閑話26『”賭け”ゲーム~第11ラウンド①~』

「バカアネゴっ、2度目はないからナ!? そんなことしたラ、マイナス5枚でオマエの所持チップはたったの12枚。最下位になって負け確定するのはアネゴのほうだからナ!?」


「あはは、大丈夫大丈夫っ☆」


「全然、大丈夫じゃなーイ!?」


 あー姉ぇの”うっかり”であんぐおーぐのチップが減る。

 それ以上にあー姉ぇのチップ枚数が落ち込んでいたが、彼女は能天気に笑っていた。


「クソっ、ワタシもうっかり・・・・してたゾ。この必勝法は全員が最適な行動を取る前提ダ。けド、アネゴならそういうイレギュラーな事故を起こすことだってあるカ」


「まぁ、あー姉ぇだからね~」


「ハぁ、そうだナ……チップ枚数に余裕があるタイミングで助かったゾ」


 あんぐおーぐはそう嘆息しながらも、納得していた。

 だって「アネゴのことだから」「いつものことだから」と。


「おかげでイロハたちとたったの1枚差ダ。マぁ、それでもワタシはまだ1位だシ? さすがにこんな事故も2度は起こらないだろうけどナ!」


「では、次のラウンドに移ります」


 そんな”トラブル”に見舞われた第10ラウンドが終わり、第11ラウンドがはじまる。

 開始からほんの2、3分後。姫殿下が告げた。


「全員のベットが確認できました」


「ン? 今回は早いナ。マぁ、ワタシの勝ちがそれだけ早く近づくわけだシ、助かるガ」


「では、結果を発表します!」


「今度こソ、最下位のふたりが被っテ……」


 ・ベット枚数

  1枚:アネゴ

  2枚:イリーシャ

  3枚:錬丹術師

  4枚:オルトロス

  5枚:イロハ、おーぐ


「……は、ハぁあああ~!? ななな、なんでまたワタシのベット枚数が被ってるんダ~!? イロハ、どうしてオマエが”5枚ベット”してル~!?」


「あれー? わたし、ベット枚数を打ち間違えて送っちゃったかなー?」


「絶対にウソだ!? というカ、こんなことしたラ……」


「それにより現在の所持チップは以下のようになりました」


 ・所持チップ

  オルトロス……19枚

  アネゴ  ……16枚

  錬丹術師 ……16枚

  イリーシャ……15枚

  おーぐ  ……15枚

  イロハ  ……14枚


「イロハ、オマエが……最下位になるんだゾ!?」


「あははー、ツイてないねー」


「んな薄いリアクションがあるカっ!? いったいなんダ!? なにが起きてル!? なにを考えてル!? ……ハッ!? 待てヨ? なんでさっきのラウンドといイ、被ったのがワタシだけなんダ!?」


「ほーん、さすがおーぐはんやわ。必勝法を見つけただけありはる。気づくの早いわー」


「ま、まさかオマエら!?」


「そのとおり! わてらは5人で――チームを組んだんや!」


「な……ナぁあああ!?」


 俺たちは5人でチームを組み、ローテーションで1~5枚すべてにベットしていたのだ。

 それによって順番に”5枚ベット”を行うこととなる。すると、どうだろう?


 俺たちはひとりあたり・・・・・5枚のチップが減る。

 一方で、あんぐおーぐはというと……。


「わ、ワタシだけ毎ラウンド5枚ずつチップが減っていク!? そ、そんなのさすがに耐えられないゾ!?」


「そういうこと。たしかに”個人”ではおーぐが1番多くチップを持ってる。けど、ほかのメンバーが協力すれば……チップの枚数を合わせれば・・・・・、それを上回ることができるの」


「そ、そんな方法ガ!?」


 これこそが俺の用意していた、あんぐおーぐを倒すための”秘策”だ。

 と同時に、俺が必勝法……”プレ・コミットメント”戦略を使えなかった理由でもある。


 じつは、俺が必勝法を使おうと思ったタイミングには最下位がふたり・・・いたのだ。

 つまり、合法的に協力して反撃される可能性があった。


 もちろん、それにはふたりがお互いを裏切らないという確証が必要だが。

 だって、先に1位に被せた側は一時的に単独最下位となる。もし、もう片方は裏切れば……。


「ま、待テ! でモ、まだ納得のできないことがあル! それハ……アネゴの存在ダ! こんなに複雑な作戦、アネゴが簡単に理解できるハズがなイ! そのことはイロハ自身が言ったんじゃないカ!」


「そのとおり。だからわたしは……」



「――”3ラウンド”使ってあー姉ぇに理解させた」



「ナっ!? さ、3ラウンドぉ!? どこにそんな時間ガ……ハっ!? ま、まさかあのときカ!?」


 俺とあー姉ぇは『必勝法について説明する』という名目で、密談をしていたことがある。

 それが第6~8ラウンド目。まさにあんぐおーぐが「ベットが遅い!」と不満を言っていた時間だ。


「それによってあー姉ぇもようやく理解してくれた……いや、本当に疲れた。途中で心が折れかけた。泣きそうだった。ここまで大変だなんて思ってなかった」


「イロハちゃん、もぉ~そんなに褒めてもなんにも出ないよっ☆! そこまでお姉ちゃんの”ずのー”に感動しなくてもいいのに姉ぇ~?」


「……うぅ~~~~っ!」


「い、イロハはん、ほんまにお疲れさまやで」


「ケド、それこそがイロハサマの言っていたおーぐサンを倒すための”準備”だったわけデスネ」


 この『”賭けベット”ゲーム』において重要なのは時間。

 そんな俺の直感は正しかったわけだ。


 まぁ、こういう意味で重要になるとは思ってもみなかったけど。

 いやほんと、べつの意味であってほしかった。


 あー姉ぇに理解させたあとは、みんなと順番に密談して作戦を説明し……。

 そして、今へと至るわけだ。


「い、いヤ……まだダ! まだ終わってなイ!」


「へぇ~、まだ諦めないんだ?」


「当然ダ! たしかにワタシが次も”5枚ベット”したラ、被せられて最下位にまで転落すル。だガ、現状の最下位はまだイロハだ。つまリ、逆にワタシがイロハに被せれバ勝てル!」


「おーぐ、残念だけどそれはほぼ不可能だよ」


「なぜダ!?」


「それは……わたしたちが”5人”のチームだから」


 あんぐおーぐにそう告げる。

 ついに、この『”賭けベット”ゲーム』の敗者が決まろうとしていた――!


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