閑話33『”賭け”ゲーム~エンディング~』

「まったク! ワタシが今まで、いったいどれだけオマエのことを見てきたと思ってるんダ! オマエのことはワタシがイチバン理解してル! あれくらいのウソ、見抜くなんて造作もなイ!」


「う、うぅ~っ!?」


 く、悔しいっ。けど、それと同時にちょっと……いや、うれしくなんかないけどね!?

 でも、納得した。


 だって、俺にあんぐおーぐの行動が読めていたんだもんな。

 彼女にも、俺の考えが読めてもおかしくはなかった。


「フンっ。悔いるなら、これからは……普段からもっとワタシに甘えるんだナ!」


「おーぐサン、どさくさに紛れてなにを言ってるのデスカ! あと訂正してくダサイ! イロハサマのことを一番理解してるのはこのワタシデス!」


「ハァ~!? 絶対にワタシだシ! じゃあイリェーナはイロハがお風呂でどこから身体を洗うのか知ってるのカ? 知らないだロ~?」


「な、ナニヲぅ~!? ワタシだっておーぐサンの知らないイロハサマのあーんなことやこーんなコトヲ……」


「もうやめてっ、わたしのために争わないで! ほんとお願い、矢が全部わたしに刺さってるから!?」


 なんか俺ひとりだけ、先に罰ゲームを受けてるような気分だった。

 けれど、いろいろ合点がいった。


 ファイナルラウンドの終了間際、イリェーナがあんぐおーぐを密談に誘ったのは俺の作戦を伝えるため。

 そして断ったのは、俺が騙そうとしていることにすでにあんぐおーぐは気づいていたから、か。


「あれ? だとすると……おーぐ、まだわからないことがあるんだけど」


「なんダ?」


「現状でおーぐにわかるのは『わたしが”4枚ベット”しないこと』までのはず。なのに、どうしておーぐは”5枚ベット”を選べたの? たまたま?」


 イリェーナとは密談できていないわけで……。

 つまり、ここに関しては1/4の確率。完全なランダムのはず。


「いヤ、ちがうぞイロハ。この1回にかぎってハ、オマエは絶対に”5枚ベット”するとわかってタ」


「いったいどうして?」


「ハぁ、イロハ……オマエは全然、自分のことがわかってないんだナ」


 あんぐおーぐが呆れたように笑う。

 横からイリェーナも「それならワタシもわかりマスヨ」と口を挟んでくる。


「そもソモ、ワタシがイロハサマの”5枚ベット”を信じタノモ……イエ、たとえなにも聞いていなかったとシテモ、ワタシは”5枚ベット”していたと思イマス」


「えぇっ!?」


「それはうちにもわかるなー」「わてもわかるで」「わっはっは、ヨユ~ヨユ~っ☆」


「み、みんなにも!?」


 しかし、どれだけ頭をひねっても答えは見つからない。

 そんな根拠なんて、どこにも……。


「わかってないみたいだから教えてやル。なぜならイロハ、オマエは……」



「――”一流のVTuber”だからダ」



「え?」


「配信の映え・・を考えれバ、必ず自分のベットは最後に持ってくル。配信者ってのはそういう生きものだかラ。そういう行動がもウ、習慣として身体に染み込んるんだヨ」


「……!」


 思い出すのは、はじめてあんぐおーぐが日本に遊びに来たときのこと。

 コンビニでスイーツを買ったとき、あんぐおーぐもあー姉ぇも”配信映え”する商品を選んでいた。


 あのときの俺は普通に『食べたいもの』で選んでいた。

 けれど、今の俺は……。


「そっか……わたし、いつの間にかVTuberになってたんだ」



 ――本物の、VTuberに。



「なにを今さラ、当たり前のことを言ってるんダ?」


「そうデスヨ、イロハサマ」


「そうだよ~、イロハちゃんっ☆」


「そう……そう、だよね。ふふっ、あははっ!」


「急に笑っテ、変なヤツだナ。……あぁでモ、まさかイロハだけじゃなく全員が”5枚ベット”してることまでハ、さすがにワタシも読めなかったしビックリしたけどナ」


 そう、あんぐおーぐが苦笑する。

 ……完敗だな。そう思ったとき、頃合いを見図っていたらしい姫殿下が告げた。


「というわけで、もうみなさんおわかりだと思いますが……”5枚ベット”は全員でした! それにより、結果は以下のようになりました!」


 ・ベット枚数

  1枚:

  2枚:

  3枚:

  4枚:

  5枚:アネゴ、イリーシャ、イロハ、おーぐ、オルトロス、錬丹術師


 ・所持チップ

  アネゴ  ……0枚

  イリーシャ……0枚

  イロハ  ……0枚

  おーぐ  ……0枚

  オルトロス……0枚

  錬丹術師 ……0枚


「よって全員、敗北です! おかげで私も罰ゲームだよ、ちくしょぉ~っ!」


 俺は思った。

 案外、この結果が一番よかったのかもしれないな、と。


 だって俺だけ勝っていた場合より、姫殿下の分……ひとり多く、推しの罰ゲームが見られるし!

 まぁ、自分の罰ゲームとトレードオフだけど。


「姫殿下さん、このゲームすっごくおもしろかったです」


「うわー、そう言ってもらえると冥利に尽きる~!」


「ちょっとルールを変えるだけで、戦略もガラっと変わりそう。今、パッと思いつくだけでも……」


 チップの売買を可能にして、チップ以外にマネーの要素を入れるとか。

 あるいは、単純に人数を増やしたり減らしたりしてもいい。


 所持チップの枚数までしか賭けられないなら、チップが少ないときの立ち回りも変わるだろうし。

 負けを決めるのではなく、一定ラウンドの経過後に一番チップを持っている人を勝ちにするとかもアリ。


 お互いのチップ枚数が見れないようにしても、おもしろいかも。

 プレイヤー名は伏せ、所持チップの枚数だけをランキングとして表示してもいいだろう。


「シンプルがゆえに奥が深く、アレンジのしやすいゲームですね」


「ふっふーん! そうでしょう、そうでしょう!」


「あとゲーム中は言わなかったんですが……」


 もし今回の『”賭けベット”ゲーム』がもし勝者で賞金を山分けするようなルールだった場合。

 じつは、過半数でチームを組むことで”必勝”できる。


 たとえば、全体のチップ枚数が100枚だとして、チームで51枚のチップをガメていたとしよう。

 そのうえでチームメンバーがバラバラにベットすれば……。


 だれかと被った場合『チーム:チーム以外』のチップ枚数は、『51:49』から同数ずつ減ることになる。

 たとえば”2枚ベット”で被ればマイナス2枚ずつされ『49:47』になるわけだ。


 その差は絶対に埋まることはなく、最終的には『2:0』となって勝利できる。

 あとはチームを組んでいたメンバーで、仲良く賞金を山分けすればいい。


「うわ~っ、なるほど! それめちゃくちゃおもしろいですね! よし、次回企画するときは……」


「殿下、イロハはん。なんや誤魔化そうとしてない?」


「「ギクゥっ!?」」


「どんだけ時間稼ごうと、罰ゲームからは逃れられへんからね?」


「「イヤぁあああ~~~~!?」」


 『賭けベットゲーム』の次に待っていたのは『罰ゲーム』だった。

 姫殿下が「こんなゲームはイヤだ〜!?」と叫んでいた。一方で俺は……。


「まぁ、いっか」


 プラマイでいえばプラスだし。

 それに俺は”VTuber”だから。たまには自分を推してくれているファンにサービスしてもいいかも、なんて。


「それで罰ゲームの内容だけど――」


 その先は罰ゲームで大騒ぎになった。

 ほんと、記憶から抹消したいくらい恥ずかしくて……。


 そして、それ以上に楽しかった。

 こんな時間が永遠に続けばいいなと思ったくらいに――。


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