第6話 救いの声


悪夢を見た。

目覚めた今、内容は覚えていない。

だが、後味の悪さと怖さが、冷や汗と共に残っている。気分が悪い。枕元のスマホが鳴った。この深夜に。とりあえず取ると、今一番聞きたかった声が聞こえる。

こうさん?”

すみれか?どうした?」

“声が聞きたかったので。起こしてごめんなさい”

違う。俺が悪夢を見た晩は、かなりの確率でこうして深夜でも電話をくれる。菫自身が悪夢を見た晩も時々電話が来るが、声が寝起き。俺が悪夢を見た晩は、まるで分かっていたようにいつもの声だ。今も。

「いや。菫の声が聞きたかった。夢見が悪くてな。今起きた。助かったぜ、本当」

息を吐き出す。我ながらひでぇ声。

「菫、何で分かるんだ?俺が魘されてんの」

電話の向こうで唸り声が聞こえる。

“私も、分かるのは晃さんが初めてなので、確かなことは言えませんけど……晃さんが大事な人だからだと思います”

言い切る菫の直球の威力。悪夢とかもうどうでも良い。

「……抱き締めてぇ」

“えっ!?”

焦る声に、笑う。

「電話くれるのは嬉しいけどな。菫もちゃんと寝ろよ」

“私が、勝手にやってることなので。本当は側にいたいですけど。心配なんです。夢は夢ですけど、気分悪いし……”

萎んで行く声に、胸が暖かくなる。菫にしか出来ない。つか俺の恋人可愛すぎ。

「じゃあ、助けてもらうかな。俺も出来ねーかな、それ」

“晃さんは、もうたくさん助けてくれてます。それに、いろいろ分かる晃さんがこれ以上分かることが増えたら、辛くなりますよ”

戯けるような、苦笑いのような珍しい調子の笑い声が、何故か胸に来る。なら、菫は。まだまだこの娘を知らない、分かってないことばかりだと思い知らされる。

「菫のことが分かるなら、良いさ。願ったり叶ったりだろ」

“そんなこと言って!”

本気で怒ってる声が、愛おしい。心配してくれることが、嬉しい。が、眠気が戻って来た。良いとこで。

「眠くなって来た。寝落ちるまで繋いでていいか?」

“良いですよ。子守歌でも歌います?”

ヤケクソみたいな言い方に笑う。面白過ぎ。

「歌ってくれんの?俺菫の歌聞いたことないけど」

“……また悪夢見たら困るので、止めましょうか”

「えー」

“寝てください”

スマホを枕元に置く。菫の声が少し遠ざかる。

「明日家寄って……菫が足りねぇ……」

“何ですか、それ”

言葉と裏腹に、菫の声は優しい。寝れそう。

朝まで見た夢の中。透明感のある優しい歌声が、俺をずっと癒やしてくれた。絶対菫だけど、歌ってくれなくなったら困るから、起きてる時に歌わせるまで黙っておくことにする。






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