閑話29『”賭け”ゲーム~ファイナルラウンド②~』


「みんな、ただいま~」


「……イロハサマ、ようやく帰ってきまシタカ!」「わてら待ちくたびれたでー」「ほんまやわー」「イロハちゃん、おっそ~い!」


「ごめんごめん、ちょっと話がはずんじゃって」


 どうやら会話を切ってしまったらしく、一瞬のラグがあってからみんなが反応する。

 俺はあんぐおーぐとの密談を終えて、全体会話用のボイスチャンネルへと戻ってきていた。


「イロハはん、あと1分もあらへんよー」


「そうですね。おーぐ、わたしたちもベットを……」


「ちょっと待ってくダサイ! その前におーぐサンはワタシと密談デス!」


「このタイミングでカ!? ワタシもベットしないともう時間ガ」


「イーエ! こんな時間ギリギリまでイロハサマと、いったいなにをしていたのかとっちめナイト!」


「いやいヤ、なにもしてないから安心しろっテ!」


「デスガ……!」


「本当に――大丈夫・・・だかラ」


「……なるホド。わかりマシタ」


 イリェーナは予想外にあっさりと矛を収めた。

 今のやりとりにどういう意味があったのか……それはわからないが、多分アレだろう。


 俺のことをその……ゴニョゴニョな者同士だからこそ、通じ合うみたいなやつ。

 触れると火傷しそうだし、そっとしておこう。


「制限時間、残り10秒」


「えっ!?」


「イロハ、急いでベットするゾ!」


「う、うん!」


「5、4、3……」


「ベ、ベットしました!」


「ワタシもベットしたゾ!」


「……はい、全員のベットが確認できました」


「「セーフ!」」


 そうして、ついにすべてのラウンドが終了した。

 泣いても笑っても、これで敗者が決まるわけだ。


「今から集計するので、少々お待ちください……」


「あ、ちょい待ち。その前にひとつ、質問してもええ?」


「ん? べつに構わないけど……あっ。構わないぞ、フハハ!」


 姫殿下がとってつけたような黒幕ムーブを行う。

 今の今まで絶対に忘れてたでしょ。


「これって、もし全員のベット枚数が被ってたら罰ゲームってどうなるん? 引き分け?」


「えっ?」


 俺は思わず、その質問に口をはさんだ。

 どうして、今さらそんなことを確認するんだろう? それに……。


「そんなことは起こりえないし、大丈夫だと思いますけれど」


「ま、そやろうけどねー。念のためにねー」


「はぁ……」


 俺たちは全員バラバラ・・・・・・にベットしているのだから、無用な心配のはず。

 でも……まぁ、そこまで気にする必要はないか。どうせ”結果”は変わらないのだし。


「え~っと、質問に答えると……その場合は全員が負け扱いですね。事前のルール説明で言ったとおり『チップがなくなった人』が負けですから。全員に罰ゲームを受けてもらいます」


 それに、そのほうが配信的にもオイシイしな。

 そう、俺が納得していると……。


「おっ? 『全員』ってことはもちろん殿下も含まれるやんね?」


「は、はい〜っ!?」


 錬丹術師がとんでもないことを言い出した。

 姫殿下がアタフタと誤魔化そうとする。


「いやいやいや!? 今のはあくまで『プレイヤー全員』っていう意味で!?」


「え~? でも、殿下だけ仲間外れとかかわいそーやし。仲間入れたるでー」


「あっはっは! せやなー、そのときうちらと一緒に罰ゲーム受けてもらおかー」


「おい、ふざけるな!? 私は絶対にやらないからな!? ただでさえ企画の準備に進行にと、たくさん苦労してるんだぞこっちは!?」


 姫殿下の言い分はもっともだった。

 いやーほんと、こんな最高・・の配信を企画してくれてありがとうございます!


 けれど、それとこれとはべつのお話。

 おもしろそうなことを視聴者が見逃すはずがなく……。


「本当にイヤ! 本当にヤダ! 勝手にコメント欄で多数決をはじめるんじゃないっ!?」


「あはは、もう諦めぇー?」「殿下、ときには諦めも肝心やで?」


「うぅ~っ! ……もうっ! わかったよ! もし本当に全員のチップがなくなったらね!? 逆にそれ以外は絶対やらないからっ!」


「それでええよー」「そのときは、わてらと一緒に罰ゲームで地獄見ような?」


 姫殿下は観念したように、そう叫んだ。

 あはは、災難だな。


 そうして本来の予定にはなかったルールが追加された。

 しかし、残念だ……彼女の罰ゲームが見られない・・・・・だなんて。


「……ふぅ~」


 そこからしばしして、姫殿下が深く息を吐いた。

 どうやら集計が終わったらしい。


「お待たせしました。……え~、改めて。本日はデスゲームにご参加いただきまことにありがとうございました。今回の企画、無事に開催できてよかったです。また機会があればやりたいですね」


 姫殿下がすこし早めの、締めの言葉を口にする。

 結果を発表したあとは罰ゲームでそれどころじゃないだろうし、今のうちに、ということだろう。


「みなさん、準備はいいですか? よろしいですね? では……結果発表を行います!」


 ゴクリ、と生唾を飲み込む。

 そして、ついに、その結果が告げられた。


「ベット枚数を少ない順に公開していきたいと思います。まず”1枚ベット”をしたプレイヤーですが……」



「――だれもいません・・・・でした」



「「「!?!?!?」」」


「どっ、どういうことダ!?」


 あんぐおーぐが叫ぶ。

 彼女以外のチームを組んでいるプレイヤーは全員、バラバラにベットしている。


 その、はずだった。

 だが結果はそうなっていない。


「……ふ、ふふっ、ふはははっ!」


 俺はようやく堪えていた笑いを解き放った。

 ”作戦”は成功した。



「悪いね、みんな。このゲームの勝者は――わたしだぁあああっ!」


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