第1話 俺は、彼女らから、色々な意味で目をつけられている⁉

 東浩乃あずま/ひろのは幼馴染のことが好きではなかった。


 ゆえに、何が何でも、幼馴染とは関わりたくなかったのである。


 だが、人生というものは上手くいかないものだ。


 幼馴染の西野奈月にしの/なつきとは家が隣同士だからである。


 朝、自宅から出ると、浩乃は溜息を吐いてしまう。




 恋愛に関しては自分にも間違いがあったかもしれない。

 でも、すべてが悪いとは思ってはいなかった。


 元々、幼馴染とは仲が良かったのである。

 あの一件以来、関係性が拗れてしまい、馬が合わなくなってしまったのだ。


 昔のことを思うと、モヤっとした感情を抱きたくなってしまうことはある。

 納得がいっていないことだってあるのだ。


 だからと言って、自分から幼馴染との距離を詰めたいとは思えなかった。






「というか、なんで、こっちの方を見てんのよ」


 朝の通学時間帯。

 嫌な奴から目を付けられ、話しかけられてしまっていた。


 本当に最悪である。


 学校へと繋がっている通学路。

 浩乃の瞳に映るのは、幼馴染でかつ、クラスメイトの西野奈月。

 肩にかかる程度のヘアスタイルが特徴的な彼女。

 普通にしていれば美少女の部類に入るだろう。


 が、学校内では競争相手の美少女が多く、色々な意味合いで残念で感じのポジションの幼馴染である。


「じゃあ、話しかけてこなければいいだろ」

「あんたが、私の視界に入るからよ」

「じゃあ、見なければいいじゃんか」


 浩乃の不満げに、少々強めの口調で言ってしまう。


「じゃあ、私が学校に到着してから登校すれば」

「それ、いつ登校すればいいんだよ」

「それくらい、あんたが考えなさい」

「……」


 幼馴染からの横暴すぎる発言に、浩乃は湧き上がってくる怒りの感情をグッと抑えていた。


 こんなところで、不満な感情を爆発させてはいけない。


「私、あんたとは登校したくないし」

「だったら、逆にお前の方が時間をずらして登校すればいいだろ。俺だって時間をずらして登校しようとしてんのにさ。でも、なぜか、お前と同じ時間帯と重なるし」

「あんた、ストーカー?」

「違うから。どちらかといえば、お前の方がストーカーだろ」

「私も違うから。勝手に妄想しないで、変態」

「俺は変態じゃない」


 浩乃はハッキリと言い返してやった。


「というか、私、あんたから見られながらの登校は耐え切れないし。先行くから」

「勝手に行けばいいだろ」

「……」


 幼馴染の奈月から無言で睨まれてしまう。


「な、なんだよ」

「別に」


 奈月は不満そうに言うと背を向け、通学路を走り出して行くのだった。


 一体、なんなんだよ。


 浩乃は幼馴染と一緒にいる時、イライラが収まらなくなる。

 けど、先に行ってくれたお陰で、気が楽になった感じである。


 実際のところ、自分にも非があることくらい知っているのだ。


 けど、それを踏まえても、幼馴染からの当たりが強かった。


 だから、あまり距離を縮めたくないのだ。


「というか、早くいかないと、俺も学校に遅れるじゃんか」


 浩乃はスマホの時間帯を確認したのち、幼馴染に追いつかない程度に軽く走り出すのだった。






「ねえ、一緒にご飯でもどうかな?」

「う、うん。いいけど……」


 昼休み。

 午前の授業終わり。教室にいる浩乃は、弁当箱を手にしている桐野由羽きりの/ゆうからの問いかけに対し、席に座ったまま頷いた。


 由羽は今日も美少女といった感じである。


 しかも、同じ教室でいつも生活しているのだ。


 それだけでも勝ち組だというのに、昨日、校舎裏で告白されたのである。


 これほどまで恵まれた状況はそうそうない。


 だがしかし、今、もっとも人生で気まずかったのである。


 なんせ、教室内にいるクラスメイトから見られているからだ。


 美少女と会話できるのは嬉しいことだが、教室内でやり取りをするのは、ハードルが高い。


 そして、色々な意味合いで精神的にキツいのである。


「ここでとかは?」

「それは……ちょっと……」


 由羽は容姿端麗で勉強も部活もできる優れた子なのである。

 ゆえに、学校内で最も人気な女の子。

 彼女のことを好きな子はかなり多かった。


 そんな環境下。

 教室で食事をするなんて、他人への当てつけでしかない。


 浩乃はどうすればいいのか、必死に考え込むが、思考すればするほどに焦ってばかりである。


 先ほどから感じる周りからの敵意の視線。

 陰キャなのに、美少女と関わっているとか、批判の的になるのも理解できる。


 多くの視線が浩乃に向けられている現状。その中には幼馴染の視線もあった。


 幼馴染とも同じクラスであり、朝の件を思い出すだけでも息が詰まる。

 昼休みの今も、その気まずい視線を、幼馴染から一心に受けていたのだ。


 早くここから逃げ出さなければ。


 浩乃はそういった使命感に駆られるように席から立ち上がる。


「ここで話すより、ちょっと別のところに行かない?」

「どこ?」

「そ、それは……」


 浩乃は言葉選びに迷うが、咄嗟に彼女の手首を掴んだ。


「ひとまず、こっちの方に」


 と、浩乃は少々強引な感じに、由羽を教室の外へと引っ張りだすのだった。






 学校の敷地内。

 校舎裏側のベンチ近く。


「君って、結構強引なんだね」

「君の方が強引だと思うけど」

「でも、まあ、ちょうどいいし、ここでお昼ご飯にしない?」

「なんか、急だね」

「でも、君もここで食事をしようと思ってたんでしょ? だから、ここに案内したんじゃないの?」


 浩乃は一応頷いた。


 二人はベンチに隣同士で座る。


 浩乃は由羽のことが好きかどうかはわからない。


 でも、ようやく学校一の美少女と二人っきりになれたのである。


 嫌いな子と付き合うよりかは何千倍もいい。

 多少、周囲からの視線は怖いものの、美少女と付き合っている代償だと思えば、何とか、この苦しみを乗り越えられそうであった。


「私ね、お弁当を作ってきたの」


 隣座っている彼女は弁当箱を開けた。


 彼女の弁当箱の中身は色鮮やかな食材で構成されていたのだ。


 これから由羽の手作り弁当を食べられると思うと、内心、テンションが上がるというものだ。


 今度こそは、女の子とのトラブルを避けたい。

 浩乃は、そんな思いを胸に、桐野由羽と関わっていこうと思うのだった。






「ねえ、あーんして」


 浩乃は口を開けた。

 そして、咀嚼する。




「じゃあ、こっちもね」

「え? うん……」


 別の方にも顔を向け、浩乃は、その子から渡されたものを口にするのだった。


 今、双方から食事をさせられている状態。


 先ほどまでは、由羽と二人っきりだったが、もう一人増えていたのだ。


「浩乃先輩は私の方がいいですよね?」

「そういう質問はここでは……」


 小柄でちょっとばかし積極的な後輩の存在に、浩乃は戸惑う。


 由羽とだけの空間が崩れ。

 今では、後輩の多岐川朱莉たきがわ/あかりが、浩乃がいる左隣のベンチに座っている。


 朱莉も都合よく、弁当を作ってきたらしい。


「浩乃先輩、本当は私の方がいいですよね? ね?」

「えっと……」


 こういう時に、グイグイと来ないでほしい。


 刹那、右側からの嫉妬染みたオーラ。


 本当にどうなってしまうのだろうか?


 そんなことばかり考え、板挟みの今、浩乃は気まずい昼食をとる羽目になったのであった。

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