閑話30『”賭け”ゲーム~ファイナルラウンド③~』

「”1枚ベット”がゼロ人だっテ!? どういうことダ!? これもオマエら・・・・の作戦カ!?」


「おーぐ、ちがうよ。これはわたし・・・の作戦」


「い、いったいなにをしたんダ!?」


「ふふっ。おーぐ、忘れたの? これは『ライアーズゲーム』……騙し合いのゲーム。つまり騙したんだよ、みんなを! このわたしが!」


「――続いて”2枚ベット”したプレイヤーですが、こちらもだれもいませんでした」


「”2枚ベット”まデ!?」


 姫殿下の言葉にあんぐおーぐが叫ぶ。

 しかし、衝撃が大きかったのは彼女より、騙された当人……チームを組んでいたVTuberたちだろう。


「イロハサマ、これはイッタイ?」


 代表するように、震えた声でイリェーナが問うてくる。

 その質問を待っていた。


「じゃあ、教えてあげる。わたしが立てた計画の全貌を! はじまりはそう……罰ゲームの内容を聞いたとき」


「罰ゲーム、デスカ?」


「そう。本当に恥ずかしい内容だよね」


「たしカニ、社会的な死にふさわしい内容でシタガ。それが騙すこととどう繋がるのデスカ?」


「あれを聞いたとき、思ったの。わたしは推しの……全員の・・・罰ゲームが見たい、って! ファンとしてはだれの罰ゲームも見逃せない、って!」


「イロハサマ、マサカ……!?」


「そのまさかだよ。それで決めたの。わたしは、わたし以外の全員を敗者にしてみせる、と!」


「いいい、イロハサマのVTuberバカーーーーっ!」


 イリェーナが叫んだ。最高の誉め言葉だ。

 まぁ、そのためには苦労も多かったけどな。


「本当、大変だったよ。わたし以外のファンの期待も一身に背負っているわけだし、責任重大だよね!」


 絶対に負けられない戦いがそこにはあった。

 しかし、推しのためならば脳みそもフル回転するというもの!


 異様にこの『”賭けベット”ゲーム』において俺の察しがよかったのも、それが理由だ。

 おかげで、こうして勝利の方程式を見つけるができた。


「イリェーナちゃんを罰ゲームから救ったのも、おーぐに助け舟を出したのも、すべてはこのため。最下位の人数が多いほど……楽しみも倍増するから!」


「だ、騙されマシタ!? あんなに感謝しタノニ~!?」


「そそそ、そうだぞイロハ!? ワタシの感謝も返セー!?」


「ふははは! 今さらなにを言ってももう遅いよ!」


 ふたりがぎゃーぎゃー騒いでくるが、右から左へ受け流す。

 すでに目的を達した俺には効かんな!


「けどイロハ、全員を同時に最下位なんていったいどうやっテ?」


「それはもちろん、ベット枚数を被らせるんだよ」


「不可能ダ! そんなこと全員のベット枚数をコントロールでもできないかぎリ……」


「いや、おーぐはん。イロハはんにはそれが可能やったんよ。イロハはんにだけは」


「どういうことダ?」


「なぜなら、うちらのベット枚数を決めたのはほかでもないイロハはんやから」


「……アっ、そうカ!? チーム内でのベット枚数を調整するときカ!?」


「そーゆーこと。密談用のボイスチャンネルでの会話は、ほかの人には聞こえんし。しかも、うちらはおーぐはんにベット枚数をバレたらあかんから……」


「確認する手段がなイ、ということカ! しかも、密談用はずっとイロハが使っていたシ」


「そういうことやね。うちらは”敗者にならない”ゲームをしてた。けれど、イロハはんだけは”敗者を増やす”ゲームをしてたんや。そんな認識の差がうちらの盲点になってた」


 敗者は少ないほうがいい。

 そんな先入観こそが、この作戦のキモだった。


「――”3枚ベット”したプレイヤーですが、こちらもだれもいませんでした」


 姫殿下の声が響く。残るは”4枚ベット”と”5枚ベット”のふたつだけ。そろそろだな。

 俺はイリェーナへと質問を投げかけた。


「ちなみにイリェーナちゃんは、わたしが何枚ベットするように伝えたか覚えてる?」


「……”4枚”、デス」


「ほかのみんなは?」


「うちも4枚やね」「わ、わても4枚や」「お姉ちゃんもそうだったかも~?」


「な、なんだっテ!? そういえバ、イロハがワタシに伝えたベット枚数モ……!?」


「そう、4枚。ここで問題。さて、わたしは本当に”4枚ベット”しているでしょうか?」


「イロハ、オマエ~~~~!?」


「正解。するわけない」


 俺だってあんな罰ゲーム受けたくないし!」

 ……え? ファンの期待を背負ってるんじゃなかったのかって?


 それはそれ、これはこれ。

 だって、俺は俺のファンではないし。


「全員に”4枚ベット”するように告げ、自分だけは”5枚ベット”する。これがわたしの”必勝法”だよ!」


 それによって俺以外の全員が敗者となる。

 ”4枚ベット”は文字どおり、デスマッチ……のベットだったのだ!


「ふははは! これでわたしの完全勝利! さぁゲームマスター、結果発表を!」


「”4枚ベット”したプレイヤーは……」



「――だれもいませんでした」



「そうでしょう、そうでしょう! わたし以外の全員が……へっ?」


 ……ん? んんん???

 あれ? おかしいな。俺、聞き間違えたのかな? あっ、それともそうか!


「姫殿下、間違えてますよ。次は”3枚ベット”ではなく、”4枚ベット”の発表で……」


「はい。ですから”4枚ベット”のプレイヤーはゼロ人です」


「……は、はいぃいいい~~~~!?」


 腹の底から叫び声が出た。

 どどど、どういうこと!? いったいなにが起こった!?


 混乱していると、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。

 というより……。


「フフフっ」「フハハハっ!」「わっはっは~!」「あはー↑」「あははっ」


「み、みんな?」


 俺以外の全員が笑っていた。

 なんだ、みんなどうしたんだ!?


「イロハはん、最後の最後で油断したやろ? まぁ、しゃーないか。やっぱり人は勝利を目前したときほど、脇が甘くなるもんやし」


「な、なにを言ってるんですか?」


「イロハサマ、じつはこうなるコトヲ……ワタシたちは全員、知っていたんデス」


「……えっ、えぇ~っ!?」


「というより、イロハはんにだけ・・気づけんようになってた、ゆうんが正確やけどな」


 ”俺だけが気づけない”?

 いったいどういうことだ!? 俺の作戦はカンペキだったはずだ――!?

 

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