閑話28『”賭け”ゲーム~ファイナルラウンド①~』


 全員、所持チップはたったの1枚。

 生きるか死ぬかのファイナルラウンドがはじまった。


「じゃあ、まずは順番にわたしと密談する……でいいですか? おーぐにわからないように、だれが何枚ベットするか調整しないといけないので」


「せやねー、それがええね」


 その提案にオルトロス系ライバーをはじめとした、全員が同意する。

 俺の作戦は順調に進行していた。


   *  *  *


「イロハサマ、ではワタシは何枚ベットをすればいいデスカ?」


 俺はVTuberたちと順番に、密談用のボイスチャンネルでふたりきりになっていた。

 現在はイリェーナの番。彼女の問いになるべく自然に答える。


「じゃあ、イリェーナちゃんは”4枚ベット”でお願い」


「了解しまシタ。間違えないようにしないといけまセンネ」


「そうだね。気をつけないと、間違えたら確実に被っちゃうわけだし」


「ウウっ、せっかく罰ゲームを回避できたノニ、そんなオチはゴメンデス」


「あはは」


「ちなミニ、イロハサマは何枚ベットされるのデスカ?」


「わたし? わたしは……”5枚ベット”だよ」


「そうなのデスネ。……フフフ! おーぐサンがいったい何枚ベットするノカ、ドキドキしまスネ!」


「そうだねー」


 チーム内でベット枚数が被ることはない。

 あんぐおーぐのベット枚数のみで、チームのだれが道連れになるかが決まる。


 ……そう、本来であれば・・・・・・


   *  *  *


「これで全員かな?」


 全員との密談を終えて、全体会話用のボイスチャンネルに戻ってくる。

 確認して……うん、大丈夫だな。


「はー、このゲームももう終わりなんやねー」


 オルトロスがしみじみとした様子で呟く。

 なんだかんだ、このゲームが終わるのが名残惜しいようだ。


「あはは。でも、まだあと数分やけど時間があるで」


「どうシマス? 雑談でもしマスカ?」


「あっ。それならわたし、ちょっとやりたいことがあって」


「どうかしたのカ、イロハ?」


「いや、じつはわたしみんなとは密談したけど、おーぐとだけは1回もしてないなーって。どう、おーぐ? せっかくだし、記念にちょっとだけふたりでおしゃべりしとく?」


「~~~~! すル、すル!」


「オルちゃん、オルちゃん……これ絶対アレやって! やっぱりこのふたり!」


「ち、ちがっ!? そんなんじゃないですから!?」


「せやで。そーゆーんはそぉーっとしといてあげんと」


「そういう意味でもないです!?」


「まったくデス! イロハサマとそういう関係なのはおーぐサンではナク、このワタシなノニ!」


「あーもう!? ますます、ややこしく!?」


「姉ぇ姉ぇ~、イロハちゃん。あの~、じつはお姉ちゃん姉ぇ~」


「あー姉ぇまで混ざらなくていいから!?」


「あっ、いや~。その、そうじゃなくって~」


「はいはい、わかったわかった。話ならおーぐとの密談が終わってから聞くから」


 俺にはまだこれから、やらなければならないことが待っている。

 そのために、今は1分1秒でも時間が惜しい。


 10分という時間はただ待つだけには長く、なにかをするにはあまりにも短い。

 そう思っていたら、あー姉ぇは「あっ!」と叫んで表情を明るくした。


「そっか~! イロハちゃん、やっぱりあとでいいや~! ていうか、べつにいいや~!」


「いやいや、どっちやねんっ!?」


 思わずサンボケふたりの関西弁が感染ってしまった。

 けどまぁ、自己解決したならそれでいいか。


「フッフッフ、というわけで悪いなオマエら。イロハはワタシのモノダ!」


「はぁ~。いいからおーぐ、さっさと密談用のボイスチャンネルに移動して」


 まったく、こいつらときたらいつもいつも。

 頬が熱い。俺は自分のにやけそうになる頬をぷにーっと引っ張って誤魔化した――。


   *  *  *


 ボイスチャンネルを切り替えて、軽く「あー、あー」とマイクチェックする。

 すぐに返事があった。


「ちゃんと聞こえてるゾー。これでふたりっきりだナ!」


「まぁ、べつに家ではだいたいそうだけどねー」


「イロハは風情がわかってないナー」


「これって風情の問題なの? まぁ、いいや。それよりじつはおーぐに伝えたいことがあって」


「うン? なんダ?」


「ねぇ、おーぐ……」



「――わたしたち一緒にお墓に入っろっか?」



「!?!?!? ななな、ソっ、それっテ!?」


「まぁ、『仲良く社会的に死のう』って意味だけど」


「び、ビックリしタ。そういう意味カ」


「それ以外にあるわけないでしょ?」


 たしかに、もし「一緒”の”墓に入ろう」だったら……。

 ゾンビであるあんぐおーぐにプロポーズするには、これ以上ないくらいぴったりなセリフだけれど。


 そんなの、伝えるつもりはないし。……今はまだ。

 当然、本当に”死ぬ”なんてのもお断り。


「本来ならおーぐの勝ちだったのに、イジワルして最下位にしちゃってゴメンね?」


「そんなことを気にしてたのカ?」


「……うん」


 俺はコクリとうなずいた。

 あんぐおーぐが「はぁ~」とわざとらしくため息を吐き、それから笑った。


「気にするナ、そこまで含めて”ゲーム”なんだかラ! それにワタシも楽しかったゾ!」


「ありがとう。でも、こういうのって卑怯なプレイヤーが最後に負けるのもお約束じゃない?」


「マぁ、それは一理あるガ」


「でしょ? それに、このファイナルラウンド。だれかひとり道連れにさせてあげるって説明したけど……じつはあれ、半分ウソなんだよね」


「エっ?」


「だって、本当はわたしがおーぐと”心中”するために作った方便だから」


「そうだったのカ!?」


「おーぐのこと、ひとりぼっちにはしないよ。わたしが一緒に罰ゲームを受けてあげる」


「……」


 あんぐおーぐはしばらく考え込んでいた。

 しかし、やがて諦めたように「ハァ~!」と叫んだ。


「あーもウ、ワタシの負け・・ダ! そこまで言うなら仕方なイ! イロハ、一緒に辱めを受けるカ!」


「ふたりならきっと恥も半分で済むよ」


「倍の間違いじゃないカ?」


「あははっ、そうかもね。じゃあ言うよ? わたしがベットしたのは……」


 俺はそう、あんぐおーぐにベット枚数を伝える。

 こうしてすべての準備は整った。俺の勝利条件がすべて揃った――!

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