第406話『ぐっもーにん・まざー(以下略)』
VTuber国際ライブ――本番当日の朝がいよいよ訪れていた。
俺は布団の中でもぞもぞと寝返りを打とうとして……自分がなにかを握りしめていることに気づく。
<イロハサマ、朝ですよ。そろそろ起きないと>
<……ん、んんぅ>
まだちょっと眠たい。
俺は握っていた”それ”を……ギュッと両手で抱き寄せた。
そのまますりすりと頬ずりしながら――笑みがこぼれてしまう。
だって、ぽかぽかしてすごく温かくて……。
<!?!?!? ……ハァ、ハァっ! こここ、これは貴重な……寝ぼけて甘えてくるパターンのイロハサマ!? 写真! 急いで写真を撮ってワタシのコレクションに追加せねば!?>
パシャッ、パシャッと顔の近くでなにやら音が鳴っていた。
それが不快で、眉間にしわが寄って……。
「……んぁ?」
<うっ、しまった! 起こしてしまった!? ワタシとしたことがイロハサマの天使のような寝顔を崩してしまうだなんて!? バカバカっ、欲をコントロールできなかった己が憎いっ!>
<あれ? ……イリェーナちゃん? どうしてここに?>
<おはようございます、イロハサマ。なに言っているのですか、昨日一緒に寝たではありませんか>
<あ~、そういえばそうだったっけ>
<はい、昨晩のイロハサマはとても激しく……朝まで離してくれなくて>
<誤解を招く言いかたをするな!?>
<だって、現に今も……>
<うわぁっ!? な、なんでわたしイリェーナちゃんの手を抱きしめて!?>
指摘され、俺は慌ててイリェーナから距離を取った。
な、なにをやっていたんだ俺は!?
彼女の手の甲に頬ずりするわ、腕を抱きしめるわ、足を絡めるわ……。
こ、こんなのまるでカップルがやるようなことじゃないか!?
<あぁっ……ずっと握ってくださっていて構わないですのに>
<ちがうからね!? これは……その、枕と間違えただけで!?>
<もちろん、わかっています。ワタシのことが大好きなんですよね?>
<全然わかってない!?>
もちろん、だからといって嫌いなわけじゃないけど。
むしろ……って、そうじゃなくて!?
<ほら、イロハサマ。おはようのチューを……むちゅぅ~>
<うん、ちゅぅ~……って、だれがするかーっ!?>
<ちっ、引っかかりませんでしたか。でも、そんなに恥ずかしがらなくてもいいですのに。すでにイロハサマは夜中……ワタシにいっぱいちゅーしていたんですし>
<は……はいぃいいい!?>
えっ、ウソ……俺、もしかして寝ぼけて!?
たしかに、なんかいい夢見ていた気はしたんだけど、そんなことをしてしまったのか!?
<ワタシの唇も身体も……たくさんのハジメテをイロハサマに奪われてしまいました>
<ご、ごめん!? わたし、まさかそんな……わ、わかった。なんとか責任を……>
<まぁ、夢の中の話ですけれど>
俺は、ぼふんっ! と顔面から枕に突っ込んでいた。
こ、こいつぅ~っ!? 一瞬、本気でどうやって責任を取るか考えかけたじゃねぇか!?
あーもう、なんか完全に目が覚めたわ。
そう考えていると、バァン! と勢いよく部屋の扉が開かれた。
「イ・ロ・ハ・ちゃぁ~~~~ん! ぐっもーにん・まざーふぁ
激しいモーニングコールが聞こえてきた。
声の発生源は当然というべきか、やっぱりあー姉ぇだった。
ていうか、そのあいさつ間違って……いや、待て?
むしろ、よく考えたらこっちのほうが正しい気が……。
「あー姉ぇ、うるさい。そんな大声出さなくても、わたしはもう起きて――きゃっ!?」
「アァっ、イロハサマを抱っこだナンテ!? ワタシがしたかったノニ~!」
ベッドの上にぺたんと女の子座りしていた俺を、ぐいっとあー姉ぇがお姫さま抱っこで持ち上げた。
いきなりのことで、ドキっと心臓が跳ねてしまう。
昨日の晩、裸を見てしまったからだろうか?
俺を抱き上げるその腕の、引き締まった筋肉を――手のひらの力強さを、つい意識してしまう。
「じゃあ、イロハちゃん……行こっか?」
そう言って、あー姉ぇは俺を部屋から連れ去ったのであった――。
* * *
「も、もう着いた……から、降ろしてっ……恥ずかしいし」
「はいはい」
バスルームへ到着した俺は、あー姉ぇの袖をくいくいと引っぱって言った。
ようやく彼女は俺を床に降ろしてくれる。
無事に解放された俺であったが、まだまだ恥ずかしさの余韻があった。
それで、そっぽを向いて心を落ち着かせていたのだが……。
「ほらっ、イロハちゃん……ばんざーいっ!」
「ひゃあぁあっ!?」
ガバぁっ! といきなり服をまくり上げられる。
視界が一瞬、まっくらになって……次のときには、スポンっとパジャマの上衣をはぎ取られていた。
おかげで髪の毛がぼさぼさになってしまった。
あと突然だし、俺ひとりだけ裸だし……恥ずかしくてつい胸元を隠してしまう。
「イロハちゃん、今さらなに恥ずかしがってるの~? 今までも何回も一緒に入ってるでしょ~?」
「そっ、そうだけどっ!」
「本当に照れ屋さんだね~? だったらお姉ちゃんが……脱・が・し・て・あ・げ・ゆ~っ!」
「わーっ!? ぎゃーっ!?」
必死にパジャマのズボンを掴んで引き留めようとするが、力で勝てるはずもなく……。
ズルッ! と引き下げられてしまう。
パンツが丸見え――どころか、ズボンと一緒にパンツ自体まで引き下げられてしまって……!?
俺はすっぽんぽんをあー姉ぇに晒していた。
「~~~~っ!?」
カァ~っ! と恥ずかしさで顔が熱くなる。
慌てて座り込んで、自分の身体を抱きしめるみたいに大事な部分を隠した。
「……イロハちゃんは本当にお肌がすべすべだね~」
「今、どこ見て言った!?」
あー姉ぇがしみじみといったふうに言った。
視線を感じて、内股についキュっと力がこもってしまう。
た、たしかに年齢に対して遅すぎるけど!
でも、なくても困らないしべつにいいんだよっ!
「ほらほら、隠さないでもっとお姉ちゃんに見せてみなよ~? うりうり~!」
「……こ、このぉっ!?」
「あっ」
ぷにぷにと俺の肌を突っついて挑発してくるあー姉ぇに、ついに俺も堪忍袋の緒が切れた。
いきなり立ち上がって、彼女にタックルするみたいに抱き着く。
油断していたのか……というか、彼女が俺を受け止めようとして自分で足を絡ませただけというか。
どたんっ! と音がして、気づけば俺は彼女を押し倒したみたいな体勢になっていた。
「あ~、もうビックリした。イロハちゃん、もし今日うっかり転んでケガなんかしたら取り返しがつかないんだから、気をつけないと……ん? イロハちゃん?」
「……もういい加減、キレた」
「ぇっ――」
俺は馬乗りになって、あー姉ぇを見ろしていた。
そして、彼女の寝巻へと荒っぽく手をかける。
「お前、わかってるよな? こっちに散々イタズラしといて自分だけはなにもされない、なんて思ってないよな? おしおきだ。今度は――
「~~~~っ!?」
俺は怒りでちょっとテンションがおかしくなっていた。
そして、なぜかあー姉ぇも顔を真っ赤にして、挙動不審になっていた――。
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