第416話『再起動-リブート-』
ウクライナ出身のイリェーナと、ロシア出身のもうひとりのVTuberによるデュエットソングが終わり……。
次に舞台へと上がってきたのは……。
「こんしゃしゃきやしゃーうぇあー!」
「……よく来てくださいましたー! 今日の調子はどうですか?」
「っしゃ、ちょうしぇつよっしゃうぇあー!」
「へー、すごいですね!」
>>なに言ってるのかまったくわからなくて草
>>彼女はどこの国出身だい? 字幕が全部「●△※■?」みたいな表示しかされないんだが?(米)
>>たぶん、どこかの少数言語だよね(韓)
>>日本語なんだよなぁ……
>>??? ボクは日本語ならある程度わかるはずだからちがうと思うよ?(仏)
>>しいていうなら、俺たち日本人にもわからない彼女の独自言語……かな
「アチシそんなにかとぅぜっ、悪くにゃーううぇ~いっ!」
というわけで、彼女はいつかのマルチリンガルVTuberコラボでネタ枠として参加していたVTuberだ。
俺は戦慄していた。
――なんか前よりもさらに活舌悪くなってるぅーっ!?
赤ちゃん化が進んで退化して……いや、これはむしろ進化なのか!?
よりキャラクター性が洗練されてきたとみるべきなのか!?
「テケテケテケですか?」
「ういぃー、イロハちゃーしょうしょうすーいうぇあー」
「うん、うん」
「でりゃぁー、しゅしゅしゅしゃってやうぇー」
>>イロハちゃんすごい! これなんて言ってるのかわかるのか!?
>>さっきから字幕が全然仕事してなくて草(独)
>>通訳さんwww(伊)
「ごめん、みんな……じつはわたしにもまったくわかってない」
「どぅえーっ!? い、今までめっちゃ普通に会話ししゃーやろー!?」
「今、わたしの前に……じつはみんなには見えない台本があって」
「!?!?!? ぜ、全然さっきまでちがう話ししゃーやろー!?」
「こっち見てー!」
「ほんとりゃ!? 全然ちゅーじてにゃー!?」
>>バカな、まさか俺たちのイロハちゃんが敗北した……だと!?(英)
>>ギネス記録を持つイロハちゃんが唯一勝てなかった相手(宇)
>>よかった……イロハちゃんにわからないなら、オレらもわかんなくて当然だな!(露)
「わたし、うぬぼれてた……言語ならどれでも理解できるって。でもこれだけはムリ……くっ、推しの言葉を理解できないだなんて……わたし、ファン失格だっ……!」
>>わっ……イロハちゃん泣いちゃった(印)
>>イロハちゃんかわいそう……(加)
>>全部、彼女の活舌が悪いのが悪いよ(尼)
「あ、アチシのしぇいーっ!? とゆーか、にゃんでアチシの登場タイミングここにゃにょ!? 外国語枠での出場にゃの!? おかしいしょー!? 日本人にゃにょにぃー!?」
「ぐすんっ、というわけで曲名は――」
「待っちぇーっ!? まだじぇんじぇん話の途中にゃんりゃけおーっ!?」
ううっ……俺はまだまだだ!
もっともっと推しの言葉を理解できるように努力しないといけないな!
* * *
そのあとは、日韓が話せるVTuberが舞台に上がってきて……。
「ウチは――」
「彼女は日本出身のVTuberですが韓国語が非常に上手で――」
【韓国語でも説明すると、ウチは――】
【彼女は韓国語が――】
「ちょい待ってぇ!? ウチが言う前に全部イロハちゃんに説明されちょるんやけど!? ウチの立場ないなったーっ!?」
みたいなやりとりをしたり。
ほかにも大勢のVTuberが代わる代わるにやってきて……。
* * *
そして、いよいよライブも終盤に差し掛かってくる。
ここからは全体曲ラッシュだ。
最初は『はこつく!』こと『理想の箱を作ろう!』というソーシャルゲームのテーマ曲。
大事務所2つが協力してサービス提供されているこのゲーム……。
もちろん、歌うのもそれらの事務所に所属しているVTuberたち。
だと、思っていたのだが。
彼女ら――だけではなかった。
まだ歌い始める前なのに舞台が暗転していた。
「えっ?」
突然のことに俺は困惑する。
こんなの台本に載っていない。
いったいなにごと? と思っている間にゾロゾロと舞台にVTuberたちが上がってくる。
そして、一気に……パッ! と明かりが灯った。
そこにいたのは……。
俺は自分の声が震えたのがわかった。
「えっ!? まさか……ウソ……本当に……?」
「――お、”オヤビン”……!?」
センターに立っていたのは、その愛称で親しまれている――伝説のVTuber、その人だった。
あの事件のとき、一度だけみんなへと歌を届けてくれた彼女。
しかし、それ以後は再び無期限の”
彼女は同じくどよめいている会場のみんなへと笑いかけた。
「――はいどーも! みなさん……私です! 再起動してきちゃいましたっ!」
そして、再び舞台が暗転し『はこつく!』のテーマ曲が流れだす。
歌声と音楽、それにダンスと光の演出。
それらが混じり合う中で俺はポカーンとしていた。
すでに映像は前撮りされたものへと切り替わっている。
完全に固まっている俺にオヤビンが話しかけてくる。
『VTuber』という言葉をこの世界に生み出した、はじまりのストリーマーが今……俺の目の前に立っていた。
「イロハちゃん、はじめまして。――ずっとあなたに会いたかった」
瞬間、ボロボロと俺の両目から涙が溢れ出した――。
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