第6話 体操服から見えそうで見えないもの…

 浩乃は今、付き合っている彼女から、本気で誘惑され、皆がいる体育の時間なのに、変に意識してしまっていた。


 東浩乃あずま/ひろのは体育の時間帯。

 二人一組で、準備体操みたいなことをしていた。


 合法的に彼女の体を触れている状態。


 周りから向けられる敵意の視線に戸惑っていたのだ。


 由羽と一緒に準備体操をできているのは嬉しいことだが、周りには、外敵となる存在が多いのである。


 そんなに嫌なら別れればいいと思うかもしれないが、別れるとなると、それも、陰キャの癖にと言われるだろう。


 陰キャが美少女から誘いを断るとか。

 そんなセリフが飛び交うのが目に見えていた。


 そういう都合上、どちらに転んでも辛いのである。


 どちらであっても辛いなら、付き合った方がいい。

 浩乃中でそういった結論にたどり着いたから、こうして、由羽と一緒に付き合っていた。


「陰キャの癖に」

「きもい奴だな」

「あいつとは仲良くなれそうもないな」


 そんな批判的なセリフが聞こえてくる。

 それらを耳にするたび、心が痛む。


 学校一の美少女と付き合っていて、しょうがないことではあるが、心が折れそうになっていた。




「もういいよ」


 浩乃は由羽から言われ、彼女の肩らへんから手を離す。

 そして、桐野由羽きりの/ゆうはその場に立ち上がるのだった。


「今度は私がやるね。浩乃君は座って」


 浩乃は従うように、体育館の床にしゃがむように腰を下ろした。


 すると、彼女は浩乃の肩を優しく触ってきたのだ。


 彼女から背中らを軽く押され、長座態勢になる。


 今まさに、背筋が引き延ばされているのだ。


 痛いけど、彼女からやってもらえていることを思うと、そんなに嫌ではなかった。


 決してMとか、そういう類ではないが気持ちよく感じてしまう。


 そんな中、気にかかることがあった。

 それは、浩乃の背に、柔らかいものが接触していることである。


 まさか、この感触って……。


 彼女のおっぱいである可能性が高い。

 いや、むしろ、それしか考えられなかった。


 体操着に着替えていることもあり、逆に考えれば、布一枚と下着しか彼女は身に付けていないのだ。


 そう思うと、自然に興奮してくるのであった。






「様子を見た感じ、準備体操も程よく終わった頃合いかな。じゃ、次に行くからな」


 体育館の壇上前に立つ先生は、準備体操をしている生徒らに視線を向け、話し始める。


「今日はテニスか、卓球のどちらかをやってもらうことにする。先生も、急に教頭先生とかから、しっかりとやれって言われてな。それで簡単な準備しかできていなかったんだ。時間があれば、他の競技もやろうとしたんだけどな。まあ、最初は気楽にやろうか」


 と、先生は少々早口に事を進ませようとしていた。


「でも、ここの体育館って、バスケットボールもあるし、バスケでもいいんじゃないか?」


 クラスメイトの陽キャらが、そんなことを言う。


「まあ、それでもいいが、今日の方針としては、二人一組でやることをメインに設定していてな」

「そうなの? なんで?」

「団体競技だと、慣れている人と慣れていない人で距離感ができるだろ。だから、今回は、気楽にできるテニスと卓球にしたんだ」

「まあ、いいや、じゃあ、テニスにしようぜ」


 その陽キャは、他の人らを誘って、外にあるテニスコートへと向かおうとしていた。


「それと、これがテニスラケットと、卓球のラケットだから」


 先生は事前に用意していた。


 壇上近くのところにあった大きな段ボールの中に、一式揃っていたのである。


 クラスメイトらが、その場に集まるのだった。


 陽キャらはどんなラケットがいいかと、他の人らとやり取りをした後、テニスラケットを持ち、外へと向かっていく。


 卓球のラケットの方が少しだけ余る結果となった。




「浩乃君は、どうする? 卓球にする?」

「まあ、どっちでもいいけど。由羽さんは?」

「私は、どっちでもできるけど。浩乃君がやりやすい方を選んでもいいからね」


 ふと、由羽の胸元に視線がいく。

 チラッとだけ、体操着の中に隠れてる下着が見えてしまったのである。


 先ほどの準備体操の際、背中に接触していた膨らみ具合が、また、脳裏をよぎり始めた。


 色合いまではわからなかったが、見てはいけないものを見てしまったという罪悪感に、浩乃は襲われていたのだ。


 こ、これ以上は……。


 見ない方がいい。


 そう、自分に言い聞かせるのだった。






「浩乃君って、卓球やったことある?」

「多少はやったことあるけど」

「じゃあ、大丈夫そうだね」


 由羽から向けられる笑顔。

 今、それを独占できていた。


 浩乃は体育館に残った卓球をやるメンバーらで、卓球台を設置し、卓球をやる準備を終えていたのだ。


 陽キャらは皆、外にあるテニスコートの方にいる。


 周りにいる人らはどちらかと言えば、浩乃と同じ陰キャ寄りの人の方が多い。


 ゆえに、美少女と関わっているところを見られても、普通に話しかけてきてくれるのだ。


 でも、内心、イラっとされているかもしれない。


 陽キャと同じ空間にいるよりかは幾分楽なわけだが。

 一つだけ、問題があった。


 幼馴染からの視線がある事。

 西野奈月にしの/なつきは他の人とペアを組み、浩乃と比較的近い場所の卓球台で打ち合いをしていたのだ。


 浩乃は極力視線を合わせないように心がけ、由羽と練習を開始する。


 そんなに嫌いなら見てこなくてもいいのにと思う。


 でも、そんなことを言ったら、余計に面倒になるし、他の人らからも引かれるのは目に見えている。


 今は落ち着いた方がいいだろう。


 由羽と卓球をしているのだ。

 球の打ち合いに集中しようと思う。




「あッ、ごめん」


 刹那、由羽が別のところに向かって球を打ち返してきたのである。


「私がとってくるね」

「だ、大丈夫だから。俺が行くよ」


 浩乃は咄嗟に言い、球が転がっていた場所へと向かっていく。


 すると、運が悪いことに、幼馴染の足元に球があったのである。


 なんで、こんなことに……。


「なに?」

「何じゃなくて……球が転がっていったから」

「は? きも」

「ど、どういうこと⁉」


 幼馴染から見下された視線を向けられ、言われる。


 浩乃は冷静に考え、幼馴染の思考回路に気づき、彼女の発言の意図がわかると妙に気まずくなっていくのだった。

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