第444話『バージンロードを往く者たち』
予定された配信開始時間になると同時、画面が切り替わり結婚式場の背景画像が表示された。
ループ再生されている「ざわざわ」というSEだけが聞こえてくる。
そんな配信のタイトルには『結婚式会場【翻訳少女イロハ】』の文字。
待機中から多かった視聴者数は、いまや何十万という数になっており……。
『――ご列席のみなさまへご案内いたします。本配信は切り抜き、スクリーンショットなど……すべて自由だよっ! みんなーっ「#イロハ結婚」で思いっきり宣伝して姉ぇ~っ!』
>>アネゴ好きだぁーっ!
>>開始トゥイート……じゃなくてポスト、しっかりいいねとリポストしといたぞ!
>>初手アネゴ、ということはまさか……ついにおねロリが現実に!?
あー姉ぇの声でそんなアナウンスが流れた。
それに続くように海外ニキ向けにもあんぐおーぐが同様の内容を告げる。
『ぐるるっ、オマエらよく来たナ! この配信は――』
>>お~ぐ~~~~!(米)
>>今日の配信、本当に楽しみすぎる(加)
>>ついにおーぐ×イロハが実現するのか!?(英)
それらの説明が終わると、ざわざわというSEも止まってシンとした静けさが訪れた。
コメント欄にも『……』の文字が流れ、そして――。
『ミナサンお足元が悪……くてもべつに関係ありまセンガ、よく来てくださいマシタ。では大変長らくお待たせいたしマシタ。いよイヨ――翻訳少女イロハの結婚式を開会いたシマス!』
>>うぉおおおお!!(宇)
>>ついにはじまるか!(露)
>>イリェーナ×イロハは”ガチ”だから(白)
『というわけで、ここからは司会進行兼牧師役にお任せしたいと思います。……オヤビンさん、お願いします』
『はいどうもーっ。お任されしましたーっ』
>>オヤビン!?
>>なにしてんだアンタwww(米)
>>こんなあきらかなネタ企画に来てくれるとは感謝(韓)
そう、じつはオヤビンが今回の企画に協力してくれていた。
あの国際イベント以降、俺たちはちょくちょくコラボやおしゃべりをするようになったのだが……。
今回の企画のことを聞いて「うわ、オモシロそー! 私にも手伝わせてー!」と言ってくれたのだ。
それはつまり……俺にとっては本当の意味での”神前”だ。
俺たちは今日――VTuberの神の前で愛を誓うこととなる。
ちなみに、神父ではなく牧師なのは宗教があれやこれやなので説明は割愛。
『というわけで――新
オヤビンの合図とともに『パパパパァーン』とメンデルスゾーンの結婚行進曲が流れはじめた。
画面の端からゆっくりと上下に揺れながら『翻訳少女イロハ』の立ち絵が現れる。
しかしいつもの俺の姿ではなく、ひとつの特別なアクセサリーがついている。
それは半透明な純白のベールだ。
あー姉ぇが突貫で描いてくれた画像。
俺は立ち絵にそのベールを重ねて顔を隠していた。
>>イロハロ~!
>>イロハちゃん、きれいだ……(独)
>>うんうん、立派に成長して……成長?(仏)
うっさいわっ!
これでも多少は……いやまぁ、中身はちゃんと成長してるからっ!
すると続いて、オヤビンがまた言った。
「――新
>>両方とも新婦で草(伊)
>>と言いつつ、オレたちも女の子同士が好きなんだけどな!(印)
>>イロハちゃんが結婚する相手……いったいだれなんだ!?(尼)
>>そんなの王道のおーぐ×イロハに決まってるだろ?
>>↑いやいや、相性最高なのはアネゴとなんですけど?
>>↑↑はぁ~~~~? お前らイリーシャとのえちえちASMR聞いたことないんか?
そんな視聴者たちに答え合わせをするように、相手が現れた。
画面の端から同じく、ゆっくりと上下に揺れ……歩いて現れた立ち絵は――。
>>勝っちゃーーーーっ!! おーぐだぁーーーーっ!!!!(米)
俺と同じく白いベールを装着したあんぐおーぐだった。
と、そのとなりにも立ち絵がもうひとつ。
『新婦・あんぐおーぐをエスコートしますは彼女のママであるイラストレーターの――』
司会のオヤビンが解説してくれる。
今回の企画、なにげに参加者の数が膨大になっていた。
>>付き人にイラストレーターのママまで引っ張ってくるのは流石に草なんだ
>>完全に笑わせに来てるだろwww(米)
>>自己紹介のセリフもなく、たんたんとエスコートに徹してるのも笑てまう(韓)
べつにそんなつもりはないのだが、なぜかシュールギャグの様相を呈してきていた。
いずれにせよ、あんぐおーぐも画面の中央に辿り着く。
俺たちふたりを残して、あんぐおーぐのママ(イラストレーターのほう)は去った。
オヤビンがあの有名な言葉を紡ぎはじめる。
『新婦・翻訳少女イロハさん、あなたは新婦・あんぐおーぐさんと結婚しようとしています。あなたは
「……誓います」
『新婦・あんぐおーぐさん、あなたは――』
「誓うゾ」
『では、お互いに指輪を交換してもらいます』
俺たちはお互いの指にリアルでも改めて指輪を嵌め合った。
お互いの目を見つめる。
立ち絵のベールを外す――ベールアップを行った。
どちらともなく愛の言葉を口にする。
「イロハ……愛してるゾ」
「お、おーぐ。……その……わ、わたしも……大好き、だよ」
>>うおぉおおお!!!!
>>てぇてぇ……やはり百合は至高(独)
>>¥30,000 ご祝儀
そうして俺たちは口づけを交わした。
「ちゅっ」という小さい音が鳴ったのだが、それをマイクが拾ってしまい……!?
>>今、マジでちゅーした!? エッッッ……!?
>>あのイロハちゃんが……!?(米)
>>これそういう企画なのかと思ってたら、ガチだったの……!?(韓)
コメント欄に次々とご祝儀という名の赤スパが飛び交い、拍手の絵文字がすごい勢いで流れていく。
知り合いのVTuberからも「結婚マジ!?」「お幸せに!」とメッセージが届く。
エッキスのトレンドもかっさらった、と報告が届いていた。
感動的なムードが漂いはじめ……。
『では、続いて……次の新婦入場!』
オヤビンの声が響いた。
コメント欄が一斉に「?」で埋め尽くされる。
そして、現れたのはあー姉ぇ。
さっきとまったく同じくだりをもう一度繰り返し、俺たちは誓いの口づけを交わした。
『では、最後の新婦入場!』
>>イリーシャまで!?(宇)
>>これで全員勢ぞろいしたもうたんだが???
>>もうワイにはこれがガチなのかネタなのかがわからん!
と、言ってる間にイリェーナとのやり取りも終わる。
そうして画面に残ったのは新婦である俺と、さらにもう3人の新婦。
「というわけで、そのぉ~。わたし同時に3人……いや、正確に言うともうひとりいるから――同時に4人も彼女ができちゃったみたいです。これネタじゃなくてガチです」
今日はずっと最低限しか話していなかった俺は、ついに説明のために口を開いた。
コメント欄に「どうしてそうなった!?」というツッコミが殺到した。
いやー、世の中……不思議だよねー……。
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