閑話31『”賭け”ゲーム~ファイナルラウンド④~』


「オルトロスさんたちにはこうなるとわかっていた?」


 俺の作戦は失敗していた。

 しかし、その原因がさっぱりわからない。それも俺だけが。


「イロハはん、うちらだけやないで。言うたやろ、”全員”って」


「えっ? もしかして、わたしたち以外に隠れたゲームの参加者が!?」


「ちゃうちゃう! プレイヤー以外・・もみんな、って意味!」


 オルトロスが「ここで第三者の出現は、それはそれでオモロイけど」と笑いながら言う。

 プレイヤー以外? それって……。


「姫殿下や視聴者のことですか?」


「そのとおり」


「そ、そんなのありえません! だって、視聴者が知りうる情報はわたしも全部持っているはずです!」


 言ってしまえばそれは公開情報なのだから。

 もしこれが逆で、俺は知っているが視聴者は知らない、という状況ならありえるけれど。


 具体的には密談の内容、とか。

 といっても、個人の配信枠を見に行けばそちらの情報も得られるが。


「たしかに本来やったらそのとおりや。……”イレギュラー”さえ起こらんかったら、な」


「イレギュラー? まさか、あー姉ぇがまたなにかやらかしたの!?」


 その単語を聞いて真っ先に思いついたのがそれだった。

 しかし、そんなバカな!?


「伝えた枚数をベットするだけですよ!? それに今回はあー姉ぇも『みんなバラバラにベットする』って理解してくれてた。さすがに間違えるはずが……」


「もっちろんだよ~! お姉ちゃんは人生で1回も間違えたことなんてないから姉ぇ~!」


「……すいません。やっぱり、あー姉ぇなら間違えるかも」


「イロハちゃん!?」


 これまで何回やらかしてると思ってるんだ!?

 というか、今わかった! こいつ失敗の自覚がないから反省もしないし、繰り返すんだ!


「いや、でもおかしいです。たとえ間違えたとしても、こんな結果・・・・・にはならないはず」


「あはは、そやね。だから、今回アネゴはんは本当に間違えてへん」


「えっ」


「かわりに、ほかの”やらかし”をしはったけど」


「そ、それはいったい?」



「アネゴはんなぁ――自分がベットする枚数を”ド忘れ”しはってん!」



「なっ、なんだって~!?」


「ふっ、お姉ちゃんは間違えない。けど、ド忘れはだれにでもあるよ姉ぇ~っ☆」


「このバカあー姉ぇ~!?」


 叫ぶと同時に、俺は「あっ」思い出す。

 そういえばあんぐおーぐとの密談の直前、あー姉ぇが俺になにか言いかけていたような?


 結局、彼女は自己解決した様子だったが、まさかあれが!?

 ……だんだんとわかってきた。俺の作戦が失敗した理由が。


「ほな、答え合わせといこか」


 言って、オルトロスが実際のできごとを教えてくれる。

 はじまりは俺があんぐおーぐと密談用のボイスチャンネルへ移動した直後。


「アネゴはんが『ベット枚数を忘れた』って言いだして。けど、自分以外のベット枚数なんてうちらは把握しとらんし、なにより”全体会話”やったから」


「ですよね。そこで言っちゃったら、なんのために密談で伝えたんだかわからない」


「せやから『イロハはんが戻ってきたら、もう1回密談してきぃ』言うたんやけど、『イロハはんに怒られたない~』とか言うだしてな」


「あ、あー姉ぇ……」


「で、うちらも呆れとったんやけど、イロハはんなかなか帰ってこうへんし。それにアネゴはんが……似合わん、エラい頭のええこと言いだしはってな」


「あのあー姉ぇが?」


「ふふんっ、お姉ちゃん思いついちゃったんだよ姉ぇ~! イロハちゃんに怒られない方法!」


「……イヤな予感」


「『みんなバラバラにベットする』んでしょ~? それなら~、自分以外み~んなのベット枚数を聞いちゃえば、残ってるのが自分のってわかるな~って!」


「んなっ!?」


 なんでこういうときばかり頭が回るんだ!?

 ちょっと前まで、あんなにポンコツだったのに!?


「いや~、お姉ちゃんってば天才っ☆ あ、でもイロハちゃんがたくさんルールや作戦について説明してくれてたおかげも、ちょっとはあるかも?」


 俺のせいだったぁ~!?

 そ、そんなことある!? あんなに丁寧に根気強く教えたことがアダになるだなんて!?


 けれど、あー姉ぇの発想には唸らされる。

 言われてみればたしかにそのとおり……いや、待て。


「それって、わたしのベット枚数がわからないと意味ないんじゃ?」


「アノ、イロハサマ」


「どうしたの、イリェーナちゃん?」


「イロハサマのベット枚数ハ、事前にワタシが聞いていたノデ」


「あっ!?」


 たしかに、イリェーナには本当のベット枚数を伝えてしまっていた。

 ゆ、油断してた!? というか、むしろ牽制になるとすら思ってたし。


「あと考えてみたら、うちらのベット枚数はおーぐはんにさえ知られなければええなーって。で、肝心のおーぐはんはイロハはんと密談中やったし」


「密談用のボイスチャンネルにいる間は、全体会話の音声は聞こえない……そっ、そうか!?」


 完全に理解した。

 俺だけ・・・が気づけない、の正体。つまり……。



「オルトロスさんたちは――わたしを除く”全員で・・・密談”をしていた!?」



「イロハはん大正解や」


 言って、オルトロスはにこーっと笑った。

 あの、笑みが怖いんですけどー!?

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