第11話 ホワイトデー
「うん。似合ってるな」
ホワイトデー。
榊の部屋で、菫と榊は向かい合って座っている。榊が身を乗り出し、菫の耳へイヤリングを付けた。薄紫色の小さく丸い宝石が、煌めく。
「ありがとうございます」
耳へ手をやり、菫は少し照れたように笑う。
「俺はお菓子作りは苦手だから、チョコも既製品で悪いけど」
「晃さんから貰えるなら、何でも嬉しいですよ」
紺地に白い花柄のワンピース、紺色のカーディガン、下ろした髪をふわりと揺らして、菫は笑う。
「代わりに夕飯はきっちり振舞うから」
「こんなにたくさんいただいて良いんでしょうか……バレンタイン、そんなに渡せて無いのに」
少し焦る様子の菫を、榊は笑って抱き寄せる。あっという間に腕の中に捕らえ、その髪を優しく梳く。
「菫がここにいてくれれば、俺は何も文句ないね」
「晃さんが私に甘すぎて心配になります……」
「何でよ?菫は俺のもんだし、可愛い恋人にはどこまでも甘くしたいじゃん」
榊は菫の頬を撫で、一瞬イヤリングを外す。
「晃さん?」
そのまま菫の耳朶へ口付け、柔らかなそこへ印を残す。
「いっ、晃さん!」
抗議する菫を笑って押さえ、榊はまたイヤリングをつける。
「こうしとけば大丈夫大丈夫」
「綺麗だし、デートの時だけ付けようと思ってたのに……しばらく付けてなきゃいけないじゃないですか……」
睨む菫を見、榊はまた笑う。
「そう考えてるだろーなと思ったからな。耳見てもイヤリング見ても、俺のこと考えるだろ?俺の独占欲舐めるな」
「そこまでしなくても……。私は晃さんのものですよ」
「俺がやなの」
きっぱり言い切る榊に、菫は呆れたような表情で溜息をつく。
「何ですか、それ。というより。……両方の方が、晃さんで頭がいっぱいになると思いますけど」
少し榊の手を引いて訴える菫の頬は、ほんのり赤い。一瞬目を丸くし、榊は快活に笑い出す。
「本当、面白い娘。そういうのどこで覚えてくるか知らんが、俺以外には絶対するなよ?」
榊が真面目半分おどけ半分で言うのを、菫は半眼で見上げる。
「する訳ないです」
「ーーいつもありがとな、菫」
贈ったイヤリングのように輝く菫の瞳を覗き込んで。榊はまだ証のついていない方の耳へと、口を寄せた。
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