第4話 優しい朝
ふわりと、
微かに朝日を感じる。布団の中で少し身じろぎして、ここが
昨夜、泊まるなら床で寝ると言った菫に榊が反対し、一悶着の末じゃんけんで負けた菫はベッドで寝ることになったのだ。菫は起き上がる。
(朝だし、一旦帰ろう。今からなら
半分寝ぼけつつ、菫は榊を起こしてみる。
「……どうした、夢見でも悪いか」
「いえ。あの、私もう帰るので、ベッドで寝てください」
榊は目を丸くし、身体を起こす。
「もうそんな時間か?……て、五時じゃん。早いだろ」
「もう明るいですし」
榊も半分寝ぼけたまま、でも呆れた目で菫を見ている。
「変なとこで変な気を使うんじゃない」
言いながら、傍らにいる菫を軽々抱き上げる。
「えっ、晃さん!?」
榊は無言で、まだ暖かい布団に菫を寝かせた。そして、自分の布団も持って来て菫の隣に収まる。
「あの、」
「あと一時間くらいで起きるから、それまでな。俺はベッドで寝てるし、文句無いだろ?」
「でも、狭いんじゃ、」
「なら、こうすりゃ良い」
横を向いた榊は、優しく菫を抱き寄せる。榊の腕の中で、菫はいよいよ動けない。
「疲れてんだから、ちゃんと休めよ~」
しばらく菫の髪を梳いたり撫でたりしていた榊だったが、やがて寝落ちて行った。残された菫は、じっと榊の寝顔を見つめている。
(余計に眠れない……。寝顔も綺麗なんだよなぁ……)
綺麗なだけじゃない、どこか少年の面影のようなものも感じ、眩しく感じる。頬に触れたくなったが、起こしたくないから結局何もしなかった。暖かい。あと少しだけ、菫は榊へ身を寄せる。
(良い匂い……晃さんて、香水とかしてるのかな)
していても、不思議ではない人である。起きたら聞いてみようかと思い、息を吸い込む。
(少しドキドキしてるの、聞かれなくて良かった……)
菫は榊の服を掴み、目を閉じた。
榊が再び目を覚ました時、菫は彼の腕の中で彼の服を掴み、大層気持ち良さそうに寝ていた。
「……これ起こせねぇじゃん……」
榊は溜息をついたが、菫を見る眼差しは優しい。
(愛おしくて仕方ない、って、こういうことかよ)
彼女の頬に掛かる髪を、優しく掬う。起きている時と違う、僅かなあどけなさと安心しきった表情がないまぜの顔に、榊は堪らない気持ちになる。
(ずっと腕の中に閉じ込めておきてぇ……)
独占欲は強い方だ。自覚はある。だけどこんなにか。自分で笑いそうになって、結局苦笑いになった。
「愛してる、だけじゃもう足りねぇよ。菫」
菫を引き寄せる。この時間くらいは、閉じ込めても罰は当たらないだろう。朝日に溶けて消えてしまいそうだ、と馬鹿な幻想を抱かせるくらいには儚い印象の菫。そんな彼女を留めるように、榊は優しく抱き締めた。
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