撃されたよ」


まだ、外では雨が降っている。

それでも俺の心は明るく晴れていた。

奴等に呼ばれたことで、早くこのことを話せるとルンルン気分で向かってきた。

きっと彼女達も自分のことのように喜んでくれると、そう思っていた。

……おもっていた、のに……


「………それだけ?」


「は??」


「それだけで仲良くなったって浮かれているなんて、あなたって本当単純。そんなんで小早川三星と会話しようなんて、100年早そうね」


心底呆れたようなため息をつきながら、彼女は疲れたように椅子に腰掛ける。


上杉稀羅。とある日の放課後に、ただいま説教真っ最中であります。

なぜこんなに怒られないといけないのか、正直納得がいっていない。

なんせ俺は、ちゃんと輝夜の作戦通りに動いたはずだ。

極度の人見知りである野神千彩。彼女と普通に会話をすること。

なんとか会話できてあの日、ついに彼女と連絡先を交換することに成功したのだ。


そしてその翌日に約束していたコッペパンも買いに行ったほどである。

ほらみろ、この説明だけでも仲良くなったことは目に見えて……


「上杉。浮かれてるところ悪いけど、それってラビット将軍として……だよね? 千彩と目があって話したり、直接声聞いたりしたの?」


「………」


「やっぱり君変わってるね。ラビット将軍と仲良くなっちゃうなんて」


くすくす笑う九十九だが、彼女の言うことに一理ある。

確かに野神と目があったのはあの一瞬だけで、会話もすべてラビット将軍とのもの。

それに対し、輝夜から言われたのは、野神千彩の心を開くことで……そう思うと、なんもできてなくね? 俺。


「いやでも! お前らも一学期まるまるかかったんだろ! 人のこと言えねぇじゃん!!」


「これじゃ、次の作戦はお預けね。ちょうどいいタイミングだと思ったのだけど」


「聞けよ!! てか作戦って??」


「小早川三星と対等に会話するために、あなたには生徒から彼女の情報を調達してもらおうと思ったのよ。ちょうどサークル視察で、生徒会が来るって灯織からきいたから」


「か、会長がサークル視察!!?」


あまりの衝撃に机をドンっとたたく。

勢いがつきすぎたのか、後からになって痛みがじんじん腕に響いてきたが……


「……あなた、本当小早川三星が絡むとポンコツよね」


「う、うるせぇ……それより視察って!? 色んなサークルに会長が来るってことか!?


「あくまでも生徒会活動の一環よ」


マジかぁ……いいなぁ、サークル活動生。

運動は好きだが、バイトをしてる以上そんな余裕なくてやむなく無所属なんだよなぁ……

サークルに所属してるだけで会長と話したりできるとか、羨ましすぎるだろ……


「……そのサークル視察日なんだけど。ちょうど灯織が、あるサークルに呼び出されているのよ」


その言葉にん? と首を傾げる。

ちらりと目線を配ると、九十九は呑気に手を振ってにこやかに笑ってみせた。


「えっ、お前会長と話せるってことかよ!? めちゃくちゃ羨ましいなおい!!」


「ま、日頃の行いがいいって証拠かな~」


「本来なら千彩とのことを優先したいところだけど……生徒から彼女の趣味趣向を探れるいい機会になる……あなたは、どうするの?」


「……っ! 行きます! 行かせてください!!」


こんなチャンス、滅多に巡ってこない。

サークル視察なんて今の時期だからこそだろうし、これを逃したら次はないかもしれない。

ただ一目見れるだけでもいい。会えるだけ、俺はうれしい。

会長のことを知れる、何かのきっかけにさえなってくれれば……


「そう言うと思って、準備はしてあるわ。私は行けないけど、困ったことがあったら灯織に……」


「何から何までサンキューな、輝夜!! お前、やっぱすげぇよ!!」


あまりの興奮に、彼女の手を取る。

細く、白い手だった。

不器用ではあるものの、俺のことをちゃんと考えてくれてるということは、わかる。

こいつ……意外といい奴なんだな。


「ちょ、調子に乗らないで。言っとくけど、千彩と仲良くなることを忘れたわけじゃないんだから。ポンコツなあなたに褒められても、全然嬉しくないわ」


まあ、すこーーし性格があれだけどな!


「……いやぁ、罪な男だよね~上杉って」


「あ? なんのことだ?」


「灯織、少し黙って」


「はぁい。ま、当日はよろしく頼むよ」


そう言いながら九十九は、じゃっと軽快に手を振る。

彼女の背中を何気なく眺めていた俺に、隙ありとばかりに輝夜が勢いよく俺の手を振り払う。

悪い、と声をかけた時には彼女はすごい喧騒で、踵を返すように去っていったのだった。


(つづく!!)

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