閑話32『”賭け”ゲーム~ファイナルラウンド⑤~』
『密談用』『全体会話用』という名前が意識の盲点になっていた。
「みんなに知られずに会話できる」の裏側には「ふたりにだけ知られずに会話できる」が隠れていた。
だから、姫殿下や視聴者も知っていたのだ。
そして、俺だけが……正確には俺たちだけが知らない、という状況が生まれた。
「まさかオープンなチャンネルで堂々と密談をしていただなんて」
「といってもその時点じゃ、まだイロハはんがうちらを騙してるやなんてちっとも考えとらんかったけどな」
つまり、最初は俺に聞かせないためではなかった。
あんぐおーぐに聞かせないための”全員での密談”だったのだ。
「視聴者にはうちらのベット枚数がバレてまうけど、まぁ、おーぐはんのベット枚数さえわからんかったらワクワクも薄れんやろうし」
なるほど。全体会話ではネタバレになるからベット枚数の話はしづらい、と思っていたが……。
緊急事態のせいで、そのハードルを乗り越えてしまったらしい。
「イロハはんは油断したんや。あんさんはアネゴはんがベット完了するまで、密談用のボイスチャンネルで見届けるべきやった」
「うっ!?」
あー姉ぇにかぎらず、ほかのみんなも枚数を伝えるだけでベットそのものは各々に任せていた。
しかし、最後ということもあって、みんなギリギリまでベットをもったいぶっていたのだろう。
だからこそ、こうしてベット枚数を変更されて作戦を崩された。
……俺は勝ちを急いでしまったのか?
「いや、どのみちほかの選択肢なんてなかった、か」
なぜなら、1ラウンドは10分しかないのだ。
全員のベット枚数を調整し、あんぐおーぐを説得するだけでカツカツ。
ベットまで見届けるには時間が足りなかった。
「時間が重要」「10分という時間はなにかをなすには短い」……そんな言葉が今になって自分に返ってくる。
というか……。
この状況はマズい。非常にマズい。
「そんなわけで、みんなで自分のベット枚数を言い合って情報共有したんよ。そしたら……なんとビックリ! イロハはん、なにが起こったかわかる?」
「え、えーっと、そのぉ~」
「なんでか……全員のベット枚数が同じやってん! イロハはんに聞いたベット枚数が、や。なぁ、イロハはん……これいったい、どういうことやと思う~?」
「ひ、ひぇっ!?」
笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点……。
なんて説を信じたくなるくらい、オルトロスの笑みは嗜虐的。Sっ気満載だった。
「なんでやろな~? イロハはん、もしかして言い間違えてもうたんかな~?」
「あ、あはは……そう、かも?」
「んなわけないやろ。4人が4人も揃って」
「ですよねー!」
「で、いったいどんな目的でこんなことを……って、聞くまでもなかったわ。全部、自分で白状しはったし」
「ぐはっ!?」
お、俺のバカー!?
勝ちを確信して、さっきペラペラと全部しゃべっちゃったよぉ!?
「け、けどそこまで作戦がわかっていたなら、なんでみんな”5枚ベット”してるんですか! そんなことしたら、みんな罰ゲームを受けるハメになるんですよ!?」
「まぁ、それはそうやねんけどなー」
一番クレバーなのは、その4人で1~4枚ベットに分かれること。
そうすれば罰ゲームを受けるとしてもだれかひとりで済む……だが。
「でも、そうしたらイロハはん、なんのお咎めもなしやろ? それはなんか悔しいやん」
「……バレましたか」
そのとおり。
それをしたところで、俺が建前で提案していた『デスマッチ』のルールに戻るだけ。
この作戦、じつはバレたところで俺にはなにもデメリットがないのだ。
あくまでゲーム上は、だけど。
「ほんま、ようこんなこと思いつきはるわー。気づいたときには、すでに手の打ちようがないやなんて」
デスマッチに持ちこんだ時点で、すでに作戦そのものは成功している。
あんぐおーぐのときのような対抗策がないから。
「――まっとうな手段では、なぁ」
そのとおり。じつは最適行動を取らなければひとつだけ反撃する方法がある。
それは……80%の勝利を捨てて、100%の敗北を選ぶこと。
「言い出しっぺはイリェーナはんやった」
「イリェーナちゃんが?」
「ワタシ、イロハサマの罰ゲームが見たクテ……だから『”5枚ベット”して心中シマス』ト!」
「なっ、なんてバカなことを!」
「オイ!?」
あんぐおーぐにツッコまれる。
え? 俺も「心中しよう」って提案したって?
いや、だって本当にするつもりはなかったし。
あれはあくまで作戦のためのリップサービスだから。
「そのあとにアネゴはんも続いてー」
「もちろん、お姉ちゃんも”5枚ベット”したぜいっ☆ 1番好きな数字をベットすればいいんだよ姉ぇ~?」
「あ、アネゴはん!?」「あー姉ぇ!?」
あれ!? もしかして、あー姉ぇわかってない!?
ついさっきまではすごくいい感じだったのに!?
「ま、まぁアネゴはんはともかく。そんなん聞いたら……」
「ほならこのビッグウェーブ、わても乗らんわけにはいかん! って思って」
「みんなが乗るならしゃーなし、うちも乗ったわけやね」
「どうりで……」
姫殿下があんなにも「”全員”罰ゲーム」発言に反対したわけだ。
こんな話を聞いていたなら本当にありえる、というかむしろ可能性は高いと感じる。
だって、残るはあんぐおーぐだけ。
でも、なんで彼女は伝えた”4枚ベット”をしなかったのだろう?
「おーぐ、わたしの言葉を信じてくれなかったの? あんなに『一緒のお墓に入ろう』って言ったのに」
「ゲホっ、ゴホっ!? い、イロハ!?」
「おーぐサン!? どういうことですかソレ!?」「お~ぐ~、お姉ちゃんも知りたいな~っ!」
なんか、いつものメンツが騒いでいたが、俺はスルーして思考を続ける。
それで思いついたのは……。
「あっ、そうか! わたしの言葉に絆されて、逆に”4枚ベット”……心中しにくくなったのか! それでテキトーにベットしたのが、たまたま”5枚”だった!? くっ、わたしの演技力がアダに!」
「イロハ、そうじゃなイ。ワタシはオマエがウソを吐いてたことなんテ、まるっとお見通しだったゾ!」
「そんなまさか!?」
「いヤ、だっテ……」
「――ワタシの知ってるイロハはあんなこと言わなイ!」
し、しまった~~~~!?
普段の振る舞いが裏目に出た~~~~!?
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