第3話 年越し蕎麦と

※本編「地蔵と歳神と佐和商店」後の二人



すみれ。蕎麦出来たぜ」

「……あれ。すみません」

菫は目を開けた。目を閉じた記憶が無かったが、居眠りしていたようだ。さかきの部屋にはこたつがあり、結局菫は出られなかった。

「寒かったし、病み上がりだからな。疲れたんだろ。気にするな」

「お蕎麦、ありがとうございます」

もう年は越したが、榊の部屋で二人、遅い年越し蕎麦を食べることにしたのだ。

「温かい蕎麦最高……」

蕎麦をすすり、榊は息を吐く。

「美味しいです……」

菫もホッとしたように笑う。そのまま、思い出したように口を開く。

「あのかまくらが無くなったのは、惜しい気がします」

榊は向かいに座る菫を見る。

「何で?」

「私とこうさん、入って飲食してないじゃないですか」

「何か食べたかったの?」

「……せっかく作りましたし、一緒に甘酒とか飲んだら楽しいかな、って」

一度箸を置き、榊は手で顔を覆う。歳神やら地蔵やらの来訪、という超常現象があったのに、そんな可愛いことを考えていたとは。肝が座っているのか、天然なのか。どっちもか。

「……ドカ雪降ったらまた作るから」

「え、絶対じゃないですからね!?」

少し慌てる菫に、榊は手を外してにやっと笑う。

「可愛い恋人の可愛いお願い、叶えてやりたいじゃん」

「ちょ、晃さん!?」

菫は顔を真っ赤にする。可愛いことを言ったなんて自覚は無く、時差で恥ずかしくなったのだ。

榊はそんな菫を見、幸せそうに笑った。


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