閑話27『”賭け”ゲーム~第11ラウンド②~』


「”5人”チームだかラ? それはどういう意味ダ?」


「なぜなら、わたしたちはこれから毎ラウンド……全員のベット枚数をランダムに入れ替えるから」


「んナぁっ!?」


 もしふたりだけのチームであれば、あんぐおーぐの言うとおり被せることもできただろう。

 チームを組んでいないプレイヤーはプレ・コミットメント戦略で動くこととなり、必然的にある程度のベット枚数が推測できるから。


 しかし、5人チームの場合は話がちがう。

 どこにだれがベットするかは自由なのだ。つまり……。


「おーぐはわたしのチップがなくなるまで、1/5を……わたしがベットした場所を当て続けなくちゃいけない。さて、ここで算数の時間だよ」


「ウっ……!?」


「今回は平均値である”3枚”を基準に考えてみよっか。それでも5回連続で当て続けないと、わたしの所持チップはなくならない。つまりは1/5の5乗。さぁ、答えはいくつ?」


「えええ、えっト……5×5が35だかラ」


「25ね」


「い、言われなくてもわかってたシ! そのさらに5倍で……ひゃく、にひゃく? えーっト?」


「……ごめん、おーぐがめちゃくちゃ算数ニガテなの忘れてた」


「に、ニガテじゃないシ!? たダ、電卓で計算したほうが早いし確実だろーガ! ほラ、ポチポチっト……答えは1/3125だナ! っテ、1/3125ぃ~!?」


「それでおーぐ、どうする? わたしと……いや、わたしたちと勝負する? 一応、まだ0.03パーセントくらいはおーぐにも勝ち目は残ってるけど?」


「う、う……ウガ~~~~!?」


 あんぐおーぐの叫び声が響いた。

 それは実質の敗北宣言だった。


「というコトハ、イロハサマ……もしカシテ、ワタシタチが勝ったのデスカ!?」


「うおぉおおお! わてら、やったんや! 成し遂げたんや!」


「いやー、すごいわ。ほんまに、あの状況からでも逆転できるもんやねー」


「ふっふっふ! すべて、お姉ちゃんのおかげだ姉ぇ~! みんな感謝してもいいんだよっ☆」


 こ、こいつ……!?

 たしかにそのとおりなんだけどね!? 同時に、最大の障壁もあー姉ぇだったからな!?


 そんな、勝利ムードで和やかな空気が流れていたときだ。

 ポツリとひとつの呟きが聞こえた。


「……ズルい」


 あんぐおーぐがムス~っとしていた。

 彼女はダダをこねる子どもみたいに叫ぶ。


「ズルい、ズルい、ズルい~! 本当ならワタシの勝ちだったのニ! ワタシだけが罰ゲームだなんて納得がいかないゾ~!?」


 そのセリフにはみんなすこし、思うところがあったのだろう。

 「うっ」と怯んでいた。


「たしカニ。ちょット、おーぐサンには悪いことをしてしまった気がシマス」


「ふ~ん? なるほど姉ぇ~!」


「まぁ、べつにええんちゃう? おーぐはんに社会的に死んでもらお!」


「オルちゃん鬼か!?」


 ひとりSっ気を発揮している人がいたが、それはさておき。

 実際、複数人で袋叩きにしたようなものだしな。あんぐおーぐの言い分はもっとも。


 そして俺は、彼女ならそんな反応をするだろうとわかっていた・・・・・・

 彼女のことをだれよりも理解しているのは――俺だから。


「あっ、それなら……」


 俺は、さも今思いついたかのような口ぶりで言う。

 こぼれそうになる笑み・・を抑えながら。


 ずっとこの状況を狙っていたんだ。

 道のりは長かったが、ようやくこの描いていた絵図へと辿り着くことができた!


 そのために最下位になるリスクだって負った。しかしリターンに比べれば些細なもの!

 ここからが俺の……真の作戦だ!



「ねぇみんな、おーぐがかわいそうだし、もうひとり――”道連れ”を選ばせてあげない?」



「「「なっ!?」」」


「い、イロハはん!? なにゆーとるん!?」


「ほほウ? イロハ、詳しく聞かせてもらおうじゃないカ」


「やりかたは、こう……」


 まず、俺たちはわざと被るようにベットして、所持チップを調整する。

 そして、全員のチップを1枚で揃えるのだ。


 そのうえで、チームでそれぞれ1~5枚の各場所にベットを行う。

 あとは、あんぐおーぐがランダムに1ヶ所にベットして……。


「なるほド、それでだれかひとりを”道連れ”にできるわけカ」


「ちょい待ち、イロハはん。それ、所持チップ1枚やと”1枚ベット”しかできへんのちゃう?」


「たしかに、そうですね。ゲームマスターさん、これ最後……チップ枚数がマイナスになるまでベットできるようになりませんか?」


「言われてみると、そこのルールを事前に説明してませんでしたね」


 ルールではチップが『なくなったら』負けとなっている。

 チップが『0枚になったら』とは言っていない。


「ん~。では、全員の合意があれば構いませんよ。こういう熱い展開は大好物ですし!」


「ワタシは当然、乗るゾ! この勝負!」


「わ、ワタシも構いマセン。そもソモ、本来ならワタシが最下位でしたカラ」


「なんか、おもしろそうっ! お姉ちゃんも乗ーった!」


「わても構わへんで! あとはオルちゃんだけやな!」


「は~、もう! わかったわかった! 乗ればええんやろ! かなわへんわ、ほんま!」


「では全員、合意ということでよろしいですね? 所持チップについては、私のほうで調整してしまいます」


「助かります」


 本来の手順を姫殿下が省略してくれる。

 表示が書き換えられ……。


 ・所持チップ

  アネゴ  ……1枚

  イリーシャ……1枚

  イロハ  ……1枚

  おーぐ  ……1枚

  オルトロス……1枚

  錬丹術師 ……1枚


「では、これが正真正銘、最後の最後のデスマッチ。みなさん準備はいいですね? では、はじめますよ――ファイナルラウンド開始~っ!」


 そして最後の、長くて短い10分間がはじまった――!

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