4.クセ強Girls、ここに集結!
さんさんと、陽が照りつける。
今日も今日とて平々凡々、何ごともないふっつーの時間が過ぎる日々……
「……ふぁ~~……ねっみ」
「眠そうだな、稀羅。夜勤で疲れてるんじゃないか?」
「ん~……別にそういうわけじゃねぇけど、色々あってあんま眠れなくてさ~」
「今日現国からスタートだろ? 気をつけろよ、あの先生居眠りしてただけで単位落とそうとするらしいから」
昴の声を聞きながらも、気にすることなく大きな欠伸をする。
時はすぎること5月も中旬。
これといって大きな変化はない。
ゴールデンウィークも大学生となった今ではほぼバイトで埋め尽くされ、ましな休日を送った気はしない。
全く懲りない北斗から、合コンのお誘いはあったが……この俺が乗るはずもなく断ったのはいうまでもなく……
そういや連絡先交換した割に、あいつからの音沙汰はない。
会長と俺をくっつける、とかなんとか言ってたけど……具体的にどうするんだ??
協力すると言ってなんだが、いまいちよくわからない奴なんだよなぁ、輝夜って……
「……ん? なんかきてる」
ポケットの中で携帯が振動したのに気づき、おもむろに取り出す。
噂をすればなんとやら、輝夜からメッセージが届いていた。
『今日夕方16時、前と同じ場所で』というなんとも簡潔すぎる文章だ。
こっちの予定は聞く気ゼロ、ってとこか……まあ別になんもねぇからいいけどよぉ……
「夕方の空きコマ、どうする? 僕はバイトだから、時間まで北斗と課題しようと思ってるけど」
「わり、予定入ったわ。北斗の相手は頼むわ。嫌だとは思うけど」
「そんなことはないが……あんまり無理するなよ?」
昴が心配そうな眼差しを向けているのがわかる。
こいつだって北斗や女子の相手で疲れてるだろうに……俺の心配が先に来るとは、出来たやつだ、本当に。
持つべきものはやはり昴だな、そんなことを思いながら俺は礼がわりに彼の肩をぽんとたたいたのだった。
時というものは、あっという間に過ぎてゆく。
慣れたような足取りで俺は、講義室Aに向かっていた。
かつて、奴等と同盟を組んだ部屋と同じ場所だ。
わかりやすくするためなのか、わざわざ同じ場所を指定するのは空き教室だと知っていたのだろうか。
相変わらず何を考えているかわからないと思いつつ、そっとドアを開けるが……
「ちわーっ……す」
しんと静まり返った教室で、俺の声が響く。
講義室の机と椅子が並んでいるだけで、人の気配はなかった。
ったくあいつ、呼び出したくせにいないとか……どーいうことだっつーの……
仕方がないので、どこに座ろうか考えていると……
【おい、そこのお前】
どこかで声が聞こえる。
なんだろうと思いつつも辺りを見回しても、やはり人の影は見当たらない。
気のせいか、と開き直り再び座る場所を探しだす。
が、
【聞こえていないのか? 我輩を無視するなんて、いい度胸だな。微塵切りにしてやる!!】
女の子が出して高く、可愛らしい声色。
……なのに、声に不釣り合いな言葉がどこからともなく聞こえて来る。
全く生意気だな……確かこっちから聞こえてきたような……
ばっと視線を向けると、すぐそばにぬいぐるみがおいてあった。
いつから、そこにあったのだろう。
ぽつんと置いてあったうさぎは抱えられるくらいの大きさで、キラキラ眼差しを俺に向けているような気がして……
【よく来たな、上杉少年! 貴様を待っていた!】
声がするのに、人の姿は見えない。
まさか、このぬいぐるみが喋っているのか? いやいやそんなわけ……
【吾輩の名はラビット将軍! この学園を作ったもので~~ある! 存分に崇め奉がいいぞょ!】
「まんまじゃねぇかよ! てか、本当にこのうさぎがしゃべってるのかよ!?」
俺は夢でも見ているのだろうか。
だが人の姿もない以上、そう信じるしかない。
これは一種の心霊現象とでもいうべきなのか……やっぱ俺、疲れてるのかなぁ。ぬいぐるみと会話した、なんて言ったところで誰も信じねぇだろうなぁ……
「で、そのラビット将軍さん? 他の人はどうしたんだよ? お前一人か?」
【ふむふむ、なるほどょ。つまり上杉少年は吾輩の部下になりたいというのだにゃ!」
「言ってねぇし。人の話聞けよ」
【よかろう! ではまず吾輩のクイズに答えてもらうぞょ! ラビット将軍問題、そのい……】
「ごめ~ん、遅くなった~ってあれ? 二人ともきてたんだ? えらいね~ちゃんとくるの」
ぬいぐるみの会話を遮るように、女性二人が入ってくる。
無論、輝夜と九十九だ。
開口一番に謝った九十九はともかく、輝夜の方は遅れたにも関わらず、涼しい顔をしていたが……
……ん? まてよ? 今、二人ともって言わなかったか?
この部屋にいるのは俺だけなはずじゃ……
「あら、ラビット将軍じゃない。急に彼がきて、咄嗟に隠れたのね。辛かったでしょ、もう出てきて大丈夫よ」
「でてきてって……どういう……」
「上杉は会うの初めてだよね。紹介するよ、僕らの後輩の野神千彩(のがみ ちさ)。今年入学してきた一年生なんだ」
九十九の紹介と同時に、椅子と机の間からごんっと音がする。
ぶつけたのか、頭をさすりながら出てきたのは小柄な女の子だった。
桜のように綺麗なピンク色で、短い髪にウェーブがかっている。
制服の上着のサイズが合っていないのか、手の先が見えなくて……
「って人間じゃねえかよ!! だよな!? はぁぁ、よかったぁぁ!」
「何一人でぶつぶつ言って……もしかして、人形がしゃべってるとでも思ったとか?」
「ち、ちげえし。ていうかいるならいるって言ってくれよ……ったくよぉ……」
「あー、ごめんね? この子すごい人見知りで、初対面の人とはぬいぐるみを介してじゃないと喋れないんだよ」
なんだそのアニメみたいな設定、なんて思ったがあながち彼女のいうことは本当のようだ。
野神といったその少女は、俺から逃げるように輝夜の後ろへと隠れてしまった。
こんなこといっていいのかはあれだが……大学生にはみえねぇな、うん。
ぬいぐるみ頼りじゃねえと会話できないとか、今までどうやって生活してきたんだか……
「さて、面子も揃ったことだしささっとやりましょう」
「あ? やるって何を」
「決まっているでしょ? あなたと小早川三星をくっつかす計画よ」
ああ、そういえばもともとそれが目的だったっけか。
ラビット将軍のインパクトが強いせいで忘れてたよ……
「それじゃあ上杉君、始めましょうか」
講義台の前に、彼女が立つ。
彼女の左右に付き添うように、九十九と野神が並ぶ。
その3人の顔つきがどこか真剣で、何か訴えているように見えて、なぜか俺は目を逸らすことができなかったー……
(つづく!!)
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