第13話 ジューンブライドより
晃さんと買い物中。
少しの待ち時間の時、あるビルのショーウィンドウに、純白のウェディングドレスを見つけた。
そっか。今六月だから。ジューンブライド、というやつだ。六月に式を挙げるのは、日本の気候には合わなさそうだけど。ガラスの向こうのマネキンは、繊細なレースをふんだんに使ったドレスを纏っている。これはAラインかな。ドレスにもタイプがあると知ったのは最近だけど、例えば私なら何が似合うのか。似合わないのか。隣の新郎マネキンにも目をやる。晃さんは何でも様になるから、この格好をしても決まるんだろうな。正直私のドレスより晃さんの格好の方が見たい。
ボケっと見てたら、ガラスに晃さんが映り込む。
「待たせたな。何?未来のシミュレーション?」
晃さんがドレスを見て笑う。
「早すぎません?」
「まだ婚約指輪も買ってないもんな」
こんなので良いんだろうか……。
「……楽しみにしてます」
「ドレス見てる菫見てたら、早く着せてやんないとなーと思ってさ」
「そんな着たそうな顔してました?」
心外。晃さんが快活に笑う。
「俺が早く見たい。菫のドレス姿」
真顔で言うから笑ってしまった。
「じゃあ私のドレス、選んでもらえませんか?」
「花嫁が選ぶもんじゃねぇの?着たいデザインとか。指輪も選んで欲しいって言ってなかったか?いいのかよ」
怪訝な顔をされて、そういえば説明してなかったと思い出す。私はいい加減にこんなことを言ってる訳じゃない。
「全部晃さん任せにして適当に考えている訳じゃないですよ。あんまりこういうものにこだわりが無いのは、そうなんですけど。指輪だって、晃さんと一緒に付けていることに意味があるものだと思っているので。自分で選ぶより、晃さんが私の為に選んでくれたものの方が良いなと思えるんです。指輪も、ドレスも」
うーん、ちゃんと伝わるように説明するのが難しい。晃さんは溜息をついた。やっぱり伝わってないかな。口を開こうとしたら手を引かれて、腕の中に閉じ込められる。
「ちょっと、晃さん!?」
ショーウィンドウ前で。恥ずかしい。
「俺の恋人がこんなに可愛い」
囁かれ、顔が熱くなる。この人は……!
「菫は何着ても付けても可愛いし、すげー悩んで考えて決めるからな、俺。覚悟しとけよ」
見上げた深い緑色の瞳は、優しく光っている。嫌な訳が無い。
「お願いします」
「あ、でも質問はする。菫のことは俺が知りたい。俺の為に答えてくれ」
そんなこと言われたら断われない。
「……分かりました」
にやっと笑うと、晃さんは離れて手を繋いでくれる。暖かい。
「式だけどさ、俺は春が良いと思うんだよなー。ジューンブライドはまあ分かるけどよ、日本の気候には合って無さそうじゃん?」
同じようなことを考えていて、私は声を出して笑ってしまった。
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