第5話 俺は合法的に女の子の体を…⁉
正面には、今、一番関わりたくない奴がいたのである。
「あんた、ここで何してんの?」
「なにって、たまたま立ち寄ったから。というか、ここにハンバーガーを食べる以外に何かすることがあるの?」
「……別にないと思うけど……」
本当に意味不明な奴だと思う。
「何? 何見てんのよ」
「いや、俺さ、ここ通りたいからさ。というか、別に、奈月のことをまじまじと見たいわけじゃないし」
「ふん、あっそ……勝手に行けば」
「俺も最初っから、そのつもりだから」
浩乃はぶっきら棒な感じに返答してしまった。
多少は心が痛むことだってある。
奈月のことはそこまで好きじゃない。
けど、いつまでもこんなやり取りをしたいわけじゃないのだ。
本当は素直に和解したいという思いはあった。
けど、奈月が普段からそんな態度を見せるから、浩乃も素直にやり取りができないのである。
昔はこんなに仲が悪いわけではなかったのに……。
「あんたさ、普段からこういう場所に、一人で来るの?」
「一人って……いや、というか、奈月は? もしかして一人?」
「……べ、別に一人でもいいでしょ。元々、私の方から質問していたんだけど。それで、あんたは一人なの?」
「違うけど」
「……⁉」
奈月の表情が曇った。
不満そうな表情がさらに不満げになったのである。
「あ、あっそ」
彼女からは、適当な感じの返答しか返ってこなかった。
浩乃は幼馴染と別れ、トイレを済ませたのち部長がいるところまで向かう。
部長は窓際のカウンター席に座っていた。
「ようやく戻ってきたのね。意外と長いのね」
「すいません、色々あって」
「色々って?」
「な、なんでもないです。それより、もうハンバーガーが出来上がってたんですね」
浩乃は部長の隣の席に座りながら、咄嗟に話を逸らした。
「そうなんだよね。結構早いよね。ここのハンバーガー店」
「そうですね」
二人はテーブルに置かれた、トレーの上に乗せられたハンバーガーを食べることにしたのであった。
翌日の朝。浩乃は学校にいる。
昨日の件を振り返ると、意外と考えることが多かった。
まさか、ハンバーガー店で、幼馴染と出会うなんて。
幼馴染のことを思うとイラっとするところもあるが、どこかに、この感情をぶつけるとかはできなかった。
なんせ、学校一の美少女――桐野由羽と付き合うようになってから、周りからの当たりが強くなっているからだ。
いつも誰かに睨まれているような気がしてならなかった。
それに背筋に寒気まで感じる。
元々、浩乃には友達のような親しい存在なんて、このクラスにはいない。
最初っから変わらないと思えば、何とか乗り越えられそうな……。
いや、やっぱ、乗り切られないか。
ただでさえ、孤独なのに、さらに四面楚歌状態とか、メンタル的にも辛いのだ。
浩乃は心の中で溜息を吐く。
「では、今日はペアを組んでもらうからな」
午前の体育の時間帯。
体育館の壇上近くのところで、ジャージを着た一人の男性教師が、周りを見て指示を出していた。
「じゃ、俺と組もうぜ」
「ああ」
「じゃあ、私とでもいい?」
「うん」
周りにいる人らのペアが決まっていく中、浩乃は孤独だった。
そんな中、幼馴染からの視線を感じていたのだ。
「ね、私とペアになろ、浩乃君」
刹那、そんな視線をかき消すかのように、付き合っている由羽から腕を軽く掴まれたのである。
だが、さらに周りからの視線の当たりが強くなったのは言うまでもないだろう。
何かあるなら、直接話してくればいいのにと思う反面。
あまり関わりたくないといった葛藤に苛まれる。
「では、今から組んだ人と準備体操をしてもらう。それからペアでテニスとか、卓球をしてもらうから。今回から協力して何かをするという授業をすることになったんだ。大人の事情でな」
少々周りからの不満が漏れているが、体育の先生も大変らしい。
以前は自主的な活動を心がけるようにということをモットーに体育の授業を受けられていた。
が、他の先生らから、もっとしっかりと指導するようにと言われたらしい。
先生も普段からやることが多いのに。キャパシティオーバーしないか不安でもあった。
「じゃ、テキパキと動くように」
先生の指示に従うように、皆、各々の場所で準備体操をすることになった。
女の子とこんな近距離で関われるなんてと思う。
陰キャで友達もほとんどいないが、数少ない幸せを感じられていた。
昨日は、部長とハンバーガー店で一緒に食事ができたのだ。
一応、女の子の方から言い寄られることは増えてはきたが、あまり変なことはできない。
如何わしい感情をグッと抑えつつも、由羽と準備体操を大勢になる。
「ねえ、私の体どうかな?」
「⁉」
由羽が体育館の床に座り、浩乃が彼女の背中を押し、長座させる形になっていた。
彼女の魅力的な体を触りながらの行為中、彼女から問われ、ドキッとしてしまう。
浩乃は今、美少女の体に触れているのだ。
「ね、どうかな?」
「どうって……」
浩乃が返答しようとすると、周りから向けられる視線が痛くなる。
陰キャの癖に、合法的に、女の子の体を触っているとか、イラつくといった表情でかつ、そのような視線が、浩乃の胸の内を貫くようだ。
いや……ものすごく気まずいんだが……。
浩乃は開放的な体育の時間なのに、息苦しく感じていた。
皆の方へ視線を向けることなんてできなくなっていたのである。
「別に問題ないからね」
「え?」
「だから、今は体育の時間だし、先生も、しっかりと準備体操をしてって言ってたじゃない」
「そ、そうだね」
「そんなに緊張しなくてもいいから。それと、私の体とかに興味持ってもらいたいし」
「⁉」
意味深な口調に、浩乃はたじろいでしまった。
本気で、そんなことを言っているのかと思う。
「私、本気だから……」
由羽も、実のところ恥ずかしいようで、照れくさそうに声が小さくなっていた。
でも、合法的に美少女の体を触れているのだ。
嬉しいけど、今、最高に苦しい。
皆から注目される美少女と付き合うということを、身をもって体感している瞬間でもあった。
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