第7話 俺には、幼馴染を嫌いになった過去がある…
それは正面に面倒な奴がいたからだ。
「なに? きもいし、どっかに行けば?」
幼馴染の奈月から、酷い言われ方をされた。
イラっとした感情に苛まれるが、グッと、その感情を堪えたのである。
「そ、そんなのわかってるから。でも、そこにあるボールを取らないといけないからさ、少しどいてくれない?」
「……」
幼馴染から睨まれた。
なんで、そんなに嫌悪感を丸出しにしてくるんだよ。
浩乃はげんなりした。
でも、結果としては、卓球のボールを取ることができたからいいものの、本当は関わりたくない。
ボールを取るだけで、ここまで苦労するとか、やってらんないな。
浩乃はそう思いつつ、幼馴染に背を向け、その場から立ち去ろうとする。
先ほど浩乃が口にした球という発言を、幼馴染は卑猥なセリフだと勝手に受け取ったらしい。
幼馴染は早とちりすぎである。
というか、変なことを考えているのは、奈月の方じゃないかよ。
浩乃は色々なことを思考し、また溜息を吐いてしまうのだった。
はあぁ……。
なんか、ボールを取るだけで結構な時間がかかったな。
浩乃はそう思いながら、
「どうしたの? ちょっと口げんかになっていなかった?」
彼女から優しく問いかけられた。
奈月と関わってからだと、由羽の存在が天使に思える。
「んん、なんでもないよ。大丈夫だから」
「そう? だったらいいけど。でも、無理しないでね」
「うん」
「ここだけの話、あまりあの子のよい噂を聞かないでしょ?」
「……そうだね」
浩乃は由羽のセリフに、ドキッと胸の内を掴まれた感じになった。
奈月のことは悪く言いたくない。
でも、それは事実であり、変な噂が渦巻いている幼馴染には同情なんてできなかった。
実のところ、
それを浩乃は知っているのだ。
だからこそ、数か月前に、幼馴染のことを振ったのである。
「では、これで終わりな」
体育館で由羽と卓球ボールの打ち合いをしていると、遠くの方から声が聞こえてくる。
テニスコートの様子を見て、体育館に丁度戻ってきた先生が、そんなことを言っていた。
その直後、テニスコートにいた陽キャ寄りの男女らが体育館に入ってくるのだ。
「卓球している人らも、そろそろ後片付けな。さっさとやって終わらせような」
体育の先生は少々急かしているところがあった。
早く休憩したいのかもしれない。
普段より本格的に、体育をしている感じであった。
先生も急に他の先生らに、本格的に指導しろと言われて、体力もそうだが精神的に疲れているのだろう。
浩乃は余計なことを言わず、皆と一緒に、卓球台を片付けることにしたのだ。
皆で片付けたこともあり、一瞬で終わったのである。
それから、一分ほど早かったが、終わりの挨拶を済ませ、皆、体育館から立ち去ることになったのだ。
浩乃が体育館から出ようとした直後、幼馴染と不覚にも視線があった。
嫌な気分になるものの、幼馴染の方から積極的に話しかけてくることはなく、何事もなかったかのように、立ち去っていく。
本当はこんなに仲が悪くなったんだけどな……。
元々、浩乃と奈月は仲が良かった方である。
高校生になった春休みの終わりまでは――
奈月とは高校生になってから付き合うようになった。
そして、高校一年生の時は、色々なところに足を運んだりもしたのだ。
少し大人になり、比較的行動範囲が広がったのである。
だから、そういったことも相まって、今まで行けなかったところまで、ちょっとした旅行をしたこともあった。
浩乃は奈月とずっと、こんな関係が続くと思っていたのである。
しかし、春休みが明け、状況が変わった。
それは、奈月に関する噂が出回っていたこと。
それこそが、幼馴染との関係性に亀裂が入った原因でもあった。
奈月は、浩乃の知らないところで浮気をしていたのだ。
しかも、年上の人とである。
ヤバい活動をしているのだと、周りから噂を聞くようになり、浩乃は幼馴染との関係が次第に悪くなっていったのだ。
最初は何かの間違いだと思っていた。
しかし、その噂が次第に明らかになってきたのである。
幼馴染が変な活動をしている場面。
そういった写真をクラスメイトから見せつけられ、その噂が真実だと突き付けられたのだ。
その写真も加工かと思った。
でも、何度見ても、それは違っていたのだ。
彼女は本気で、浮気をしているし、年上の男性と変な活動もしている。
そんな現実に打ちのめされたのだ。
本当は幼馴染のことを信じてあげたかった。
でも、それは無理そうである。
その時、浩乃はそのような結論にたどり着いたのであった。
やっぱり、そういう子とは付き合えないと――
浩乃は嘘をつかない子の方がいいと思うようになった。
だから、幼馴染のことを振って、距離を取るようになったのだ。
「浩乃君、あーんして」
浩乃は受け入れるように、彼女の前で口を開けたのだ。
現在付き合っている由羽との食事。
今日の昼休み、心地よさを感じていた。
現在、学校の屋上で同じベンチに座り、二人っきり。
他にもチラホラしているものの、そこまで接点のない人ばかりである。
ここにはクラスメイトもいない。
平静を装って、恋人と過ごせていることに幸せを感じていた。
いつも睨んでくる彼女よりかは、明るい子の方が断然いいに決まっている。
やはり、嘘をついて怪しいことをしている幼馴染よりかは幾分ましだと思う。
浩乃は幼馴染のことを信頼していた。
だから、裏切られたという感情の方が勝ってしまっているのだ。
「浩乃君は、私の料理美味しい?」
色鮮やかな弁当箱を膝の上に置き、優しく問いかけてくる彼女。
由羽は途轍もなく、料理が上手なのである。
この前の調理実習でも、店屋さながらのケーキを制作し、周りから一目置かれていたのだ。
「うん、美味しいよ」
「でも、次からは他の料理も作ってこようと思ってるけど。何がいいかな?」
「えっと……由羽さんが作るのはすべてが美味しいからなんでもいいよ」
「嬉しいけど、具体的に言ってほしいかな」
由羽は浩乃の右腕に寄り添いながら、甘えた口調で言ってくる。
この幸せをもっと続けていきたいと思うのだった。
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