第415話『AI翻訳』
そんなこんなで俺はソロ曲や前後のトークパートを終え……。
また、司会役が回ってきていた。
「というわけで、イロハちゃんあとはよっろしく姉ぇ~っ!」
「はいはい」
途中で一度、珍しく泣き顔を見せた以外は……テンションMAXで駆け抜けたあー姉ぇが舞台を退場する。
バトンを受け取った俺は、さっそく次のVTuber紹介をはじめた。
司会交代後のトップバッターは英語圏を中心に活動する国際VTuberグループだったのだが……。
彼女らとのトークパート中にさっそくトラブルが起こった。
《じつは私たち、一度イロハさんとニアミスしたことがあるんですよー》
《え? いつですか?》
《もう何ヶ月も前の話なんですけれど、ちょうどレコーディングの時間が被って》
《そうそう! それでアネゴさんやおーぐさんにはあいさつさせてもらったんですけれど……》
《イロハさんには「ファンとしてのポリシーが!」って拒否られちゃってー》
>>イロハらしいwwwwww
>>あれ? でも今日……?(米)
>>直接会っちゃってるよね……?(韓)
《はい、ついに会っちゃったんですよ~!》
《な、なんかすいません。ただ、どうしても……こうして舞台に立つ都合上、仕方のないことで》
そう申し訳なさそうにする彼女らを、俺は「お気になさらず」と手で制する。
いや、本当に気にしなくていい。だって……。
《もう、わたし……今日だけで、あなたたちだけじゃなく何十人と直接会っちゃってるので……》
《《あっ……》》
《あは……はは、は……、……びぇえええんっ!》
《《わー、わー!? イロハさん泣かないでー!? 落ち着いてー!?》》
初対面のVTuberさんたちに慰められてしまう。
彼女らは「ごめんなさい!」と繰り返しながら言う。
《直接会っちゃうと、純粋に推せなくなるから……って言ってましたもんね》
《もう、私たちのこと好きじゃなくなってしまいましたか……?》
《……そんなのはありえないよ》
だが、俺は不安げにする彼女らにブンブンと首を横へと振った。
もう少し前なら……俺は発狂していたかもしれない。いや、今もちょっと発狂したけど……。
でも、今の俺は前よりもすこしだけバーチャルとリアルを地続きに見られているから。
だから――耐えられる。
いや、めっっっちゃイヤなのは変わってないけどね!?
それに……。
《――わたしの推しへの愛はそんなに軽くない》
《《……!》》
《ふたりとも……大好きだよ》
《《イロハさん……!》》
「イロハちゃーーーーん。お姉ちゃんもあいらびゅあわわわ――ブツン」
《《《……》》》
ついさっき舞台を降りたあー姉ぇの声が聞こえたように思えたが、きっと気のせいだ。
頼むから気のせいであってくれ!?
この大舞台でそんなアホなことをしたとは思いたくない!
仮に今のが幻聴でなかったとしたら、今ごろスタッフに死ぬほど怒られているだろう。
《えっと、じゃあ……》
<イロハサマー! ワタシも愛してま――ブツン>
《《《……》》》
次の曲で登場予定のイリェーナの声が聞こえたのも……気のせいだったらよかったのになぁあああ!?
* * *
というわけで、さきほどのVTuberグループの曲が終了し……。
今度こそ、彼女が現れていた。
<イロハサマ……さっき、ワタシめちゃくちゃ怒られました>
<だろうね!?>
>>だろうな!?
>>それはそうwww(宇)
>>逆になんで怒られないと思った???(露)
というか、本人たちではマイクのスイッチ切り替えたりできないはずなんだけどな……。
いったいどうやって音声スタッフを丸め込んだんだか。
〖そして今回、イリェーナちゃんと一緒に歌うのは……?〗
〖は、はじめましてイロハさん! 私はロシア圏のVTuberで――〗
〖きゃ~~~~! ぎゃんわいい~~~~! 大ファンです! いつも配信見てま……ごめんなさい、ここ2ヶ月ほどは追えてません。でもライブが終わったらアーカイブ全部見ます!〗
〖それより、まずイロハさんは休んでください!?〗
とまぁ、そういうわけで……まさかのウクライナとロシアでのコラボである。
あきらかに作為的なものを感じるが、それはそれこれはこれ。
〖それで今回歌ってくれるのは、どういう曲なの?〗
<これは――>〖戦争で――〗
と、ふたりが一緒に説明してくれる。
イリェーナはロシア語もある程度わかるため、ロシア語でも返答できるのだが……。
今回は”国際”なだけあって、意図的にウクライナ語で言葉を返してくる。
このカオスな状況、字幕がなければ観客も視聴者も死んでいただろう。
だが、大丈夫。
観客にはメインスクリーン下部に表示されている英語字幕がある。
それは人力による翻訳で、いくらか遅れて文字が表示されていく。
ここまではいい。
しかし……すごいのはここから。
なんと、配信サイトではその英語字幕をAIで好きな言語に自動翻訳させながら視聴できるのだ!
……え? 今どき珍しくもないって?
いいや、それがそうじゃない。
なぜなら、その精度がすさまじいから。
なにせ
なんでも、そんなAIを提供したのは、俺も開発に協力していた――例の研究所だとか。
いったいどうやってこれほど高精度のAIを実現したのか、いつか聞いてみたいものだ。
今はまだ、音声認識で「どの言語か?」まで判断して変換するのは難しいようだが……。
それもそう遠くない未来に実現されそうだ。
そうなったときこそ、本当に俺の『言語チート』が不要の時代が訪れるだろう。
言葉の壁のない世界が訪れるだろう。
とまぁ、それはともかく……話を戻すと。
このライブは、あの研究員の女性やシテンノーのおかげで快適な視聴環境が提供されている。
本当に世界はいろんなところで繋がってくるものだな。
ライブがはじまってから、俺はつくづくそれを思い知らされた。
〖それじゃあ、ふたりで――〗
曲名を告げるとともに、音楽が流れだす。
ウクライナ系VTuberとロシア系VTuberが手を取り合って、歌声を響かせる。
VTuber国際ライブは早くも折り返し地点を迎えていた――。
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