第2話 髪型変化


いつも通り出勤して来たすみれに挨拶したさかきは、彼女の姿に一瞬で目を奪われた。

いつも低い位置で一つに結っているだけの髪が、今日は編込みの団子ヘア。印象がまるで違う。

「すみちゃん、その髪、」

「え、あ、あの。友人が遊びで結ってくれて」

髪に手をやって、菫は恥ずかしそうに俯く。

「やっぱり変ですかね。似合うからそのままが良い、って言われたんで、そうしたんですけど」

榊はにやっと笑う。

「いや。すげー似合ってるぜ」

「ありがとうございます……」

榊は事務所のドアに手を掛けた菫の耳に口を寄せ、囁く。

「正直、誰にも見せたくねぇな」

「!」

菫は耳まで真っ赤にして榊を見上げる。その顔がまた堪らなく可愛らしく、榊は笑みを深めた。

「俺以外の奴にそんな顔すんなよー?」

茶化して言えば、菫は即座にドアを開ける。

「いい加減にしてください。する訳無いじゃないですか。……こんな顔させるの榊さんだけなんですから」

菫はそっぽを向いて入り、ドアを閉める。

怒っても結局可愛い。そう思いつつ、言われた言葉の威力に、榊は頭を抱えた。

「何処で覚えてくんの、そんな台詞」

余裕が持てない自分が可笑しく、それでいて穏やかな気持ちになる。

「本当に面白い娘だよ、すみちゃんは」

少しばかり、以前と意味合いは変わったのだけれど。榊は可愛い恋人が出て来るのを、のんびり待ち構えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る